選んだ道の先 −≪29≫
「キラ!」
開いた扉から滑り込むように アスランが部屋の中に駆け込んできた。
走って乱れた髪も気にせず、壁に手を付き 呼吸を整える。
「…そんなに慌ててどうかしたのかね?」
おやおやと。
驚いた様子もなく、クルーゼは後ろの扉を振り向く。
アスランはそこで初めてクルーゼの存在に気づき、慌てて足を揃えて敬礼をとった。
「あの、隊長が何故こちらに…?」
呼吸が整い、冷えてきた頭でふと浮かんだ疑問を投げかける。
よく考えれば変な組み合わせだ。
今まで1度もキラに会わなかった隊長が何故今ここにいるのか。
「ディアッカには会わなかったのかね?」
「あ、すみません。まだ… その、何か…?」
その言葉は意外だったのか、クルーゼは少し考えるような仕種を見せ。
けれどすぐに 元の読めない穏やかな笑みへと戻した。
「おめでとう アスラン。」
ある意味皮肉とも取れそうな 柔らかな声で言うと、彼はアスランの方へ向かう。
「君の望みが叶ったそうだ。ラクス嬢に感謝するのだな。」
「! じゃあキラは…」
パッと顔を上げるとクルーゼが口元に笑みを浮かべる。
そして肩にポンと手を置いて軽く頷いた。
「詳しいことは後で話そう。彼はどうも信じられないようだから 君から事情でも話してあげると
良い。」
「隊長…」
頑張りたまえと一言残して彼は部屋を去り。
そして、残されたのは2人。
「…キラ…?」
クルーゼと入れ替わったアスランは伺うようにしながらキラへと近づく。
キラは、何かに耐えるように俯いて肩を震わせていた。
「キ…」
「ねぇ、どうして?」
低く押さえられた声。
感情を殺した、冷たい声音。
触れようとしたアスランの手がビクリとして止まる。
「どうして僕の邪魔をするの。」
キラが望んでいることは分かっていた。
でも。
俺は前にも言ったはずだ。
俺にだって譲れないものがある。
「…お前に生きていて欲しいから。」
それが正直な気持ちだ。
「どうしても 死なせたくなかったんだ。」
「止めてよ!」
耐え切れないといった風にキラが耳を塞いで頭を抱え込む。
「僕は君なんて要らない! いい加減にしてよ!!」
なんて悲痛な声だろう。
気持ちに気づいているからこそ余計に痛い。
「僕を解放させてよ!!」
キラは泣いていない。
でも、声は泣いているようだった。
「無理だよ、キラ…」
ひとつ呟いて。
塞いだ耳はキラの唯一の砦。
その手を掴んで耳から引き剥がす。
…声を、届ける為に。
「―――それでも。俺はお前を離せない。」
「っっ!!」
ビクリと、大きくキラの肩が跳ねた。
「あ…っ」
「俺は―――」
「っ嫌だ…っ!!」
それ以上聞きたくないと、キラがアスランの腕を振り払って。
なおもその手を取ろうとするアスランに、咄嗟に掴んだ枕を投げつけた。
「キラ!?」
柔かい痛みと眩んだ世界。
一瞬塞がれた視界を アスランが再び取り戻した時、
「…!?」
見た光景に アスランは目を疑った。
キラの足が ベッドから床についていた。
さらに腕で勢いをつけて立ち上がる。
まるでスローモーションでも見ているようだった。
身体がベッドから離れ、キラの身体に勢いがつく。
そのキラが向かう先は、唯一外へと繋がる場所。
鍵は今開いている。
「! キラ!」
ハッとして アスランは制止の声をあげる。
油断していた。
キラは立ち上がれないものだとばかり思っていたから。
外へ出ること。
それはすなわち脱走と同意。
そして、死と同義のこと。
「待て! キラ!!」
急いでアスランもまた枕をベッドに放り投げて走る。
「止めろ!」
「っ」
キラの手が、扉横のパネルへと伸ばされた。
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管:あ、そっか。アスランは立てたこと知らないんだよね。
ア:寝ているときに歩かれても知るはずがないだろう。(22話)
管:なんだかな、よね。
ア:何が?
管:アレだけ告られて気づいていないキラが。
ア:鈍いからな。
管:それだけじゃ説明できないほど徹底してるよね。何かした?
ア:何かってわけでもないが… 前からそういうことは頻繁に言ってたしな。
管:あぁ。耐性できちゃってんのか。
ア:一応本気だったんだけど。いつも冗談に取られたりしてまともに伝わったことはなかったな。
管:それで君はキラの気持ちの方には気づいてるわけ?
ア:なんとなくは。そう考えると行動に納得がいく。
管:おや、キラ君ったら何赤面してんの?
キ:いや、だって、知ってって…!
管:知ってちゃダメなの?
キ:そう、いうワケじゃ… でも、ええっ!?
管:おやまぁ。可愛いことv(笑顔)
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