>--scene.04:夢だと思いたかったけど--<
アスランは予定より少し遅れて基地に帰還した。 その間もキラはシンに結局会えていない。 レイの話によると 最近はじっとしているのにも飽きて部屋で筋トレを始めたという。 元気そうなのにはほっとしたけれど、シンはキラを許してくれなかった。 あんなに懐いてくれていた後輩のそんな態度に少なからず傷つきはするけれど。真っすぐな彼 が今からのことを知れば、もっと嫌われるかもしれないなぁなんて思う。 でも一度許してまた絶望されるよりはマシなのかもしれない。 我ながら本当に最低だ。 「―――呼んでるぞ。」 「へ?」 隣のイザークに指摘されて自分の思考から戻ってきたキラは、慌てて思考を切り換えると顔を 上げる。 そこには彼の言う通り、シャトルから降りてこちらに手を振るアスランの姿があった。 アスランは変わらない。 何も知らない彼が1週間そこらで変わるはずがないけれど。 キラの中では変わり過ぎていたから、彼の姿を見るだけでもひどく懐かしく感じてしまう。 「キラ」 幼い頃から変わらない響きの甘さも優しさも。 その声で名前を呼ばれる切なさに、泣きそうになる自分を抑え込んだ。 彼は選ばれたヒト、光の中を歩くヒト その存在が眩しすぎて遠い 彼と自分は住む世界が違うのだ、きっと そんな自分は彼には相応しくないのだと… ある意味では諦めがついてちょうど良かった。 「ただいま。」 一直線にキラのところにやってきた彼は キラ専用の笑顔で言葉を紡ぐ。 「うん、おかえり。お疲れさま。」 答えた自分はちゃんと笑えていただろうか。 行く時と同じように アスランは頬にキスをくれたから、どうやら気づかれてはいないらしい けれど。 でも、いつも当たり前に受けていたそれが今はキラの中の罪悪感を煽る。 彼はこんなに愛してくれるのに、キラはその彼を裏切ったのだ。 きっとキラはもうすぐこの熱を失う。 近づく"時"に 胸が強く痛んだ。 「何か変わったことは?」 垣間見せた甘さを消して隊長の顔に戻ったアスランが2人に問う。 「―――ひとつだけ。シンが今自室謹慎中なんだけど…」 「シンが?」 言いにくそうにキラが答えると、当然だが怪訝な顔で問い返された。 シンは無茶はするが規律違反になるようなことは―――たまにはするが―――、さすがに謹慎 処分になるほどのことはしない。 素直ではないけれど、根は真っすぐで曲がったことは大嫌いな性格だから。 思い当たる節がない様子のアスランに イザークが口を挟んだ。 「俺の権限だ。詳しいことは後で話す。」 つまりはここでは言いにくいのだと。 言わずとも納得したアスランは軽く首肯する。 「分かった。じゃあ キ―――」 「キラ。」 アスランが腰を引き寄せる前に、浚うようにイザークがキラの肩を抱いて背を向けた。 キラが驚いていると 彼は周りに聞こえないほどの小声で囁く。 「貴様は部屋で休んでいろ。この後は何もないんだろう?」 「え、でも」 言わなければならないことがある。自分から彼に。 そう言おうとしたけれど、言う前に彼に止められた。 「シンのことは俺が言う。貴様は休んでろ。」 「……ハイ。」 有無を言わさぬその口調。そこまで強く言われてしまってはキラも折れるしかない。 彼の言葉はいつもキラのためなのだから。 「何の真似だ?」 嫉妬心剥き出しでこちらを睨むアスランの鋭い視線をイザークは何でもないように平然と受け 止めた。 相手を縮こまらせてしまうほどのそれも、長年のライバルであるイザークには通じない。 「2人で話したいと言ったんだ。とりあえずこっちに来い。」 彼の言葉を肯定する意味でキラも行ってらっしゃいと手を振る。 答えを待たず歩きだす彼を1度見て、振り返ってキラを見て。 言う通りにする方が良いと判断したらしいアスランは 後でと告げてイザークと一緒に行って しまった。 時がまたひとつ進む そして終わりはすぐそこにきていた →scene.04:side.Bへ← --------------------------------------------------------------------- 幕間の話なので短めに。 side.Bはアスランとイザークの会話。