選んだ道の先 −≪23≫
「―――ロックもかけずに行くとはな。」
心底呆れた様子で イザークはベッドに座る相手に言った。
しかしその呆れは言った相手にではなく、今までこの部屋にいたであろう自分の同僚に対しての
もの。
用があって探しに来てみれば。
奴はすでにニコルに言われて去った後で。
用は同じだからそれはそれで構わない。
だが。
外からしかロックを操作できないという意味を、奴は忘れてはいないか。
「僕が立てないのを知っているからでしょう。」
その理由を目の前の少年は笑いながら軽く言う。
ただ、どこかそれは自分に言い聞かせるような、敢えてその言葉を選んでいるような感じだった。
「信頼しているから、とは思わないのか。」
おそらく本人も気づいている。気づかないはずがない。
わざと逸らしているだけで。
だから訂正も含めて言ってやった。
いい加減応えてやれ、と。
「信頼…? どうしたら僕を信頼できるんですか?」
けれど、返ってきたものは自嘲を含んだ言葉。
今だ彼は心を閉ざしたまま。意志は変わっていない。
「……」
今度は彼に向かって、呆れの息を吐いた。
何故そこまでして拒むのか。
お互い想い合っているくせに、何故別離を望むのか。
俺には理解らない。
「―――奴がいないならそれで良い。俺は戻る。」
これ以上付き合ってられるか。
背を向けると いつもの言葉を彼はかけてくる。
「あ、はい。わざわざすみま――― っ…!?」
続きはいつまでも紡がれなかった。
声が不自然に途切れたのを不審に思って振り返ると、キラは口元を押さえてうずくまっている。
身体は小刻みに震え、片方の手はシーツを深い皺を作るほどに握り締めて。
明らかに様子がおかしい。
「どうした?」
踵を返して近くまで寄ると腕をぐっと掴まれた。
とはいえ、力がないから振りほどけないほど強くもない。
「おい」
「…しばらく、こうさせ、て、くださ…」
どうにか呼吸を整えようとしているのが分かる。
「ごめん、なさ…っ」
声も掠れ、その尋常じゃない様子にはイザークも拒めなかった。
だから、頭を寄せられ身体を預けられても、何も言わずただじっとしているしかなく。
支えるよう腕を彼の背に回すことにも躊躇いは感じなかった。
足音が近づいているのは分かっていた。
それが誰であるかも。
そして、今のこの状況がどんな誤解を招くことさえも。
でも、それでも動けなかったのは、あまりに相手が弱々しかったからか。
自分でもよく分からない。
「キラ…?」
自分から見えない位置―――戸が開いて聞こえてきた声は予想通り。
そして次に息を飲んで立ち止まった気配がして。
分かりやす過ぎる反応に、本日何度目とも言えない溜め息が漏れた。
…別に奴がどう傷つこうが知ったことではないが。
それで受ける誤解で面倒なことには巻き込まれたくはない。
そして、2人の姿を見るたびに襲ってくる、この締め付けられるような痛みも。
これ以上はごめんだ。
「―――おい。」
顔だけで、入り口に突っ立ったまま動けないでいるアスランを見やる。
俺の役目は終わったと、そう言わんばかりの表情で伝えて。
それで奴と変わるつもりだった。
―――のだが。
「お願い、します… もう少し このままで…」
どこに残っていたんだというくらいの強さで、キラが服を引っ掴んで離さない。
「? 何を―――…」
「安心するんです…」
彼の言葉を遮るように言って、キラはじっと睨むようにイザークの後ろを見る。
君は要らないとでも言うように。
今必要なのはこちらの彼の方だと、ギュッと手に力を込めることで。
「キ、ラ…」
呟いたその瞳は絶望で揺れていて。
けれどキラは表情を、態度を崩さない。
ただじっと、無言で彼を見つめるだけで。
「邪魔、したな…」
先に目を逸らしたのはアスランの方。
それ以上を言わず、彼は部屋を出て行った。
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(吹き荒れるブリザードがアスランを包んでいる)
管:ご愁傷様、イザーク。(ポンと肩に手)
ア:って俺じゃないのか!?
管:だって君、自分で出ていったんじゃん。
ア:……キラ……(再びいじけ虫)
管:苦労人だね。(アスランは無視)
イ:言うなら代われ。
管:イヤ(即答)
イ:……(怒)
(無言でニコルとディアッカを見る)
ニ:僕も遠慮します。僕の場合は同情ですし。
ディ:俺も。弟みたいなものだから。
イ:……っ
管:コレも運命。諦めろ。
イ:誰のせいだ 誰のっ
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