選んだ道の先 −≪04≫


 ―――あれが…?

 見た瞬間に、イザークの中で何かが崩れていくような感覚がした。
 自分の顔とプライドに深い傷を刻み付けたパイロット。
 憎いはずだった。
 どう殺してやろうかと思ってすらいたのに。
 あの儚い印象を受ける細い身体と、異質なほど美しいアメジストの輝きを見た時。
 言葉を失って立ち尽くしていた自分がいた。
 思えばあの瞳に魅入られてしまったのだろうか。
 何を見ていたのかは知らないが、憎さを込めて睨みつけ見つめるそれが脳裏にやきついて離れ
 ない。
 もう3日が経つというのに。あれから1度も会っていないというのに。
 消えるどころか印象はますます強くなるばかりで。


 落ちかかる銀の髪を 長い指で払い除けて耳にかける。
 背筋をピンと伸ばして椅子に腰掛け、片手に持つ古びた本に目を通す彼は その姿勢をまだ1度
 たりとも崩したりはしなかった。
 内容を覚えるほどに読み込んだその本の小さな文字は、その並びを辿っているだけで読んではい
 ない。
 気持ちを落ち着ける為に、または考えごとを邪魔されたくない時に彼はその本を開く。
 たとえ事実は知らなくても、その本を読んでいる時は何を言っても彼は応えないので そこに居
 た他の2人も話しかけるということはしなかった。

「なぁニコル、アスランはまたあの姫さんの所か?」
 長い足を組んで机に投げ出し ソファで寛いだ姿勢で、ディアッカは窓際の若草色の髪の少年に
 尋ねる。
 そこでピタリとイザークの氷の瞳が文字を追うのを止めたのに2人は気づかなかった。
「男ですよ あの人。」
 くるりと振り向いて、ニコルと呼ばれた少年は その少女めいた可愛らしい顔をわずかに顰めて
 応える。
 彼の、何かを含んだようなもの言いに気づいたからだ。
「どっちでも良いんじゃないの?」
 後ろに流した、その太陽のような明るい金の髪をかき上げて、そして彼は面白そうに笑う。
「しっかし面白いもん見せてもらったよな。」
 それにニコルがさらに不快な色を見せたのにも、気にしていないようにディアッカは続けた。
「独占欲丸出しで、あの無表情で何事にも関心薄そうなアイツが。…ある意味只者じゃなかった
 な。」

「―――幼馴染だって言ってましたよ。」
 アスランに聞きました。
 そうニコルが応えると、ディアッカはヘェと感心したように言ってから また意地悪げな笑みを
 浮かべる。
「幼馴染ねぇ… 恋人の間違いじゃねえの?」
「ディアッカ! そういう言い方は…!!」
「誰だって思うんじゃない? あんなの見せられたらさ。」
「……っ」
 これにはニコルも言葉に詰まる。
 何故なら 正直自分も疑ってしまったから。

「まぁ、あれほどなら俺も男だろうが構わないって気になるけどな。」
 狙ってみようかなんて笑う彼に「ディアッカ!」とまたニコルが声を張り上げる。
「冗談だ。俺は女専門、胸は大きい方が好き。」
「…セクハラで訴えられますよ?」
 冷ややかな目で呆れたように言われて、ディアッカは苦笑いしながら降参のポーズをとった。
「ハイハイ。お堅いな ニコルは。」
 冗談の通じない年下の同僚は からかうと面白いが、怒らせると手におえない。
 今回はこれで諦めることにした。


「あーぁ。アレが女なら落としがいあるんだがなぁ…」

 ドサッ

「「??」」
 驚いて2人が顔を向けると イザークが落とした本を変わらずの無表情で拾っている所だった。
 表情は変わらないが、明らかに不機嫌だ。
 今の話が気に入らなかったのか、気が散ってしまったのか。
 2人が固まっていると、イザークは睨むようにして1度だけそちらを見た。

「…くだらん話を。」
 吐き捨てるように言って そのまま2人からは背を向ける。

「あれ? 何処に行くんですか?」
「デュエルの整備だ。」
 ニコルの問いに素っ気無く答えて 彼は部屋を出て行った。





 カツカツと硬質な音が通路に響く。
「くだらない。」
 さっきの2人の会話を思い出して、またイザークは呟く。

 不快だ。

 何もかも。

 普段は冷静沈着な藍髪の同僚。
 それがあそこまで声を荒げたのにも驚いたが。
 あの 美しい可憐な花を抱いた時の瞳がいやに印象に残って。
 そして、同時に心が煮えたぎるような苛立ちを覚えた。
 何度も名前を呼んで 慈しむよう優しい瞳で彼の顔を覗き込む。
 急ぎつつ腕に抱いた体を揺らさぬようにと 配慮しているのも見て取れた。
 相手はともかく あの男がどう想っているかくらいは嫌でも分かる。
 あれは幼馴染の枠なんかとうに越えている。

 …そんな瞳であれが見られていることが我慢ならなかった。
 その自分に気づいている。
 が、認めたくはない。


「―――他人のものに興味は無い。」
 誰ともすれ違わない通路で 独り、それはまるで自分にも言い聞かせるように。
 今 その言葉を聞く者はいない。

 興味などあってたまるか。
 冗談じゃない。
 しかも、あの男のものなどに……
 よりによって。

「本当にくだらんな…」
 知らずイザークはその歩調を速めた。







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管:アレってさぁ、本気で言ってたの?
ディアッカ(以下 ディ):いや、半分冗談。でもどっちでも俺は構わないし。
管:男でも女でもってこと?
ディ:そ。ま、あそこまで可愛いなら俺…だっ!?(蹴られた)
ア:卑猥な目でキラを見るな。
ディ:痛ぇな、オイ。…幼馴染の、しかも男に欲情する変態に言われたくはないな。
キ:アスラン… 僕のことをそういう目で…(軽蔑の眼差し)
ア:キラっ あんなヤツの言葉を真に受けるんじゃない!
    ―――俺は純粋にキラが好きだよv
キ:っ!!(赤面)

(2人を遠めに見つつ)
ディ:素直だねぇ…
管:キラだからねぇ…



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