選んだ道の先 −≪27≫
「聞こえてたんでしょうか? 折角イザークが良いことを言ったのに。」
呆気にとられていたはずのニコルが、今の会話で事情を察したのか落ち着いた様子で笑いかける。
立ち上がりかけていた腰は既に元のように深く降ろされていて。
「…聞こえていた方が気持ち悪い。」
言い捨てて、イザークも今までアスランが座っていたソファにどかりと座った。
「素直じゃないですね。」
「煩い。」
勝手にすれば良い。
結局あいつらは2人だけの世界にいる。
俺が―――… 他の誰かが入り込める場所じゃない。
互いが大切で、大切すぎて周りが見えていない。
それが相手の気持ちであってさえ。
守ろうと思えば思うほど見失っていく。
だから。
互いしか見えていないくせに 互いに離れようとする。
見ている方がイライラして胃に穴でも開きそうだ。
…そんな奴らに これ以上付き合ってられるか。
「痴話喧嘩に巻き込まれるなんて冗談じゃないな。」
俺は 錯覚するほど冷静さを欠いているわけではない。
この想いを自覚はしていても奴ほどは熱くなれない。
だが、中途半端だからこそ、今の状態は生殺しに近く。
あの2人のおかげで 俺の方がユーリに心配されてしまっている。
できればこんな状態からは早く解放されたいんだ。
「…損な役回りですよね。」
言って、フフとニコルが笑う。
読まれたのかと思った。
すましているニコルに心の内を悟られないよう じろりと睨みつける。
「何のことだ。」
「さぁ。何でしょう?」
…思っていた以上にニコルは周りを洞察する能力が高かったようだ。
喰えない笑顔で切り返され、これ以上は逆に追求されかねないので止めておいた。
「あれ? アスランは?」
シュンという音と共に、聞き慣れた声が入ってくる。
彼はきょろきょろ辺りを見回しつつ、2人のいるソファへとやってきた。
「ディアッカ。何かあったんですか?」
「さっきそこで隊長に呼び止められてな、…結果、聞いてきたんだが。」
何の、とは愚問だ。
そしてアスランに となれば他にあるはずもない。
「アスランならキラさんの所に行きましたよ。」
「あいかわらずマメだねぇ。」
茶化すように言って、じゃあ良いかと自分もソファに座り込む。
「え? 良いんですか?」
「キラの所に行ったんだろ? ならアイツも隊長から聞くだろうさ。」
それはつまり。
「って!? まさか隊長がキラさんの所に!?」
ガタンッ
驚いてニコルが立ち上がり、その勢いでカップがテーブルの上を転がる。
中身は入っていなかったから それはただ弧を描いただけで下へと落ちた。
「そんなに驚くことか?」
すっかり寛いで深く沈みこむ体勢だったディアッカは、ニコルのその勢いに圧され、少々ギョッと
しながら問い返す。
「今 彼の精神状態はギリギリなんですよ!? そんなことをアスラン以外の人間から聞いたらどう
なるかっっ」
ニコルもさっきの話は聞いて理解していた。
"点滴の針を抜いた"
つまりそれは 彼が自ら死期を早めようとしているということ。
それくらいで死ねるような身体ではないが、彼はすでに心のバランスを崩しかけている。
ショックで何をするか分からない。
その前にどうにか。
たとえば アスランがいれば安定できるかもしれない。
! そうだ、アスランが…!
「…オイ。お前がその結果を聞いたのはいつだ?」
ニコルが聞く前に ディアッカに問うたのはイザーク。
奇しくも それはニコルが聞こうとしたのと同じ問いだった。
「え? あぁ、隊長に別の用事も頼まれたからけっこう前だったぜ。」
30分くらい前か?
「なっ!?」
その回答に愕然とした。
それならアスランより確実に隊長の方が早く着いている。
アスランが先に来ていたならまだしも、たった1人で結果を聞いてしまったとしたら。
「チッ」
苦い表情で舌打ちをすると イザークは立ち上がり部屋を出て行く。
「っ僕達も行きましょう!」
そして後を追って、ニコルとディアッカも慌てて飛び出した。
―――向かう先はただひとつ。
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管:キラのこと、諦めたの?
イ:…元々何も望んでいない。
管:カッコつけなくても良いってば。
イ:誰がだ。
ニ:ディアッカは気づいてましたか?
ディ:そりゃね。気づいてないのはキラくらいのものだろ。
ニ:え? アスランも知ってるんですか?
ディ:たぶんな。だから任せたんだろ?
ニ:あぁ(ポンと手を叩く) そっちの方が納得できます。
管:どうやらバレバレみたいだけど?(笑顔)
イ:…っ
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