ささやかな誕生日


「―――カガリ。ちょっと来て欲しいんだけど。」

 キラに呼ばれたのは 慌しい中で僅かに空いた時間のこと。
 そして承諾して連れて来られた場所は、何故かキラの部屋だった。





「中 入って。」
 促されて扉をくぐるAAのキラの部屋は、久しぶりに訪れても変わらず殺風景だった。
 これは整理が為されているというより 物が無いと言った方が正しい。
 元々 キラは手元に端末さえあれば良いのだから、それも当然のことなのだろうけれど。

 他に人が生活している実感がある者といえば、ラクスが持って来て置いたのだろうか 観葉
 植物の鉢が数種あるくらいだ。
 彼にはトリィ以外の私物というものがあるのだろうかと、つい心配になってしまった。




「こっち。」
 キラの声で見渡すのを止めて パソコンが置いてあるデスクに足を向ける。
 何故だかどこか嬉しそうな様子のキラが不思議で。

 よく見れば 他にも何か置いてあるようだと思いつつ近づいたカガリは、


 ―――そのまま言葉を失ってしまった。



「これ、ミリアリアが作ってくれたんだ。」
 何も言えずにいるカガリに向かって キラがにこりと笑って説明してくれる。

 そこにあったのは 2人分の小さなケーキ。
 甘い生クリームの香りがふわりと掠めた。

「…今日は僕らの誕生日でしょう?」

 実はさっきまで忘れてたんだけどね、と。
 言うキラにも言葉はやはり返せなくて。

 キラが1本ずつ立っている蝋燭に火を付ける間も、ただ じっとそのケーキに魅入っていた。



 忙しさの中で忘れてきたもの。
 理想と現実の狭間で 広がる差の分だけ焦る気持ちに押しやられてしまった、それは小さな幸せ。

 沈んでいた気持ちも溶かして消えてなくなるような。
 人がくれる"おめでとう"の気持ちは こんなにも温かい。


 …嬉しかった。




 ♪ Happy Birthday to you...



 キラの声に合わせてカガリも歌を紡ぐ。

 互いの為に、互いを祝う歌を歌う。
 同じ日に生まれた大切な半身の為に、今2人が共に在る幸せを。


「おめでとう、カガリ。」
「おめでとう、キラ。」


 そして"せーの"で灯る火を吹き消す。


「「ありがとう」」


 顔を見合わせて 2人で微笑った。




 戦場の中の、それはささやかなバースデー――――







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アスキラ長編が書き上がらなかったので DESTINY双子で。
アスランもラクスもいないので、2人きりで祝ってみました。



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