選んだ道の先 −≪28≫
突然入ってきたその人に、キラは何の感情もなく視線を投げる。
アスラン達とは違う白い隊服に、波打つ髪の色は金。
そして 表情の読み取れない仮面。
背の高さはあの人と同じくらいかと、同じ金髪だった一回りも年上の人を思い浮かべて。
…ただそれだけで、興味が失せたように視線を暗い闇へと戻した。
彼が何者であろうと関係ない。
興味がなかった。
その失礼とも取れる態度に怒ることなく、彼はベッドの傍まで来て足を止める。
「何を言いに来たか、分かるかね?」
「…ええ。」
話しかけても 聞いているのかも怪しいほど適当な返答。
窓に映り込む2つの姿は、それを介してさえ視線が交わることはなかった。
「―――君の処遇が決まった。」
「そうですか。」
それすらも やはりどうでも良いことのように答える。
どうせ結果は分かり切っているのだ。
今更聞く必要もない。
「…とうとう、首を縦には振ってくれなかったな。」
困ったように、少し呆れが混じったように言われた。
本気で残念だと思っているかは疑問が残るけれど。
「敵であったはず君を、私は最高の待遇で迎え入れると申し出た。魅力的だとは思わなかったの
かね?」
「―――いえ。」
最高の待遇が何だろう。
そんなもの、自分にとっては何の価値もない。
自分の価値なんてなおさら。
迎え入れて、それで何の得になるのだろう。
「全ての罪を無いことにし、アスランの隣にいられて。それで何が不満かね?」
どこかからかうような声。
けれどキラの態度は変わらない。落ち着いたままだ。
「―――そうですね。とても良いことのように聞こえます。」
それが普通の人ならば。
死にたくないと思うならば、なんて甘い誘いだろうと思う。
犯した罪を償う必要もなく、最も大切な人の傍にいることができる。
同じ立場で、同じ場所で。今度は彼と共に歩める。
それはこれ以上にない幸せなことだろう。
「でも、もし僕が受け入れてザフトに入ったとしても。…僕はきっと役に立たないでしょう。」
「何故そう思う?」
「貴方が僕にどんな価値を見出したのかは知りませんが… 貴方が望むようなことを僕は何一つ
出来ないでしょうから。」
僕はもう誰も殺さない。
銃口を向けられたら、僕は腕を広げてそれを受けるだろう。
殺すくらいなら殺される道を。僕は選ぶ。
「君にはいてもらうだけでも良いのだよ。」
楽しげに 小さく笑う声が聞こえた。
「君がここにいれば アスランに躊躇うものはもう無い。」
アスランが?
その言葉に今度はキラがククッと笑う。
「それこそ無駄です。僕は彼を切り捨てましたから。」
自分の言葉にずきりと胸が痛む。
けれどそれがどうしたことだろう。
分かっていて、選んだ道だ。
アスランはもうここにいない。
僕は1人だ。
あと求めるものはひとつ。
「僕は死に場所を求めています。できるだけ早くいなくなりたい。」
それがもうすぐ叶う。
それさえ叶えば僕はもう自由だ。
誰にも、これ以上迷惑をかけることもない。
アスランもまた、余計な足枷から逃れることができる。
それで、みんな幸せになれる。
「―――では、この決定は君にとってはあまり嬉しいことではないかもしれんな。」
「え…?」
完全に呆れられたと思ったのに。
相手の方が上手だったか、彼は余裕を持たせたままだ。
「君は 最高評議会に保護されることになった。」
「!?」
その時初めて、キラの身体が大きく反応した。
聞き取った単語に感じたのは大きな違和感。
今 この人は"保護"と言ったのだろうか。
「監視付ではあるが、与えられた屋敷から出なければ君は生涯の安全と保障を約束される。」
「な、にを…」
ゆっくりと顔を彼へと向ける。
その表情は間抜けなほど呆然としていただろう。
けれどあまり気にはしなかった。それよりも衝撃の方が強くて。
この人は何を言っているんだろう。
僕は死ぬはずじゃなかったのだろうか?
「ラクス嬢が君を弁護してね。最高評議会は君を戦争の被害者であると認めたそうだ。」
ふわりと浮くピンクの髪がキラの脳裏を掠める。
かつて 僅かの間言葉を交わしたアスランの婚約者の少女。
アスランを幸せにできるであろう、歌姫の彼女。
「ラクス、さんが? どうして…」
困惑を拭い去れない。
分かるのは 見えないところで何かが動いていたということ。
「私は詳しくは聞いていない。…あぁ、そういえば。連名としてアスラン達も名を上げていた。」
「!」
「どうあっても君を助けたかったようだ。」
他にも様々 私に隠れてやっていたようだ、と。
特に気にした風もなく言う。
―――何故!?
キラの頭を埋め尽くしたのはその言葉だった。
アスランを切り捨てて 裏切って。
僕は1人で逝くはずだったんだ。
何も残らないように。
君に何も残さないように。
そう思って。
だから。
だから僕は…
全ては君の為だったのに!
なのにどうして…!?
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管:てかさ。何でそこまでして仲間にしたがったわけ?
クルーゼ(以下ク):彼の戦闘能力を買っただけなのだがね。
管:本当?(胡散臭げ)
ク:彼がいればアスランは躊躇い無く地球軍と戦えるとも考えたが。
管:まぁそのくらいにしておくよ。
ク:ところでキラ君。私を見て誰を思い出していた?
キ:え? フラガ少佐ですけど…
ク:私と彼は似ているかね?
キ:最初はそう思いましたけど。雰囲気とか… でも少佐の方がおちゃらけた感じなので今はそんなに。
ク:ほほぉ。(遠くを見やって笑み)
キ:……!!?(後退り)
管:クルーゼ隊長も変な人だったか…(溜め息)
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