選んだ道の先 −≪24≫


「―――何が目的だ?」
 呼吸が整い、キラが礼を述べて離れたところで。
 イザークは苛立ちも隠さず不躾に問いかける。
「何がですか?」
 けれどしらばっくれるつもりか キラは笑顔を向けてきた。
 それに呆れ果て、心底からの溜め息を零す。

「お前は何がしたいんだ。」
 この俺まで利用して。
 分かっていて何もできなかった自分にも驚いたが。
 それ以上に、目の前のこいつの行動の方が不可解だ。
「言いませんでしたか?」
「…奴に嫌ってもらうためだろう? だがそれが何になる?」
 嫌われて孤独を選んで。
 それで何が得られるというのか。
「だって。何を言っても傷つけてもここに来るんです。優しくするんです。そんな必要ない
 のに…」

 いい加減に嫌って。
 これ以上傷つかないで。
 僕の傍にいない方が、忘れる方が幸せだって早く気づいて。
 お願いだから。

「大切だから、とお前は知っているはずだ。」
 その思いを切り捨てるように、彼が告げたのは真実。
 ただ、その言葉の裏に自分の望みもあったことは否定しない。
 この想いを断ち切るきっかけを、と。
 告げることのない想いを 早く忘れたいから、と。
「己の全てを賭けてお前を助けようとしている、それの何に不満があるんだ。」
「っ ダメなんです! それじゃ…!」
 告げた言葉にキラは過剰な反応を示す。
 余裕を失いかけていることは明白だ。

 最初はアスランだけが執着していると思っていた。
 けれど違う。
 ある意味では こちらの方が想いは強くないだろうか。
 自分を見つめてくるこの瞳が全てを物語っていた。
 必死で、それでいて辛そうな。

 何を考えているかは分からない。
 ただ分かるのは、あの男を守ろうとしていること。
 アイツの幸せだけを願っていること。


「―――何がダメなんだ。」
 煮え返りそうな感情を殺し、極力静かな声でさらに募る。

 心の奥底では求め続けているくせに。
 縋り付きたいのは俺の腕ではなくアイツの腕だろう?
 見ていて気づかないはずがない。
 まして、自然に目が追ってしまう俺なら なおさら。

「お前は奴が好きなんだろう?」
 自分の言葉に胸が軋む。
 けれどイザークはその表情を表には出さない。
 気づいている分、感情のコントロールは容易い。

「ダメなんです…」
 それでもキラは首を振る。

 イザークが唯一思い違いをしていたのは、キラの"大切"の捉え方。
 キラはアスランが自分に向けている感情を"愛情"とは受け止めていない。
 ただの"友愛"だと、もしくは"兄弟愛"だとしか。
 自分の歪んだ想いとは違う、そう思い込んでいた。
 まさか相手も同じ想いを抱いているとは、欠片にも思っていなかったから。

「好きすぎて、大切すぎて… 誰より幸せを願う人だから。だったら手放すしかないじゃない
 ですか。」
 揺れる瞳がポツリと語る。
「こんなに好きなのに… でも僕は迷惑をかける以外 何もできないからっ」
 弱々しい声で、ただ涙だけは見せずに。
 けれど、それは彼が見せた初めての本音だった。
「彼の未来に僕は要らない…っ」

 未来のない自分、未来のある彼。
 そして彼の未来の先にはきっと彼女がいるはず。
 だから僕は。
 彼から自分を消す。
 何があっても 曲げるつもりはない。


「馬鹿だな お前は。」
「そう、かもしれません…」
 重い表情でキラは言葉を受け止める。
「―――そしてアイツも馬鹿だ。」
「え―――?」
 驚いたような不思議そうな目を向けてくるキラに応えは返さず。

 本気なら俺を殴ってでも取り返せば良いだろう。
 それくらいもできないのか。
 そうまでして傷つけることを怖れるのか。

「…本当に 馬鹿ばかりだ。」

 それは俺も、か。

 けれど声には出さなかった。







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管:なんだか黒くないよね、最近。
キ:黒…?
イ:それだけの余裕がないんだろ。
管:…よく見てるね。
イ:煩い。
キ:??

管:キラ君、なんか堂々巡り思考だよ。
キ:でも、改めるつもりないし…
イ:それで 余裕なくしてるくせに。
キ:うっ

ニ:アスラン、良いんですか? イザークとキラさんがだんだん仲良くなってますよ?
ア:秤ス!?(即復活、キラの元へ)



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