>--scene.02:side.B--<
「…シンが部屋に戻って来ない?」 「はい。」 レイからの報告を受け、イザークはシンを探しに出ていた。 本来なら放っておけと気にも止めないところだが、シンの様子がおかしかったことと 嫌な予 感がすることをレイに聞かされて。 一応念のためだった。 「しかし…こんな時間にどこに行くというんだ?」 夜勤の者を除けばほとんどが休息を命じられている時間だ。 行く場所は限られているはずなのに 今のところ全てハズレ。 「…仕方ない、キラにも聞いてみるか。」 早く休めと言ったのは自分だが、彼女はシンの直接の上司。関係ないとは言えない。 もう寝ているかもしれないと思いつつ イザークはレイと共にキラの部屋を訪れた。 そしてイザークは 彼女を呼び出そうと部屋の扉横のパネルに手を伸ばし、 「…?」 直前でその手を止めた。 部屋の中で微かな物音がする。 寝ているならするはずのない声も。 キラが部屋で誰かと話してでもいるのだろうか―――…? 『…やっ…… シ…ン…… も…ッ』 「―――!?」 頭が理解するより早く 咄嗟に押した開閉ボタンはロックに弾かれる。 舌打ちして迷わず隊長専用の特殊パスを打ち込むと 今度は簡単に開いた。 艦のいわゆるマスターキーの役割を果たす10桁の特殊なパス。 本来ならアスランと艦長しか知らないはずのものをイザークに教えたのは彼への信頼による。 原則使用不可だが、今回彼は緊急だと判断した。 「キラ!?」 「…イザ… ク……?」 暗い部屋の中から聞こえた 掠れた声の方を弾き見る。 通路から差し込む光で見えた 彼女の泣き濡れた顔とあらわになった白い足。 目の前の光景が何を表しているか なんて、本当は信じたくもない。 だが事実であることには変わりなく、次第に怒りが沸いてくる。 そして彼女を組み敷いたまま軽く睨んでいる男と目が合った瞬間に、頭に血がのぼって我を忘 れた。 「―――! 貴様…っ!!」 感情のままに殴った相手は たいした抵抗も見せずに勢いよく殴り飛ばされる。 それにそれ以上怒鳴る気力を殺がれたが、それも一瞬のこと。 足元に座り込んで切れた口の端を拭ったそいつはさっきと同じ目でこちらを睨み上げてきた。 「イザーク! 止めて!」 もう一度振り上げた拳を止めたのはキラの声。 「お願い… 止めて……」 声は嗄れ、髪は乱れ、泣き過ぎて目は真っ赤だというのに。そんな姿になってまでシンを庇お うとするキラはどこまでお人好しなのか。 しかし、当のキラにそう言われてしまっては イザークも何も言うことはできなかった。 「……服を着ろ。」 怒りをどうにか押さえ込んで、シンにはそれだけを告げる。 そしてずっと部屋の入り口に黙って立っていたレイの方を振り返った。 「レイ。このバカを部屋にぶちこんでおけ。話は後で聞く。」 「ハッ!」 この場にいたのがレイで良かったと思う。 彼は必要以上は何も言うことなく シンを連れて部屋を出て行った。 「キラ、大丈夫か?」 シンが忘れ物だと置いていった鍵ですぐに手錠は外した。 擦れて赤くなってしまった手首が痛々しかったが、それよりも憔悴しきった彼女の顔を見るの がつらい。 よほどショックだったのだろう。 あれほど可愛がっていた後輩からあんな仕打ちを受けたのだから。 「…シャワーを浴びて来い。」 他に言う言葉が見つからない。慰めの言葉も浮かんでこない。 脱いだ上着を頭から被せて それだけ言うのがやっとだった。 「―――…どう しよう…… アスランに何て言おう……」 その行為がスイッチだったのか、彼女の口から言葉が漏れる。 …それは応えを必要としない独り言だったのだが。 上着のおかげで表情は分からないが、震えているのは嫌でも分かった。 「こんなこと、アスランが知ったら…」 「キラ……」 そこで彼女を抱きしめてしまったのは衝動だ。 当分男に触れられたくはなかっただろうが他に浮かばなかった。 強ばる彼女の身体を安心させるように、子供をあやす仕草で優しく背を叩く。 「大丈夫だ。俺は受け入れるから。」 イザークの言葉をキラがどう受け取ったのかは分からない。 ぽろぽろと泣き出して戻れないと嘆く彼女をさらに強い力で抱き寄せた。 そして怒りは別の方へと向く。 どうしてこういう時に限って 傍にいないんだ、貴様は―――! →scene.03へ← --------------------------------------------------------------------- 次はキラとイザークのナニです。…なんかもうすみませんって感じで……