選んだ道の先 −≪08≫
それから 会話のない時間が少々続く。
ニコルはちらりとキラの横顔を盗み見た。
その、青白いというべきかもしれない肌の色。
外をただ黙って見つめるキラが 1度も食事に手を出していないことは気づいていた。
アスランからも言われていたのだ。
無理矢理持たせてでもしない限り、彼は食べようとしないことを。
「えーと、キラ…さん?」
「?」
振り向いたキラはさっきのような態度は全く見せずに、元の穏やかな表情でニコルを見る。
その手にさり気なくスープのカップを置いてニコルは笑った。
「キラさんは、アスランの幼馴染 なんですよね?」
「…そうだね。でもどちらかというと もう兄弟に近かったかもしれない。」
それはひどく懐かしそうな、悲しい瞳。
微笑んでいるのに、そこには胸を刺されるような悲しさがあった。
「どうして貴方は…」
ニコルの方が泣きたい気分になってしまった。
「貴方はそうしてまで 何故アスランの敵に?」
そんな風に 悲しい瞳をしてまで何故。
「…本当に。そうだよね。」
キラは苦笑いを浮かべた。
おかしいことかもしれないね。
「だけど、どうしても守りたかったんだ。」
目の前にいた友達を、失いたくなかったんだ。
「そうまでしてっ 守る価値があったんですか…!?」
捕まる瞬間、ニコルは彼が諦めたような様子だったのを知っていた。
足付きが僕らの追いつけない距離まで行ってしまったのを知って、安堵しているような、そんな
感じだったから。
そして今、彼は死刑間近のところに居る。
そんな、自分の命を捨ててまで守るべき人達だったのだろうか。
本当に逃げてしまって、助けに戻って来ない人達の何処にそんな価値が。
「価値は人それぞれだけど…」
キラは少し困ったように微笑った。
「僕なんかの命で助かる人がいるなら、それで良いんじゃないかな。」
「"なんか"だなんて…! 貴方は優し過ぎます…っ もっと自分を大切にしてください…!」
おかしいことを言う人だな、とキラは思った。
だって彼はザフトの軍人で、僕は地球軍のパイロットで。
そんな僕に自分を大切にしろだなんて。
僕より君の方がずっと優しい人だと思うよ。
「優しくなんか 無いよ… 僕はもう疲れてしまっただけ…」
辛いものから逃げたいだけなんだ。
だから死に逃げようとしている。ただそれだけ。
僕は自分勝手なんだ。
「貴方が死んで…っ それでアスランはどうするんですか!?」
泣いてしまうんじゃないかというくらい 悲痛な声だった。
「アスランが…… 何?」
「貴方が死んでアスランが悲しまないわけがないじゃないですか。彼は貴方をとても大切にして
いるのに…!」
誰が見てもはっきり分かるくらい、アスランは貴方を大事に思っている。
そしてどうにかして助けようとしているのに。
気づいていないはずがない。
「キラさんはアスランをどう思ってるんですか!?」
「―――好きだよ。」
ものすごくあっさりと、ニッコリ笑って答えた。
「絶対に言わないけど。」
一瞬 呆気に取られた後、ニコルは眉を寄せてキラを訝しげに見る。
「…何故 言わないんですか?」
「好きだから、だよ。」
そう答えたのは裏の見えない笑顔。
ますますニコルは混乱してしまった。
それは一体どういう意味なんだろう??
そんな彼の様子を見て キラはクスクスと可笑しそうに笑った。
「…僕は死ぬ人間だもの。」
キラは笑ったままで言う。
「だから絶対に言わないんだ。」
内緒にしておいてね、と人差し指を口元に当てて軽く目配せする。
悪戯を口止めしているような、そんな軽い調子で。
ハッとしたニコルの様子もお構いなしで。
「アスランの優しさにも応えないのはその為だよ。」
僕はもうすぐ死ぬから。
そんな人間に想われても後が悲しいだけ。
だから君に嫌ってもらうんだ。
すぐに僕を忘れるくらい。
僕のことで悲しんだりしないように。
もう君に甘えたりしない。
君が好きだから。
君から僕を消してしまうんだ。
「キラさん… 貴方は……」
「―――僕がいなくなった後、アスランを頼むね。」
自分の死など全く気にも止めていない様子で、キラは微笑ったままでそう言った。
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管:本気で伝えないの?
キ:うん。
管:即答なのね。
キ:だって。伝えて苦しむのはアスランだから。
管:どうしてそう思うの?
キ:死に逝く人の想いを背負ってもどうしようもないから。
ニ:でも、アスランなら知ったら全力で阻止しそうです。
管:そうでなくてもやる気だしね。
ニ:それどころか 父親脅して結婚認めさせそうですよね。
キ:…僕、男だよ?
ニ:そんなこと気にする人でもないでしょう。
キ:……
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