桜坂の姫


「ねぇ! 昨日のって桜坂学園のキラ様よね!?」
 朝登校してきてすぐ、カガリは数人の女子に囲まれた。
 皆一様に興奮した様子で ちょっと及び腰の彼女にわっと話しかける。

「あ、あぁ そうだけど…」
 昨日の周りの騒ぎようから考えればこの反応は納得できた。
 けれど、まさかキラの名前まで知られているとは思わなくて、そこには驚いてしまう。
 一方彼女達はカガリの返答にさらに瞳を輝かせた。
「やっぱり!」
「てか、何でキラのこと…」
 本物を見れたと大喜びしている彼女達にカガリが尋ねれば、当たり前だと言わんばかりに
 ずずいと迫る。
「キラ様といえば桜坂の姫! 可憐な容姿と儚げな雰囲気で学園中の男達を魅了していると
 いうあのキラ姫だもの!!」

(…キラ。お前男子校で何やってんだ……)

 家では一切そういう話はしないけれど、知らない間にこんなことになっていようとは。

(てゆーか 男子校で姫って何だろう…)

 想像の域を越えた事態にカガリは微妙な表情しか出来なかった。
 そんな彼女の心情を知らず、クラスメイトの少女達は高いテンションのまま周りで騒ぐ。

「やっぱりお綺麗で可愛らしかったわーv」
「でも意外に背も高くて 間近だと男の人って感じよね。」
「どっちにしても素敵なのに変わりはないから良いのよvv」

「―――で、カガリとキラ様の関係って?」
 ぐるりと視線が集まる。明らかに興味津々という感じだ。
 まぁ、昨日のあの態度とあの言葉では誤解されても仕方ないと思う。
「双子の弟。」
 キッパリ訂正したら、周りからはなぁんだという声が上がった。
 やっぱり誤解されていたらしい。
「…本当はキラも高校はうちに来ようと思ってたんだよ。」
 カガリと一緒が良い と、自分でシスコンだと言い張る弟はギリギリまでそう言っていた。
「じゃあどうして?」
「桜坂に通わせるのは母親の夢だったんだって。それに担任にも泣きつかれて。」
 ここら一帯では最高水準のエリート校。そこはまた父の母校でもある。
 そんな経緯で母親の夢と教師の期待に根負けし、キラはあの高校に行くことを決めた。
 住めば都というか、行く前は渋っていたキラも今では不満もないと言っていたけれど。

 …でも姫って……

 やっぱり気になるのはそこで。
「…今夜聞いてみよう。」
 何も知らないカガリはのんびりとそんなことを考えていた。



 余談。
 翌日のキラ姫はもの凄く不機嫌で誰も近寄れなかったらしい。







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前の話の翌日の話。深い意味もなく書き殴り。



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