>--scene.03:side.B--<
「嬉しそうですわね。」 咎めるでもなく言うラクスの手にはピンク色をしたワインが入ったグラス。 今夜の食事はホテルの最上階に設けられたレストランだった。 本国に戻ってきて彼女と食事をしたのはこれで何度目か。 いい加減互いにうんざりしているが、こればかりは自分達の意志ではどうにもできない。 今回もまた周りの画策によって空いた時間のほとんどを彼女と一緒に過ごさねばならなかった のだ。 ―――でも それも今日まで。 もうすぐ会える 愛しい恋人を思い浮かべて笑んでいると、既に心得ている彼女からの指摘が 入った。 もちろん それでどう思うわけでもないけれど。 「当然です。明日にはキラのもとへ帰れるんですから。」 「…本当に アスランはキラしか見ていませんのね。」 呆れた顔で言われるのは心外だが、言われたことは否定しない。 キラ以外を見るつもりなど毛頭ない。 手に入れてしまってからはさらに。彼女に対する執着心は日増しに強くなるばかりだ。 この思いを彼女が知れば、強すぎる思いに怖がってしまうのではないかというくらいに。 「貴方が羨ましいですわ。私には貴方のように強く想う相手もおりませんから。」 褒めているのか貶しているのかいまいち不明だが。言葉自体には偽りはないのだろう。 生涯彼女ただ一人だと、そう思える人がいるのは確かに幸せだと思う。 相手もそれに応えてくれれば尚更。 彼女はその気持ちを知らないという。それはなんて勿体ないことだろう。 「……正直に言ってしまえば、私は貴方との結婚に異存はなかったのですわ。」 「ラクス…?」 突然何を言い出すのかと思えば、酔った上の戯れ言だと彼女は答えた。 「それが人々の希望になるのなら、と。ずっとそう思っていたのですけれど…」 過去を思い起こして彼女は淡く笑む。 それは慈愛に満ちた母のような、年よりも随分と大人びた顔だった。 「けれど、キラに嫌われてまで争いたいとは思いませんでした。」 イザークと同じように ラクスもまたずっと2人を見守ってきた者。 互いの想いを知っている彼女はそれを邪魔をしようなどとは思わなかった。 幸い彼に対する想いは恋にならなかったけれど。もし恋をしたとしても結果は同じだったかも しれない。 2人の仲を裂こうなんて、2人を見ていたら思えるはずがなかったから。 「私達の関係は2年前に終わっています。…いえ、最初からなかったと同じですわね。」 元々恋人同士だった2人の間に割り込んできたのはラクスの方だ。 …厳密に言えばまだ付き合ってはいなかったが、互いの気持ちを確認をしていなかっただけで 関係自体は既に似たようなものだった。 婚約がなければキラに要らぬ苦労をかけることもなかったのだが、婚約がなければ完全に手に 入らなかったのも事実。 そういう部分では感謝はする。だが、その必要性はもうない。 「私の方はいつでも構いませんわ。」 いつものようにラクスはにこりと微笑む。 「婚約解消の時期はアスランがお決めください。」 彼女と会う機会を多く持てたことはある意味では幸運だった。 話は思うように進み、後は時期を待つだけ。 「分かりました。…そろそろ、できるはずなんですけどね。」 「まぁ。」 目をぱちくりさせる彼女にアスランはふっと笑い返す。 「これ以上は俺の方が待ち切れなくて。」 この先のことを考えて、含みのある笑みはさらに深くなった。 ―――だが。 その時の俺は知らなかった。 キラの身に起こったことも、そしてキラが動き出していたことさえも。 戻った時にはもう 手遅れになっていた―――… →scene.04へ← --------------------------------------------------------------------- イザークとキラまでもあんなことやっちゃってる状況で 優雅にラクスとディナーしてるアスランが不憫でならない…っ(涙) いや、aとbの間には結構日にちの開きがありますけど。 まぁそんなわけで次回は隊長のご帰還です。