選んだ道の先 −≪06≫
―――ザフトに来ないか?
アスランからの突然の誘い。
一瞬の間の後、キラは驚き その大きな目をさらに見開いた。
「何を 言って…?」
アスラン、君は何を言ってるの?
言われた言葉の奇妙さに キラはそれ以上の言葉を失くす。
そんな彼にアスランは優しく微笑みかけた。
「―――それが自然なことだろう? 今までの方がおかしかったんだ。」
お前はコーディネイターで、俺達と敵対する理由なんか無いはずだ。
地球軍よりザフトにいる方が自然じゃないか。
確かにそれは当たり前のことで、彼が言っているのは正論。
きっと誰もがそう思うであろうこと。
けれど、
「…行かないよ。」
目を閉じて、静かな声でキラはそう答えた。
そして頬に触れていたアスランの手を取って、ゆっくりと引き離す。
彼の優しさに甘えちゃいけない。
忘れるところだった。僕がここに来た理由。
「もう人殺しはしたくないんだ。」
だから。
君の元へは行けない。
「キラ!? それがどういう意味か…っ」
先ほどまでの笑みは消えて、そこには驚きに満ちた表情しかなかった。
まさか自分の置かれた立場が分かっていないわけじゃ無いだろうに。
「…死ぬんでしょう? 同胞をたくさん殺した僕には当然のことだよね。」
逸らした瞳は窓の外を眺める。
「っ!!」
「良いよ、構わない。もう 僕の役目は終わったから…」
ストライクは大破してしまったし、守る力が無いなら僕は役に立たないから。
生きる目的を失ったような表情だった。
けれどそこに悲壮感は無くて。
それには一種満足感のようなものが混じっていた。
「何故!? 何故お前がそこまでしなきゃならない!?」
アスランはそれが納得いかない。
死ぬのが分かっていて何故、キラはそれを選ぼうとするんだ。
「お前は利用されているんだ! なのにどうしてそこまで…!!」
ナチュラルなんかの為に何故お前が死ななきゃならないんだ。
何故こんなになってまで 奴等を守ろうとするんだ。
「…僕は友達を守りたかっただけだよ。ナチュラルだとかコーディネイターだとか関係なくて、
目の前にいる人を守りたかっただけなんだよ。」
ただそれだけだよ。結果 君と敵対してしまったけれど。
でも、利用なんかじゃ 無いよ。
「だからって お前が死ぬのは…!」
お前は優しすぎる。
人の為に そんなに簡単に自分を手放すなんて。
しかもそれがナチュラルなんかの為だなんて…!
「ザフトに来い キラ! 俺は… 俺はお前を失いたくないんだ!」
何処までも会話は平行線で。
どちらも譲ろうとはしなくて。
「……」
キラは再びアスランの方を見た。
ゆっくりと、何かもの言いたげな表情で手を伸ばす。
疑問を抱き近づくと、不意に服の胸元を掴まれ 有り得ない力強さで引き寄せられた。
目の前にキラの顔がある。
もう少しで鼻先が触れそうな距離だった。
「…言わなきゃ分からない?」
また、あの冷たい微笑みでキラは言葉を紡ぐ。
背筋が凍った。
「キ、ラ……」
ふと キラから笑みが消える。
そして射抜くように鋭い瞳で 彼はアスランを見据えた。
「君は僕に友達を殺せというんだね。―――かつて、君にそうしたように。」
「!!」
「…もうあんな思いはしたくないんだ。だから、死んだってザフトには行かない。」
行くくらいなら死んだ方がマシだ。
友達を殺せと言われるくらいなら 自分が死んだ方が良い。
そこでパッと手を離した。
「……っ」
俺だって分かっているさ。
お前と敵対してしまったことで、その辛さは痛いほど分かるさ。
けれど、それ以上に 俺は…
「でも 俺は…!」
俺はお前を失いたくは無い。
どんなにキラの意志が固くても、これだけは俺も譲れないんだ。
「―――じゃあ、1つお願いがあるんだけど。」
それが良いなら考えてあげる。
何?と尋ねると、キラは何かを期待するような表情を向けた。
どんな反応が返ってくるのか、楽しみにしているような。そんな感じだった。
「アークエンジェルには誰も手を出さないって約束して。」
「っ!!」
言葉を失くして息を呑んだアスランを見て、キラは微笑った。
「…無理でしょう?」
それはとても美しく 怖い笑みだった。
俺の知っているキラはこんな表情したりしない。
全く知らないものがそこに居るような そんな気分にもなってしまった。
「僕の願いはこれだけだよ。」
マリュー艦長をフラガ少佐を、アークエンジェルの皆を僕は知りすぎてしまったから。
もう、"友達を守りたい"だけじゃなくなっていたんだ。
敵を知っても戦う時苦しくなるだけだと、フラガ少佐は教えてくれた。
だから。
知りすぎてしまった僕は。
「…ザフトには入れないよ。僕にアークエンジェルは撃てない。」
そんなの、ただの足手纏いじゃないか。
アスランはもう何も言えなかった。
そしてキラも、それ以上は何も言わなかった。
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管:…振られたね。
ア:振られたんじゃない! キラは優しいからあんな風に言っただけだ!!
キ:ゴメンね。僕 アスランのこと好きだけど、アークエンジェルの皆も大切だから…
ア:キラ…(気遣うような眼差し)
キ:ゴメン…(俯く)
ア:いや、そんなキラだから俺は好きなんだしね。(しかし多少ショックは受けている模様)
キ:アスラン… 本当にゴメンね…
(少し離れて)
管:私はお邪魔かな〜…
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