選んだ道の先 −≪07≫


 カーペンタリアの基地に入ってから数日。
 一室の部屋を与えられたキラは、やはり拘束されることも無くそこに置かれた。

 そして変わらず日参していたアスランではあったけれど、ザフトへの入隊は2度と勧めなかった。
 そうすればキラは前のように優しかったから。
 ただ たまに「僕はいつ殺されるんだろう」とポツリと漏らされる時はどきりとしたけれど。





 それからまた数日が過ぎ。
 キラはいつものようにベッドに座ったまま その紫の瞳に空を映して外を眺めていた。
 もうそろそろアスランが来る時間だ。
 時間に正確な彼は いつも同じ時間にしか来ないから。


 コンコンッ

 軽やかなリズムで叩かれた扉にキラは首を傾げた。
「……?」
 アスランはわざわざ叩いたりしない。
 "入るよ"と言って直接入ってくるから。

「入りますね。」
 聞き覚えの無い声がして、電子音と共に重苦しい扉が開けられた。
 手にトレイを持って、彼は笑顔で会釈する。

 クセのある若草色の髪、大きな瞳の色は温かな濃い幹の色。
 一目見た印象は 可愛いな、といった感じだった。
 けれど着ている軍服はアスランと同じ赤い色で。
 意味はアスランに聞いていた、簡単に言えばエリートの証。

 ストライクから降りた時 端に居たあの人達の1人か。
 アスランを含めて4人だっけ。本当に選ばれた人たちなんだな。

 …見た目からは考えられないよね。

 と、本人も人のことを言えないようなことをキラは思った。


「食事を持って来ました。」
 静かな動作でトレイをテーブルの上に置くと、彼もベッド脇の椅子に座る。
「…アスランじゃなくて驚きましたか?」
 くすりと笑って彼はキラの顔を見る。
 どうやら呆気に取られた顔をしていたらしい。
「あ… 来て以来、初めて見たアスラン以外の、人だから……」
 この部屋に移送された時もアスランだけだったし。
 というか 半分寝ている状態の時に、歩けない僕をアスランが抱きかかえて連れて行った。
 だからその時の周りの様子はよく覚えていないし、僕にはアスラン以外が見えなかったから。
 移されても来るのはアスランだけで、相変わらず扉の外は他に気配1つ無くて。
 本当に久しぶりだったのだ。

「僕はニコル=アマルフィです。今日はアスランの代理で来ました。」
「代理…?」
 キラが首を傾げるとニコルは ええ、と言って窓の外の空を見る。
「数日間ですけど 所用で本国に。」
「…ふーん。」
 彼と同じようにキラも窓の外を見た。
 何も飛んでいないけれど、きっとアスランはここを飛んでいったんだろうなと思って。
 今はただ青いだけの空。


「―――てっきり愛想尽かされたと思ったのに。」
「…え?」
 ポツリと呟かれた言葉が聞こえなくて、ニコルは思わず聞き返す。
 けれどそれに対してキラは「ん?」と満面の笑みで返してきた。
「あ、いえ…」
 それは脅迫めいた印象のある笑顔で ニコルも次の言葉が継げなかった。

 美しいけれど、怖い。
 完成された美 故に、それはさらに増していて。
 それ以上見ていることができなくて、ニコルはキラから目をそらした。







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管:ニコル君さ、よく引き受けたよね。
ニ:他ならぬアスランの頼みですし。
管:尊敬してるから?
ニ:ハイ。それにアスランがそこまで執着する人を見てみたいと思いましたから。
管:で、感想は?
ニ:アスランの気持ちがよく分かりました… 胃が痛くなりそうですよ…
管:あらら(苦笑)



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