FANTASIA 番外編
   氷の王子と菫の姫君




「お、戻ってきたか。しかも女連れとは隅に置けないな。」
 ひらひらと手を振る男の胸倉をイザークは歩み寄ると同時に掴みあげた。
 人を馬鹿にしたようなこの軽い口調はいつも気に触る。
「今すぐその口を閉じろ。」
 しかしどんなに睨んでも相手はいつものことと全く気にしない。
 ニヤニヤと笑いながら イザークの後ろの女性に視線を落とした。
「冗談通じねーなー ……ん、シホ?」
「え? あ、ディアッカ様!?」
 2人とも互いを認識してビックリする。
 そしてそれに驚いたのはイザークも同じだ。
「知り合いか?」
「貴族なんてみんな知り合いみたいなモンだろ。家柄も似たようなもんだし。」
「…公爵と侯爵ではかなり違うような気もするのですが。」
 シホの静かなツッコミは軽く無視。
 身分を気にしないディアッカにしてみれば、公爵だろうと何だろうとあまり関係がなかっ
 た。
「まーつまりは幼馴染みたいなもんだ。」
「…そうか。」
 そう呟いたイザークの機嫌が悪くなっていることにディアッカは気がつく。
 だてに長い付き合いはしていない。
 そしてその理由も聡い彼は何となく理解した。


「―――踊ってくれば?」
「「え?」」
 唐突な提案に 2人から不思議そうな視線を向けられる。
 どうやらそういう発想はなかったらしい。
「イザーク、お前まだ一回も踊ってないだろ? シホもせっかく来たのにこのまま帰るのは
 勿体無いだろうしさ。」
 顔を見合わせた2人は、無言のまましばらく見つめ合って。
 最初に動いたのはイザークだった。

「…お前が嫌じゃなければ。」
 差し出された手に シホはおずおずと自分の手を重ねる。

 そうして2人はディアッカに見守られながら、ホールの真ん中に降りて行った。







 周りが唖然とする中で2人は踊りだす。
 誰にも誘いをかけたことがないイザーク王子が誰かと踊っている。

 あの姫は誰なのかとホールは騒然となった。








「これも貴方のお膳立てかしら?」
 その光景を面白そうに眺めながらワインを傾けているところへ声をかけられて振り返る。
「エザリア様。と言いますと?」
 とぼけたようにディアッカが返せば、彼女も面白いといった風に笑んだ。
「あの娘、ハーネンフース侯爵の一人娘でしょう? 年は同じで家柄も申し分なく、姫君自
 身もあの子好みの控えめ美人…となれば、作為的な者を感じてしまうのは仕方ないことで
 はないかしら?」
 確かにシホはイザークにとって完璧な存在だ。
 ディアッカは2人をよく知っているが、出会えば惹かれ合うだろうということは何となく
 分かっていた。
 けれど、今夜で会うのは彼にも予想外のことだったのだ。
「踊ってこいとは言いましたが、それ以外は何もしてませんよ俺は。見つけたときにすで
 に出会っていたので。」
「あら、そうなの?」
 エザリアも意外という顔をする。
 出来すぎた出会いだが、本当に偶然だったのだ。

 ―――これが運命なのかと思えるくらいに。


「でも、貴方はあの子達の味方になるのでしょう?」
「2人がそれを望むなら。」
 2人ともディアッカにとっては大事な友人だ。
 彼らが望むならば、誰が反対しようとも手伝うつもりだった。
「楽しみにしています。」
 ふふとエザリアはどことなく嬉しそうにしている。
 大事な息子が最愛の女性を見い出だしたのが嬉しいらしい。
「反対はされないんですか?」
 ディアッカが意地悪く聞けば、彼女は少女のように笑った。
「理由があればします。ですが、私がしなくても周りが勝手に障害になってくれるでしょ
 う。」
「…それもそうですね。」
 忘れていた、と面白がっていただけだった自分を反省する。


 確かに敵は多い。
 シホは無欲だが、未来の妃の座を狙う女は数多くいる。
 今も踊る2人を睨みつけている女の多いこと。
 控えめな性格をしているシホがそれに耐えられるのか。

 次期王の妃になるには 恋心だけではダメなのだ。




「さて、どこから手を打つか…」

 幸せそうにしている2人を眺め下ろし、ディアッカは複雑な心境で呟いた。




 =-= END =-=





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と、いうわけで。イザシホ出会い編です。
イザ様が積極的なのは無意識です。恋愛経験値ゼロなのでよく分からず行動してます。
なのでこの後は進展しないったらありゃしません(笑)
てか エザリア様は黙認なんですね〜
まあ彼女は政略結婚ですし、息子には恋愛結婚をして欲しいと思ってるんじゃないんですかね。

そんなわけで、イザ様ハピバ〜!!(^▽^)v




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