選んだ道の先 −≪16≫
「じゃあキラさんは……」
沈みがちに言うニコルの言葉を、アスランは首を振って否定する。
「いや、そんなことは絶対にさせない。キラは死なせない。」
そうでなければ 何の為に取り戻したのか。
もう2度と手放したくない。
愛してくれなくても良い、俺を選んでくれなくても構わないから。
ただ目の届く所に… 傍に居てくれれば それで良いから…
「でも どうやって?」
相手は最高評議会ですよ?
言葉の外でその難しさをどうするのか訊く。
事はそれほどまでに大きくなっている。
それを一介の少年がどうにかできるというのだろうか。
いくらエリート軍人といえども 彼は何の立場も地位も無いのだから。
「…ラクスに、協力を頼んだ。そして彼女は承諾してくれた。」
ポツリと、そう告げた。
彼女は 自ら進んで力になりたいと言ってくれた。
キラの為ならなんでもすると、そう笑顔で。
「シーゲル様にも全てを話して… そうしたら、自分は弁護はできないけれど ラクスをその場に
召喚してくれると。」
訪れてそのまま呼ばれた夕食の席。
俺の話を少しも疑わず、全てを受け止めて言ってくれたこと。
ラクスの言葉も含めてキラを理解してくれた。
そしてキラを"戦争"の被害者だと。
こういう形で死なせる者ではないと。
救いの言葉だった。
「本当は俺も行きたいが… それは流石にできないから。」
自分は今 戦場に身を置いている。
今回のように特別な理由がなければ本国へは戻れない。
ラクスの所を訪れたのも そのついでという形なのだから。
「でも… ラクスさんを、ですか…?」
確かに彼女はアスランの婚約者だ。
けれどそれでキラさんとの繋がりは見えない。
そこまでするほどの何かが2人の間にはあるのだろうか。
疑問の色を浮かべる彼らに アスランは小さく苦笑った。
「彼女にはキラを助ける理由があるんだ。」
「「…?」」
「…彼女を、俺の元へ還してくれたのはキラだから……」
キラらしいと思う。
それなりの咎めを受けることくらい分かっていただろうに。
"それがお前の正義か!?"
そう言った後で後悔した。
ああいうことを誰よりキラが好まないことくらい、俺も知っていたはずなのに。
「…彼女1人の個人的な意見で助けられるのか?」
そう聞いたのはディアッカで。
それは確かな疑問だったから、ニコルも同じことを言いたげな様子でアスランを見ていた。
「―――さすがに無理だろうな。だから俺の名も使って欲しいと頼んだ。2人なら まだ…」
普通の者なら無理かもしれないが、親が最高評議会議員の肩書きを持つなら。
それが2人なら多少の発言権もあるだろう。
そんなものに頼りたくはなかったけれど 俺は無力だから。
―――権力とは こういう時使わなくていつお使いになるのですか?
全ては彼女が言い出したことだ。
助けたいなら多少の無茶もやるべきだと。
その為なら、どんなものでも使うべきだと。
―――たまには、我が儘を言ってもよろしいのではありませんか?
悪戯っぽく微笑ってそう言った彼女は どこか今までの印象と違っていた。
でもそれは決して不快な変化ではなかったから。
「俺の名前も使えよ。」
「ディアッカ?」
驚いたように見れば、彼は軽く笑った。
「多い方が良いんだろ?」
「僕も。キラさんを助ける為ならいくらでも。」
ニコルも俄か元気になってこくんと頷く。
「あぁ、あとイザークにも言えば アイツも協力してくれると思うぜ。」
「えっ?」
意外な言葉にアスランは驚き聞き返す。
それは1番あり得そうに無かったことだったから。
イザークはストライクのパイロットを倒したいと思っていた。
キラを連れて来た後 そういう様子は見せなかったから忘れかけてはいたけれど。
それでも協力してくれることに対してはそうすぐには信じられなかった。
黙認ならともかく… 協力をしてくれるのか?
「…そういえばイザークはどこに?」
普段は本を片手にいつもここに居るはずなのに。
辺りを見回しつつ尋ねれば、ニコルがポンと手を叩く。
「デュエルの所か、もしくはキラさんの所ですよ きっと。」
「キラ…? 何故?」
イザークがキラに何の用があるんだ?
けれど、それにはニコルも首を傾げる。
「さぁ? けれど暇さえあれば行っているみたいですよ。」
僕よりも長く居るんじゃないですか?
「そう…」
それには 何故、とは言えなかった。
ひょっとしたら、俺はその理由に気づいていたのかもしれない。
けれどそれは誰にも言わなかった。
2人に別れを告げ、足早に向かった先。
キラの部屋のロックを解除しようと手を伸ばしたところでアスランは止まった。
解除されている…?
それはすなわち 誰かが訪れていることをあらわしていて。
解除できるのは俺達以外にはいないから。
さっきニコルが言っていたことを思い出した。
本当にイザークが?
「キラ? 入るよ?」
まさかと思いつつ スイッチを押す。
シュッと音がして扉は自動で開いた。
「…アスラン……」
開いて1番に目に入るのは 少し虚ろな瞳を向ける愛しい人。
また少し痩せたような気がする。
「―――…」
そしてその手前、ベッド脇の椅子に腰掛けた後ろ姿。
光を吸い込んで輝く銀色の髪、自分と同じダークレッドの軍服。
見間違えるはずがない。
その姿を認めるとアスランは立ち尽くした。
「…イザーク……?」
本当だったのか…
声に気づくと彼は本をパタンと閉じた。
「やっと帰ってきたか。」
小さく息を漏らして立ち上がると、ボケっとしているキラの頭を優しく叩く。
「じゃあな。」
「え? あ、イザ…っ」
キラの言葉は待たない。
声に出す前には イザークはすでに手を離してアスランの方へと向かっていた。
入れ替わり際に立ち尽くしているアスランの肩に手を置く。
目線は前を見たままで、声はキラに聞こえない程度に。
「…アイツから目を離すな。」
「?」
不思議に思って目線だけをイザークに向ける。
「動けるようになったら―――… 奴は死ぬ気だ。」
「!!」
弾き見て何かを言おうとしたけれど、その前にイザークは去ってしまった。
「アスラン…?」
キラが首を傾げてこちらを見ている。
「…何でもないよ。ただいま。」
"死ぬ気だ"―――
その言葉はいつまでも俺の心に残っていた。
---------------------------------------------------------------------
管:アスランとラクスが何を話したかは番外をどうぞ☆
ア:だから何故CMを…
管:皆さん協力してくれるようだね。
ア:まぁそれは嬉しいことだ。が、キラは渡さない。
ニ:誰もそんな恐ろしいことしませんって。
キ:何が恐ろしいの?
ニ:アスランを敵に回すほど馬鹿じゃないってことですよ。
ア:良い心がけだな。
キ:…?
管:キラとイザークが仲良くなってることについては?
イ:ただの監視だ。
キ:別に監視するようなことは…
イ:してるだろうが。
キ:ギクッ
ニ:おや。親密度上がってるみたいですね。
ア:…ほほぅ?(妬いているようです)
管:火に油を注がない、ソコ。
ニ:えー? だって楽しいじゃないですか。
管:イザークが不憫だよ。
ニ:うーん… 頑張れイザーク☆
管:他人事だね…
ニ:他人事ですし。
管:そりゃまぁ そうか。(哀れイザーク)
BACK
NEXT