運命のヒト ((5))




 そして、何もできないまま何日かが過ぎて―――



 昨夜の仕事が夜中に終わり、翌日の休みは昼近くまで寝ていた。
 そうして昼食にフレイを誘って、いつものカフェのいつもの席に2人で座って。
 …あの日のことを相談したら、「馬鹿じゃないの」とばっさり切られた。

「どうして言っちゃったのよ。」
「だって、誤解されたくなかったんだもん…」
「でも結果的には同じよね。」
 フレイは何事も隠さない分、言葉も行動もストレートだ。
 それは好ましい部分でもあるけれど、今はその言葉がぐさりと胸に刺さる。

「分かってる。だからちゃんと言おうと思ったんだけど…なんだかんだで会えなくて。」
 ミリアリアの仕事が忙しくなったこともあるが、1度だけ意を決して誘ったら彼の方が会えな
 いと言われた。
 前に会った時は事前に分かればいつでも大丈夫だと言っていたのに。
 やっぱり避けられているのかと思ってあの時はかなり凹んだ。

 けれどメールや電話じゃ駄目だと思ったから。
 そんなに簡単に済ませられるものじゃない。

「だったらこんなところで私と会ってる場合じゃないじゃないの。今会いに行けば良いでしょ
 う?」
「だから、どこにいるのか知らないのよ。」
 会いに行こうと思ったこともあったけれど、どこに行けばいいのか分からなくて愕然とした。
 彼がどこに住んでいるのか、どこで働いているのかさえ聞いていなかったのだ。


「仕方ないわね。」
 片手で持てるくらいの小さなバッグから携帯を取り出して、フレイは軽く数回ボタンを押す。
 プルルルッとかすかに音が聞こえて、わりとすぐに相手に繋がった。

「もしもし、キラ? 今ちょっと良い?」
 電話の先――― 彼女が呼んだその名は、ディアッカと友達のあの茶色い髪の人だ。
 彼女達の方も今も交流があるのだろうか、彼女の態度もくだけて見えた。
「友達の…そう、その男。今どこにいるのか教えて。…え? 私じゃないわよ。」
 話しながら店のアンケート用紙の裏に住所を書き写す。
 待っているミリアリアの鼓動も心なしか早くなって、彼女の電話に聞き入った。

「…ちょっと待って。」
 その手が、途中で突然ぴたりと止まる。
「間違いないわよね? ……そう。」
 確認だけすると、それ以上は書かずにありがとうと言って電話を切った。
 最後のは何だったんだろうと思いつつも、それより気になるのは彼女が書いたメモの方。
 気づいたフレイがハイと手渡してくれる。

「行ってきなさい。そしてちゃんと伝えるのよ。」
 トールのことも全部知っていて、フレイは背中を押してくれた。
 メモを握りしめて立ち上がる。

「―――ありがとう。」


















「この辺りのはずよね…」
 示された住所の場所はいつも人で賑わうショップ街。
 雑貨屋の隣の角の店だと去り際にフレイは教えてくれたけれど、何度か通ったこともあるはず
 のそこが何の店かは覚えていない。
 服屋だったかな?とその目印の雑貨屋を視界に入れて、その先に目をやって。

「…え?」
 予想外の光景に数度瞬いた。
 でも、店先で愛想良く客に手を振る姿は間違いなく。

「ウソォ…」
 ああでもいきなりのプロポーズ(?)の時に大きいの持ってたなぁと思い出す。
 しかし、意外というかギャップがすごいというか信じられないというか。

「……"花屋"とは思わなかったわ…」


「いらっしゃいま…って、ミリィ!?」
 客だと思って振り返った彼がミリアリアの存在に気づいて驚く。
「どうしてここに」
「花屋… 有り得ない…… 冗談とかじゃないわよね?」
 あまりの衝撃に当初の目的を忘れてしまい、開口一番出てきたのはその言葉。
 でも本気で冗談かと思った。
「ひでーなぁ 家業だから仕方ないだろ。」
 怒るかなと思いきや、彼は苦笑いで肩をすくめる。
 エプロン姿も似合わないわけじゃないし、彼が嫌でやってるわけじゃないのも見てて分かるけ
 ど。



