36話パロ(シリアスside)




「―――アスランなら、ここが分かると思っていました。」

 朽ち果てたホールの真ん中に佇んでいたラクスが微笑みかける。
 相手を睨み据えたまま、アスランもステージに上がり 正面から彼と向かい合った。

「私が白薔薇の王子、貴方が赤薔薇の王子。懐かしい場所でしょう?」
 本当に懐かしそうに目を細めて 彼はそう言うけれど。
 アスランの心情はそれどころではない。

「ラクス。」
「はい?」
「どういうつもりだ?」
 アスランは警戒心も露に手に持っていた銃をラクスへと向けた。
 しかし 彼の方は全く動じない。

「何故あんな馬鹿なことをした。スパイを手引きするなんて… 今やお前は国家反逆罪の逃亡犯
 だぞ?」

 友に銃を向けることなど、もう2度としたくなかったのに。
 キラだけで十分だ。あんな思いをするなんてこと。

 でも今、自分はラクスへと銃を向けている。
 その事実が痛い。折れた腕の痛みよりもずっと。

「スパイの手引きなんてしてませんよ。キラに渡しただけです。」
「!?」

 彼の口から漏れた、それはあり得ないはずのよく知る名前。
 信じられないと アスランの表情が驚愕に染まった。

「…キ、ラ…? 何を馬鹿な… あいつは……」
「貴方が殺しましたか?」
「っっ!」
 真っすぐに向けられる言葉は胸の傷を抉る。
 幼馴染に手をかけた、それは紛れもない事実で。
 未だに引き摺ったままだったのだ。

「大丈夫です。キラは生きています。」
 言って 彼はふわりと笑った。
「キラが地球に戻りたいと、戦うべきものが分かった気がするからと言うので。あれはキラが
 持つのにふさわしい、だから渡しました。」
 軍から機体を奪取したことなど まるで大したことないかのように。
 ラクスはあっさりと言い放つ。
 驚くしかないアスランに今度は厳しい表情を向けた。
「アスランが信じて戦うものは何ですか? ……ザフトにいるならば キラは再び貴方の敵とな
 るかもしれません。―――そして私も。」
「ラクス!?」

 彼はすでに決意している。
 その為なら アスランと敵対することも厭わないと。


「いつまでそんな所にいる気ですか、貴方は。」
 銃を向けられているにもかかわらず、彼はアスランに歩み寄る。
「敵だというならその引き金を引きなさい。…もっとも、私も死ぬわけにはいきませんが。」
 ラクスも懐から銃を取り出す。

 しかし、それを向けた先はアスランではなく…


「―――案内ありがとうございます。」

 客席側のドアから 銃を構えた黒いスーツの男達が入ってくる。
 その中のリーダーらしき男が1番前に歩み出て、ラクスへと銃口を向けたままアスランに言っ
 た。

「尾けられましたね、アスラン。」
 ラクスに驚いた様子がないのは、予想の範囲内だったからだろうか。
 しかし、アスランの方は驚きを隠すことができなかった。
「どういうコトだ…っ!?」
 こんなこと 聞かされていなかった。
 すなわち 父は自分を信用していなかったのだ。
 確かに軍人としては的確な判断だ。
 しかし、実の息子さえ疑っていた父の判断には アスランも少なからずショックを受けた。
「これでも父親を信じるならそれも良いでしょう。貴方の好きにしなさい。」


「別れの挨拶はお済みですか?」
「…別れ?」
 男の言葉をラクスは一笑する。
「冗談じゃありませんよ。私には待っている女性がいるんですから。」

 そして、1発目の銃声がホールに響いた。





 ―銃撃戦カット―





「―――伊達に紅出身じゃありませんって。」
 息一つ切らさず軽く笑って呟くと、何故か加勢したアスランを振り返る。
「決まりましたか?」
「……」
 アスランは否定も肯定もしない。
 けれど、その表情を見たラクスは心中を察したようだった。
「キラは地球です。守りたいなら早く行って下さい。」
「…お前は?」
「私はまだやることがあるんです。じゃなかったらキラを一人で行かせたりしませんよ。」


「ラクス様。」
 迎えらしき 軍服の男がステージに上がってくる。
 すぐに行くと告げてから、彼はもう1度アスランの方を見た。

「では、アスラン。次に会うときは敵じゃないと良いですね。」
 敵だった時は容赦はしないと、言外に告げて。
 立ち尽くしたアスランに背を向け ラクスは去っていった。








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ラクス様はアカデミー卒業です。総合成績は2番でした。
赤薔薇の王子と白薔薇の王子の話は学生編に纏めて書きたい…(ちゃんと話があるのです)



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