選んだ道の先 −≪18≫


 キラが審議にかけられるまであと1週間を切り。
 けれどそれで何かできるわけでもない。
 自分達にできるのは 待つこと。
 審議の結果はラクスの働き次第だ。
 それまでに、そしてその時も、できることなど何もない。


 自分達は何故こんな所にいるのだろう。
 ふと思うことがある。

 あの、キラを…ストライクを捕獲してから、出撃命令を受けたことはない。
 足付きはアラスカに入ってしまったため追うことも出来ず。
 このところ 地球軍とザフトは膠着状態で目立った戦闘もなかった。
 そんな時 自分達がやることといったらMSの整備くらいで。
 他はずっとキラのそばに居た。
 1日の大半をそこで のんびりとした時間の流れで過ごす。
 おかしいくらいに妙に穏やかな日々だ。

 ―――もっとも、穏やかなのは日々の生活だけで 心中は全くそういうことはないのだが。



 コンコン

「!」
 軽やかなノックの音に意識が現実へと引き戻される。
 返事を返すと "失礼します"という言葉と共に扉が開いた。
「ニコルか。」
 椅子に座ったまま 顔だけ振り返れば、若草色の髪を揺らして彼は傍らまでやって来る。
「やっぱりこちらにいらしてたんですね。」
 こちらから先に来て良かった、と彼は言って笑った。

 確かに彼の考えに間違いはない。
 最近は特に、自分の部屋に居るよりココに居る方が長いのではないかと思うくらい。
 片時もキラの傍から離れていない。

 傍にいないと不安だった。
 キラが、今にも居なくなってしまいそうな気がして。
 目を離せば幻のように消えてしまう、そんな 漠然とした不安があったから。


「―――何かあったのか?」
 わざわざ探しに来るくらいだから、と。
 急ぎの用かと聞いたら ニコルは首を振った。
「何か、というわけではないですけど。明日のミーティングが1時間遅れになるということを伝え
 たかっただけですから。」
「そうか。わざわざすまなかったな。」
 そう言ったら いえ、と笑顔で返された。


「キラさん… 寝て、らっしゃるんですか?」
「ああ。」
 ふと、先ほどから目を閉じたままの彼を見下ろす。
 聞こえるのは静かな寝息、その表情は酷く穏やかで。
 よほど深く眠っているのか 彼らの話し声にも全く反応しなかった。

 アスランは顔にかかるキラの前髪を優しく払って、自嘲の笑みを浮かべる。
「―――俺は本気で嫌われたらしい。」
「えっ?」
 ふと上がった目が合ってしまった。
 ニコルの反応からして 自分は今 随分苦痛に満ちた表情をしているのだろう。
「話すことは無いからと、早々に眠られてしまった。」

 最近はいつもそうだ。
 挨拶と、二言三言交わしただけでキラは背を向けてしまう。
 深い眠りに落ちて寝返りを打てば こうして顔を見せてくれるけど。
 それに気づくと今度は布団を頭まで被って。

 誰に言われなくても分かる。
 完全に拒絶されている。

 …それでも ココに居続けるのは。
 ただ自分が傍にいたいだけ、離れたくないだけで。
 これは俺の我が儘で。

 入ってくるなと言われないだけマシだと思う。
 それがキラの優しさだろうから。
 そこにつけ込んで、俺は今もココにいる。


「アスラン…」
 自分のことではないのに胸が締め付けられる思いがして。
 ニコルはポツリと苦しげに名を呟いた。







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管:…いつまでヘタレてんのさ。
ア:凹んでいるんだ。
    …どうして拒絶されるんだ!? 俺はこんなに想っているのに!!
ニ:愛が重いんじゃないんですか?
管:(さり気にキツイことを…)
ア:じゃあ少し引いてみようか。"押してもダメなら引いてみろ"と言うし。
ニ:引かれたままだったりして。
ア:……(ショックのあまり部屋の隅で沈み出した)

管:だからさ、ただでさえ今凹んでるんだからそういうこと止めなって…
ニ:すみません。からかいがいがあるから つい。
管:…反省して無いでしょ。
ニ:おや、バレました?
管:……。や、もう良いよ…



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