選んだ道の先 −≪15≫
キラの所へ向かう前に談話室に寄った。
ニコルに礼を言う為だ。
自分がプラントへ戻る間、無理を言ってキラのことを頼んだのだから。
ガラス張りの向こうの景色は果てしない海。
寛げるだけの最低限の調度品がそこには置かれていて、決してストレスを感じさせないように
配慮されている。
扉を開ければ見慣れた姿がそこにはあった。
ディアッカとニコル。
イザークの姿は何故か見当たらない。
ソファに身体を預けていたディアッカが、気がついて頭だけを後ろに向ける。
「お疲れさん。」
そうアスランに向けた言葉は皮肉めいてもいなくて、軽く手をあげた仕種には親しさが見られた。
けれど記憶にある限り 今までそんな風に言われたことはなくて。
少々驚きをしたものの「あぁ」とだけ返事を返す。
そして、彼の斜め向かいにいるニコルへと視線を向けた。
「ニコル。」
呼びかけられて、ソファに身を縮めて顔を埋めていた身体がピクリと動く。
少し間があったものの、彼は静かに顔を上げた。
「ニコル……?」
気遣うような驚くような、そんな声でアスランがもう1度名を呼んだ。
今まで泣いていたことを示す赤く充血した瞳。
表情は苦痛そうに顰められていて、唇が微かに震えている。
それを見るディアッカの表情も心なしか辛そうだった。
「アス ラン…」
声に出せばまた込み上げてきて涙が溢れ出す。
「ど、どうしたんだ?」
「…キラ、さん、が……」
「!?」
途切れ途切れに言葉を搾り出すと、アスランの表情が途端に変わった。
"彼"が関わっていなければ決して見れないであろうその表情。
焦りと不安で青褪め、アスランはニコルの両肩を掴んで自分の方を向かせる。
「キラに何かあったのか!?」
その様子には鬼気迫るものがあった。
最悪の状況がアスランの脳裏を掠める。
けれど、身を乗り出してきた彼に対して、ニコルは首を横に振った。
「何かあったわけじゃなくて…」
心を落ち着けようと一呼吸おいて、またアスランの方を見上げる。
「…どうしても、食べてくれないんです……」
「え…?」
「どう言っても絶対食べないって…」
いくら食べれないと言っても全ては精神的なもので。
本人が食べようとしさえすれば食べれるものなのだと医者は言っていた。
「最初の日は… 食べようとしてくれました…、でも……」
「―――たとえ食べても全部吐いちまうんだよ。」
ディアッカが苦々しく呟く。
「…!」
驚いたように彼の方を振り返れば、肩を竦められた。
「だから要らないんだと。」
それも分からないではない。
全部戻してしまうなら体力を余計に消耗するだけで、それで良いことはない。
だから無理してまで食べろとは言えなかった。
…吐いてしまうのが心の拒絶によるものだとは分かっていても。
本人が認めなければ言っても同じだったから。
「…どうしてっ どうして彼がこんな目にあわなくてはいけないんですか……っ!?」
怒りと悲しみが溢れる。
ニコルの震えた声にアスランも何も言えなかった。
「大切だから守っていたんでしょう!? だから死なせたくないと思ってたんでしょう!?」
誰に言うわけでもなく、地に向かって叫ぶ。
ぽたりと落ちる滴は気にしない。
「なのに…っ どうしてあんなに追いつめられているんですかっ!?」
支えてくれる人は居なかったんですか。
彼の苦しみに気づいてあげた人は居なかったんですか。
彼に、その優しさを返してあげる人は居なかったんですか。
「自分を"死ぬ人間"だなんて… そんな風に言わせるまでに…!!」
ニコルの言葉にアスランは顔の色を失い、ディアッカは唇を噛み締める。
「でも…」
ひとしきり叫んで上がった息を吐いて落ち着かせた。
「1番悔しいのは… 何もできない自分です……」
目の前の闇に自ら踏み入ろうとしている彼に何もできない。
どんな言葉も風に流されるように届かない。
自分は無力だと思い知らされた。
「俺もだよ…」
アスランの呟きにニコルはハッとして顔を上げる。
「俺1人では キラを助けることなんてできないんだ…」
肩に置かれた手に力が込められる。
痛くはないけれど、そこからはアスランの思いが伝わってきて。
そっちの方がとても痛かった。
「―――キラが最高評議会の審議にかけられる。」
「「!!?」」
ディアッカもニコルも驚きで言葉を失くす。
それはその事の大きさに だ。
たった1人の少年の処遇に、最高評議会が出てくるというのは思ってもみないことだった。
「それを知っても 俺は何もできない……」
キラを助けたい。
けれどその力を自分は持っていない。
俺は無力だ。
「それが悔しくてならないさ…」
苦々しい呟きは2人にも重く圧し掛かった。
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管:おっ 久しぶりだね、アスラン。
ア:あぁ 本当にな…(かなりお怒りのご様子)
管:―――機嫌悪いね。
ア:誰のせいだ。こんな長い間キラと引き離されて。
俺がどんな思いで過ごしていたか…
管:数日じゃん。
ア:俺には1ヶ月くらいに感じたんだが?
管:あはは。ごめんね。(反省の色ナシ)
管:さて。ニコルたちの変化をどう思う?
ア:キラに会ったんだろう? キラはそういう奴だ。誰もを惹きつける。
俺にとっては不本意だが。
管:まぁ、彼らのは同情だし。
ニ:キラさんを絶対助けましょうね!
ア:煤I? (突然の登場にちょっと驚きつつ)あ、あぁ。
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