「で、どうしたんだ?」
 花を買いに来たわけじゃないことはミリアリアの反応で分かっている。
 じゃあディアッカに用事があると思うのは当然の流れだ。

「…誤解を、解きに来たの。」
 緊張して心臓が飛び出しそうになりながら、ミリアリアはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「誤解?」
「トールのこと。」
 その名前が出た途端に彼の表情がわずかに硬くなった。
 やっぱり誤解されている…と、気分を落ち着けるためにもう一度深く息を吐く。

「確かに、トールを死なせた自分をまだ許せずにいるし、トールを置いて幸せになっちゃいけ
 ないって思ってたのも本当よ。」
 心にあるのは後悔、そして罪の意識。
「でもそれは…」
「待って。最後まで聞いて。」
 優しい彼の言葉を塞いで、小さく首を振る。
 事実は事実。トールが責めていなくても、偶然の事故だったとしても、あの我儘が事故の原因
 の一つだというのは変わらない。
「許せないの。だから誰も好きにならないって思ってた。…でも、」


「―――私も"運命"だって思ったのよ。」


「…え?」
 ミリアリアの言葉に、ディアッカはポカンとなる。
「誰も好きにならないって思ってたのに止められなかったの。」

 トールのことで心にあるのは後悔、そして罪の意識。
 好きだった。けど、彼のことを引きずっていたのは未練のせいじゃない。

「身代わりだなんて思ったことはないわ。そもそも、トールと全然似てないし。」


 最初から重ねたことはない。
 初めて会ったあの夜から――― 


「私が惹かれたのは、貴方だからよ。」
 そこまではっきりと言い切ってから、改めて彼の顔を見る。
 いきなり店に現れて、いきなり告白なんかして。
 ドン引きされないか心配になったけど、彼の反応は心配するようなものじゃなかった。

「……マジ?」
 言葉の意味までようやく飲み込めたのか、口元を押さえる彼の顔がみるみる赤く染まっていく。
 彼らしくないその反応は、ミリアリアを現実に戻すのに十分だった。


「…え、っと、じゃあ、それ言いたかっただけだから。仕事の邪魔してごめんね。」
 ここが店先で往来のど真ん中ということを思い出し、だんだんと恥ずかしくなってきたミリア
 リアはそそくさとそこを去ろうとする。
 人混みに紛れようとして、けれどその前に彼がミリアリアの腕を掴んで引き止めた。

「さっきの… OKと受け取っても良いのか?」
 彼の真っ直ぐな視線も気恥ずかしくて、答えの前にちょっとだけ視線を逃がす。
「結婚…は、まだ考えらんないんだけど。」
 小さな答えに腕を掴む手が微かに反応を示し、ただそれだけで彼の緊張が伝わってきた。
 また誤解をされかねないと、違うという意味を込めて彼の腕に縋りつく。

 周りの視線は忘れることにして。
 …後で恥ずかしくなっても私だけじゃないし。



「貴方は欲しいわ。」



 そうして 貴方にキスの雨を。





-v- A HAPPY END -v-





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ミリアリアの誕生日にも、真ん中誕生日(3/9)にも間に合わなかったけど、ディアッカの誕生日にはなんとか間に合いました。

彼氏が花屋というところと、出会ったクラブで意気投合してそのまま朝でさらにその日にプロポーズの部分だけ残ってる状態。
トールのような存在は出てきませんし、映画デートはあってもバイクは出ませんよ。
ちなみに原作ヒーローのイハくんは誠実で真面目なタイプです。ディアッカとはぜんぜん違うわ〜(笑)



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