選んだ道の先 −≪25≫
日が落ちた談話室。
向かい合わせのソファに腰掛けた2人は 先程からほとんど会話を交わしていなかった。
ニコルの方は何やら言いたげな様子を見せるが、アスランの方がそれを許さない。
「アスラン…」
控えめに声をかけても気づかないのか反応はなく。
仕方ないなと席を立ち、何処へ行くのかとも聞いてこない彼に怒るふうもなく奥へと消えた。
それから数分も経たないうちに戻ってきた彼の両手にはカップがあって、その片方をテーブルに
置き、もう片方はアスランの手の中にある物と交換する。
そこでやっと顔を上げた彼に無言で笑みを向けて、自分も元の位置に座った。
手渡された湯気立つコーヒーを一口だけ飲んで、アスランはひとつ重い溜め息をつく。
それっきり、再び彼は俯いた姿勢でぴたりと止まって動かなくなった。
「―――…」
不安、なんでしょうか…?
ニコルはちらりとアスランの顔を盗み見る。
「……」
幾度か見たことがある、緊張している時の表情だと咄嗟に思った。
その厳しい表情は自分が憧れた理由の一つだったけれど、彼の人が眠る傍らで見せる穏やかな
表情の方が彼らしいと、今は感じてしまうのは何故だろう。
「今日、もうそろそろですね。」
「…あぁ。」
努めて明るく言った言葉への返答は素っ気なく。
視線は落とされたままだ。
けれどそれも不安からくるものだと解釈し、微かな苦笑いを漏らすだけに留めた。
時差の関係で今こちらは夜だがプラントの方は昼過ぎにあたる。
そろそろキラの処遇についての結果が出る時刻。
今のこの空気はそれが原因だった。
けれど正直なところ結果はほぼ決定と思って良いとニコル自身は考えている。
ラクス嬢が弁護に立つのだから心配はないと。
それに、自分達もできることをしたのだ。
だからこそ余計に、アスランの今のこの雰囲気がよく分からなかった。
ニコルもまた考え込み、室内は再び静寂に包まれる。
そしてまた、彼の手の中のコーヒーが冷めてしまった頃。
「そういえば… キラさん、大丈夫でしょうか…」
漏れた言葉は特に意識して出たものではなかった。
アスランに向けて言ったものでもなく、ただの独り言で。
ただ、最近会いに行っていなかったから。
アスランを呼びに行く用事もなくて 離れがちになっていたから。
今日のことは知っているようで、だからアスランがここにいては不安なのではないだろうかと。
そんな思いで、つい口に出てしまったものだった。
「ニコル…」
今まで何を言っても反応を示さなかった彼がその言葉に顔をゆるりと上げた。
「すまない…」
そして向けられた苦みを含んだ表情。
「?」
ニコルにはその意味が分からない。
けれどアスランもそれ以上は言わず、また視線を落としてしまった。
―――あれから キラには会いに行っていない。
キラのことは隊長に頼んでイザークと代わってもらった。
それがキラの望みだと思ったから。
それからはほとんど自室に閉じ篭って。
何もすることなく、ただぼんやりキラのことを考えていた。
…これで良い。
これでもう、キラは傷付かない。
俺が耐えれば良いだけだ。
この気が遠く、狂ってしまいそうな心を。
それがキラの為なら。
「アスラン?」
意味が分からないといった風にニコルは首を傾げる。
「すまないって何がで―――」
「何をしている。」
言葉を遮るように投げられた声。
ニコルが振り向き見上げると、彼は睨むようにしてアスランを見ていた。
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管:ホントに会いに行ってなかったのね。
ア:俺だって会いに行きたいさ。でもキラのことを考えると…
ニ:僕 知りませんでしたよ。最近イザークを見かけないとは思ってましたが。
ア:ずっと部屋にいたからな。
ニ:でもどうして僕じゃなくてイザークなんです?
ア:あの時キラが手を取ったのはイザークだったからだ。
イ:巻き込まれた俺は迷惑だがな。
ア:文句を言わなかったじゃないか。
イ:言えないように隊長命令にしたのはお前だろうが。
ニ:全てはキラさんの為なんですねぇ。
管:アスランだから。
ニ:それもそうですね。
管:残念?
ニ:少しは。もしあそこにいたのが僕なら僕の役目になってたんでしょうか。
管:たぶんね。
ニ:そんなものなんですね。イザークも不憫だと思います。
管:同情の欠片も無さそうな笑顔でそう言われても説得力無いよ。
ニ:そうですか?(笑顔)
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