選んだ道の先 −≪26≫


「イザーク。」
 アスランもまた、視線を上げてニコルの後ろに立つ彼を見る。
 ともすれば逸らしたくなる刺すような視線を、正面から見返して次の言葉を待った。


「貴様、気づいているんだろう?」
「…あぁ。」
 主語すら省いた問いの答えもまた簡単なもの。
 傍から聞いたら不親切なほどに 要点のみの問答で済むのは、それだけで何を言いたいのか分かる
 から。
 互いが事情を知ってしまっているから。

「ならば何故行かない。」
「気づいているから行けないんだ。」
 さらに続いた苛立ちを含んだ言葉に、アスランは自嘲気味に返す。
 彼の眉端が僅かに上がるが それには気づかないふりをした。
「俺が傍にいる限りキラは傷つき続けるんだ。それが分かっていて行けるわけがない。」

 知らなければ会いに行けた。
 知らなかったから傍にいたいと言えた。

 けれど知った今、どうやって会えば良い?
 自分がいるせいで 目の前で傷つき苦しむ顔を、どうしたら正気で見ていられる?


「―――バカか、貴様は。」

 たっぷり間を置いてはっきりと言われた。
 正面切ってそう言われたのは初めてかもしれない。
 けれど怒りは覚える事なく むしろそうかもしれないと頭の隅で考えた。

「ユーリから警告だ。」
「……」

 ユーリにも会うのが躊躇われて。
 全てイザークに任せたからと医務室も避けていた。
 運良く世話になるようなこともなかったから、あの日以来顔すら合わせていない。

 "お前が救え"
 そう言われたこともある。
 けど、キラがそれを望まないのにどうやったら救えるんだ?
 分からない。
 俺はキラの支えになれるのか?
 傷つけることしかできない俺が。
 どうやって?


「よく聞け。」
 反応の薄いアスランに焦れて、つかつかと歩み寄ったイザークがぐいと胸倉を掴んでくる。
 それでも抵抗しない彼に憤ってさらに引き上げた。

「奴は"アレ"から一睡もしていない。」

 彼の中の苛立ちはそれを自分ではどうにもできないからか。
 アスランもまた そこで初めて息を飲み表情を変える。

「精神的にはすでに限界だ。壊れかけている。」
「なん、だって…?」
「―――昨日だったか、誰もいない時に点滴の針を抜いた。」

 たまたま嫌な予感がして キラの様子を見に戻った時だった。
 床は水浸しで、無理矢理引き抜いた時に針で引っ掻いたのか 薄く血が滲んでいて。
 それでも、振り向いた彼は平然と笑っていた。

 …あの笑顔で。


「何故…?」
 合わない焦点でアスランが呟く。

 俺がいるから傷ついてるんじゃなかったのか?
 離れたら大丈夫だと思った。
 だから会わずにいたんだ。
 なのに何故。


「俺達は何の為に協力してやったんだ? 奴を助けたかったからだろう?」
 そもそも言い出したのはお前だ。
 それに俺達が同意したんだろうが。
「敵だった奴を、殺すんじゃなく生かしたいと思ったからこそじゃなかったか? 何よりも嫌いな
 "親の権力"を使ってまでな。」

 5人共、親の七光りは嫌いだ。
 評議員の子だからと言われるのが何より嫌だった。
 ここまできたのも―――自分達が赤を着ているのもプラント一の歌姫と呼ばれるのも、己の実力
 で勝ち取ったもの。
 それを使ったのは、親を頼ったのは、他の何でもなくキラの為。キラを助けたかったから。

「貴様がそれを台無しにするつもりか。」
「っ」


 言葉は最後まで聞いていなかった。
 いや、元から聞こえていなかったのかもしれない。

 頭の中にあるのは何度も見た悪夢のキラの姿。
 焦りと恐怖と苛立ちと、なにもかもがゴチャゴチャになって。

 ―――何も考えられなくなっていた。

「……っ!」
 イザークの腕を力づくで振り払おうと逆に彼の手を掴む。
 が、力を入れる前に意外にあっさり放されて。

 それにアスランが気づく余裕はなかったけれど、その流れてしまった勢いに背中を押されるよう
 な形で部屋を飛び出していった。







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管:すっかり仲良くなっちゃってまぁ。
ア&イ:誰がだ!!
管:おお同時。
ア&イ:……ッ

キ:あの2人って仲悪かったの?
ニ:永遠のライバルでしょう。
キ:なんだ、仲良いんだ。
ア&イ:キラ!!
キ:わっ(汗)
ニ:アレですよ、キラさん。
キ:ん?
ニ:同族嫌悪。似た者同士なんです。
イ:誰が似た者同士だ!
ア:冗談じゃない!




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