選んだ道の先 −≪03≫
自分が置かれた状況を理解するのに少々の時間がかかった。
薄暗い、静かな場所。
人の気配も感じられないひっそりとした部屋。
力が入らず上がらない腕を わずかに動かして手探る。
柔かい絹の感触、火照った掌にひんやりとするシーツの端。
そして、ちくりと感じた 反対の手首の違和感。
―――ベッド…?
どうして……?
確か僕は ストライクに乗って、追撃してきたザフト軍と戦って。
そう、アスラン達と戦ったんだ…
そして―――…
…あぁ そうか。
「ここ、ザフトだっけ…」
ふぅ、と息を吐く。
僕は彼らに捕まったんだ。
そして途中で意識を失ったんだっけ。
「じゃあ ここは拘束室、かな…?」
でもそのわりにベッドは柔かくて部屋は広くて。
どう見ても 普通の部屋だよね。
カツッ
「!?」
扉に近づいてくる足音にキラはびくりとする。
他に気配がない廊下にその硬い音はやけに大きく響いた。
重なる音が無いから たぶん1人…
息を潜め扉を凝視していると、その足音は部屋の前でピタリと止まった。
ピピッと数回電子音が聞こえてロックが外れる。
誰…!?
警戒心を強め 起き上がろうとしたが頭は上がらない。
鉛のように重い身体は 全くと言って良いほど自由が利かなかった。
仕方なく目だけを向けて そちらに意識を集中させる。
空気が抜けるような機械音と共に自動に扉が開かれ、その人物は明かりのスイッチに手を伸ば
した。
「!」
明るくなった室内に、キラは一瞬目を細める。
そして明らかになった姿に、目を見開き キラは息を呑んだ。
よく考えればここに来るのに最も適当な、けれど今は1番会いたくないとキラが思う人物。
「アス…っ」
「! キラ! 目を覚ましたのか!?」
彼はキラの様子に気がつくと 心から安堵した表情を見せる。
駆ける勢いで 彼はベッドの前まで大股でやって来た。
月明かりの夜空の 濃い藍の髪がふわりと揺れて、アスランはキラの前に膝をつく。
「3日も目を覚まさないからどうしようかと思った…」
深く吸い込まれそうなエメラルドの瞳がわずかに潤んで見えた。
それを見て 知らずキラは緊張していた表情を少し緩める。
「3日…?」
そんなに……?
「ずっと高熱でうなされてたんだ。疲れと緊張が限界にきてたんだろう。」
そうして 優しく慈しむ瞳でキラを彼はじっと見る。
それはきっと他の誰にも見せたことが無いだろう、極上の甘さを含んでいた。
「でももう安心して良いよ。今はとにかくゆっくり休んで。」
「安心…?」
その言葉にキラはその形の良い眉を顰めた。
「欲しい物は何でも用意させるし、不満があれば聞くから。」
「そん…っ!」
勢いで起き上がれるかと思ったが、それはさすがに無理で キラはまたベッドに頭を埋める。
アスランはそんなキラを不思議そうに見た。
「どうかした?」
「……変だと思わないの?」
今 自分の言った言葉が。
呆れたような溜め息がキラの柔らかな唇から漏れる。
「何が?」
けれど全く分かっていないように アスランはきょとんとしている。
「っ何もかもだよ! 第一この部屋だって…!」
「―――やっぱり狭いか。」
キラの言葉を遮って、それがごく当たり前のように言った。
とにかく急なことだったから この部屋しか用意できなかったのだ。
「分かった。すぐに新しい部屋に…」
「そうじゃなくて!」
全然分かってない!
最後まで聞かない彼を、今度はキラが制止させる。
「逆。僕がこんな部屋に居るのはおかしいよ。拘束もされていないし、見張りすら立ってない
じゃないか。」
僕は捕虜でしょ?
だったらもっとそれなりの待遇されてもおかしくないんじゃないの?
「拘束と見張りは必要無いからだよ。俺がそう言った。」
「なっ!?」
カッとなるキラに アスランは苦笑う。
そっと その長い指でキラの髪を撫でた。
「キラ、もう無理して地球軍の味方でいる必要は無いんだ。」
そう言って、その手を滑らせ キラの白く頬に優しく触れる。
完全に熱が引いたわけではない今は その自分より大きくひんやりとした手は心地良く。
払い除ける力が無かったせいでなく、キラはそれに抵抗をしなかった。
「…キラ。ザフトに来ないか?」
真っ直ぐに見つめてくる その夏の深緑を映したような瞳。
「え…?」
言われたキラの表情に、わずかに動揺の色が見えた。
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管:3日間の間も通ってたんだよね?
ア:ああ。もう気が気じゃなかったさ。このまま目覚めないんじゃないかと。
ニコル(以下 二):一日の大半はキラさんの所にいましたよね。
キ:え…?
ア:寝顔が可愛かったよ。
キ:ええっ!?(赤面)
ア:昔から変わらないよね。(ニッコリ笑ってキラを見る)
ニ:変態ですか 貴方は(笑顔)
管:…私のツッコミ取らないで(苦笑)
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