選んだ道の先 −≪11≫


 開かれたカーテンからは明るい陽射しが見えて。
 感じることはできないけれど、風が雲を流していて。
 単調だけれど、キラは全く見飽きることなく窓の外を見ていた。
 残された少ない時間。
 だからこそ 覚えておきたい、こんな美しい空を。


 天高く昇る日は、すぐそこにある海面に揺れながら光る。
 そして アスランが居た頃と同じように、決まった時間に入り口の扉は開かれた。


「―――…」
 入ってきた人物を見た途端、キラはポカンと間の抜けた顔をした。
 また知らない人だからとかいうのではなく、ただ単に驚いてしまっただけなのだが。
 トレイを片手で軽々と持って入り口に立ったその人は、凝視されて少し戸惑いながら中に
 入って来た。
「…何?」
「えっ? え、いや、その…」
 慌ててキラは視線を逸らす。
「背が、高いな、と思って…」

 アスランより 大きいよね…

 軍人らしく鍛えられた身体、他人に威圧を与えそうな雰囲気、見るからに強そうな人だなと
 思った。
 浅黒の肌もそれ故映える金の髪も、自分と同じ紫の瞳も。
 自分と違って男らしいな、と思う。
 ひょろっこい身体も、女の子みたいに柔かい髪も、低い身長も僕にとってはコンプレックス
 だから。
 羨ましくて ついじっと見てしまったのだけれど。


「ゴ、ゴメンナサイ…」
 恥ずかしいのか、俯いたキラの顔は少し赤い。
 ここにアスランでも居ようものならどうなっていただろうか。
 そう思って 面白そうに笑いながら彼はキラの前にトレイを置いた。

「―――ま、良いけど。ほら 食えよ。」
「……」
 そう言われても… とキラは固まる。
 スプーンを持っても食欲は起きないし。
 見下ろされる視線が気になるというか、そうじっと見られると緊張するというか…

 第一、"代理"ってニコルさんだけじゃなかったのかな…?

 もの言いたげな瞳で見上げると、ディアッカは「あぁ」と言って横にあった椅子にどかっと
 腰掛けた。
「俺はディアッカ=エルスマンだ。昼食担当ってトコかな。」
「担、当…?」
 それを聞いて 少し考える。

 アスランってそんなにいろんな人に頼んだのかな…
 僕、迷惑かけちゃって 良いのかな…?
 本来捕虜という立場にある僕なのに、こんなに優しくされて良いのかな…

 沈むキラを見て、何を考えているのか即座に分かったディアッカは可笑しそうに笑った。
「ちなみに俺はアスランの奴に頼まれたわけじゃないぜ。ニコルが1度会ってみろって言う
 から来ただけだ。」


 ―――会えば貴方も少しは変わるんじゃないですかっ?

 泣きそうだったニコルをからかった時に言われた言葉。
 つまりニコルのその表情の意味は彼が関わっている。
 それで興味を覚えて昼食担当になることを承諾したのだが。

 あいかわらず男か女か分からない愛くるしい容姿。
 ただあの時と違うのは、あの場で見せた鋭い視線が無いこと。
 儚げで壊れやすい印象は変わらなくとも 今受ける雰囲気は穏やかで柔かくて。

「けど、それを見たからって俺の何が変わるんだ…?」
 ディアッカの呟きにキラはえ?と首を傾げる。
 自分が映る大きな紫の瞳には疑問の色が浮かんでいた。
「あ、いや こっちの話だ。」

 そう言って ちょっと考えた後にキラの腕をグイッと引っ張った。
「えっ!?」
 それにキラはビックリする。
 だけれど恐怖を感じたりとか、無理に振り払おうとかは考えなかった。
「…こんな細い腕でアレをねぇ……」
 感心したように呟く。

 しかも俺達と互角で、だ。
 聞けば彼はヘリオポリスでストライクに乗り込むまでは一般人で 軍人としての訓練は一切
 受けていないという。
 それは脅威だが、精神的にはそれに追いついていないと容易に分かった。


 …アスランが最も怖れているのはそれだろう。
 いつ失うかわからないもの。
 すぐに壊れてしまいそうなもの。
 だからあんなに必死になっているのだろう。
 端で見ていて面白いが、本人を間近で見て妙に納得した。

 放って置いたら これは、確実に… ―――死ぬ。


「このままだと餓死しちまうんじゃねぇ?」
 手を離してわざとからかうように言う。
 細い腕となかなか食べようとしないその様子に対して。
 けれど、キラはその言葉にきょとんとした後で 穏やかに微笑った。
「―――構いません。僕はそれでも。」
「!」
 ディアッカはそれに眉を寄せる。
 冗談とも取れるのだが、彼の場合 本気で言ってるようにしかみえない。
 その微笑みの裏に何か深いものが見えたからだ。
 呆れとも何ともつかない気持ちで、ディアッカは深く溜め息をついた。
「どうしてそこまで死に急ぐかねぇ…」
 自分には分からない感覚。
 意地でも生き残ろうとは考えないのか。

「…僕は 逃げたいから……」
 ポツリと、キラがこぼした。

「死ぬのが1番楽だから… どんなに責められても、僕はもう嫌なんだ…」

 死んでも今まで僕が殺してきた人たちへの償いにはならない。
 そんなことは充分承知だ。
 だけど、僕は自分勝手で我が儘だから。
 逃げるんだ。

 僕は 卑怯だから…







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管:…彼に憧れてるの?
キ:というかお兄さんみたいで安心する、かな?
ディ:俺も。目が離せない弟みたいな感じなんだよな。
管:そういえば。ニコル君の言った通りキラに会って変わった?
ディ:変わったな。助けなきゃって思わせるぜ、コイツ。
キ:どうして?
ディ:危なっかしいから。人傷つけようとして 自分傷つけてるしな。
キ:…敵わないなぁ。やっぱお兄さん、だね。頼りになる♪(笑顔)
ディ:それは光栄。
管:君らも仲良くなれそうだね。

?:……っ!!

管:遠くで聞こえる抗議の声は無視しますv



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