招待状


「イザーク!」
 後ろからかかった声に彼は立ち止まって振り向く。
 止まってくれた彼に相手は嬉しそうに微笑んで、クセの無い茶の髪を揺らし その足を速めた。

 ここはプラントのザフト軍内の施設で、自由に歩き回れる人物は限られている。
 とはいえ、今は統一国家の自衛軍だから その制服は地球軍、オーブ軍など様々。
 今イザークが着ているのも以前のままのダークレッドだ。

 対して彼―――キラは、軍服ではなく少し着崩した形のフォーマルスーツ。
 評議会議長の補佐として動く彼は 自ら選んだこの服を制服として常に身に纏っている。
 軍人ではないからもうあの制服は着ないのだと、そう言っていた。


「シホさんもこんにちわ。」
 いつも彼の隣にいる彼女に笑いかけると、彼女も少しぎこちないけれど笑みを返す。
 アスランやイザークと同じで、彼女も"笑う"ということが苦手だ。
 これでも進歩した方で、だからキラは満足したように微笑むとイザークの方に向き直った。
「相変わらずひとところに居ませんよね。探しましたよ。」
「あぁ、悪かった。…ところで 今日は彼女の傍にいなくて良いのか?」
 彼は至極純粋な質問を向けた。

 それが誰のことを指しているのかは明白。
 今キラが補佐しているあの少女のこと。
 常に隣に並び、彼女を支え続けているキラ。
 だからこそ こうして1人でいるのは珍しい。

「その彼女に頼まれて探してたんです。」
「…? ラクス嬢が俺に何の用だ?」
「えーと、はい。」
 答えの代わりにキラは真白いカードを手渡した。
 カードからほのかに柔かい香りが馨る。


「…パーティー?」
 それは1週間後に開かれる、彼女の誕生日パーティーの招待状。
 しかもどうやら彼女の手書きのようだ。
「そうです。イザークも是非出席してくださいって。」
 イザークは最後の戦いの時、こちらに賛同してAAを守ったりもした。
 ザフトの軍人のままで けれどジェネシスを許せずに。
 彼女が直に招待するのはあの時の同志で、だから彼もと言うことらしい。

「あと、女性同伴で来た方が良いですよ。」
「…何故だ?」
 眉を顰めたイザークに、キラは苦笑いを返す。
「お偉いさん達の格好の標的です。サイも同僚の女性を誘って行くと言ってました。」
「あぁ… そういうことか。」
 イザークにも嫌というほど覚えのあることだ。
 大人が考えることは皆同じ。
 こういう場所は"関係"を作るのに絶好の場所だと考えている。
 だから、最も手っ取り早い婚姻という関係をこういう場所で作ろうとする。

「…お前はどうなんだ?」
 それはキラも例外ではない。
 今や彼の顔を知らない者などいないのだから。
「僕ですか? 僕は主役のエスコートです。」
 当たり前のようにさらりと答えが返ってきた。
 深く考えなくてもそういえばそうだった。
 彼はラクス嬢のお気に入りだ。
 恋人ではないらしいが、似たような関係だというのは周知の事実。

 アスランにはカガリがいるし、ディアッカもミリアリアにOKをもらった様子。
 確かにコレでは格好の的だな。
 物凄く嫌そうな顔を隠さないイザークに キラは「参加拒否はできません」と釘を刺す。

「誰か仲の良い女性にでも声をかけてみて下さい。」
「…面倒な話だ。」
「イザークなら誰でもすぐOKがもらえるから大丈夫でしょう?」
 そう笑って言うと、キラは急ぐからとその場を去った。



 残されたイザークは少し考える。
 …そして、傍らにいる人物に視線を向けた。
「―――お前が行くか?」
「え、良いんですか?」
 答えたその表情は変わらなくてもどこか嬉しそうで。
 変化に気づいたイザークは、ふいっと目を逸らす。
「…他に居ないからな。命令じゃない、嫌ならそう言え。」
「嫌じゃないです! …あ、スミマセン。ぜひ行かせて下さい。」
 一瞬少女に戻ってしまったのを慌てて直して、彼女は自分の意を告げた。

「じゃあ決まりだ。迎えに行ってやる。忘れるなよ?」
 何故だか分からないが 絶対に彼女の方は見ない。
 一方的に告げるとすぐに歩き出した。
「あ、はい! って待って下さい!!」
 慌てて彼女もあとに続く。


 隊長のパートナーとして恥じないよう心掛けます。

 意気込み言った彼女の言葉を聞いているのかどうなのか、「そうか」しか返さない。
 けれど 突然わいた嬉しい出来事に内心心躍らせている彼女にはそれでも十分だった。


 見た目クールで実際鈍いこの2人が、恋愛に発展するかはまだ不明。







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現在布教中です。
続きはラクスの誕生日かな?(2/5)



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