想い色の花束
それは1月のとある日の朝。 場所は人通りも多い靴箱だった。 しろ 「―――ラクス、」 キラに名前を呼ばれて応えたのと同時に、彼から「はい。」と手渡された シルクのよう に白い1本の薔薇。 1番良いものを選んだかのようなその美しい花は、確かに女性に贈るに相応しい。 けれど、贈られる理由がラクスには分からなかった。 今日は特別なことも何も無いはずなのに。 どんなに考えても彼女にはその花がどんな意味を持つのか分からない。 だからその日はただ「ありがとうございます。」とだけ返した。 キラもそれで満足したように笑顔のまま何も言わなくて。 だけど、まさかそれがその後毎日続くだなんて。 その時のラクスは思いもしなかったのだ。 スノウホワイト 乳白色 その日から毎日一輪の薔薇を贈られた。 理由を聞いても笑顔で「最後に教えるね。」とだけ言われてしまって。 それからラクスが何度聞いても結果は同じ。 不思議な不思議な贈り物。 いつが最後かも分からない連日のプレゼント攻撃。 オフホワイト 桜色 ベビーピンク とある変化に気付いたのは6日目。 「あれ? これってピンク色?」 「…あら。本当ですわね。」 カガリさんの呟きで同じだと思っていたものの変化を知って。 けれど、真意は謎のまま。 撫子色 ピンク 桃色 チェリーピンク 会えない日は、楽屋に、家に。一輪の薔薇だけが届けられた。 メッセージのない贈り物は休むことなく続く。 カメリア ストロベリー 薔薇色 あか ワインレッド そして、何も分からないまま。 ついにその日はやってきた。 深紅 アスランから伝言を受けとって会場を抜け出したラクスは静かなベランダに出る。 ―――今日は2月5日。 クライン邸ではラクスの誕生日パーティーが開かれていた。 外の空気は会場に対して痛いくらいに冷たい。 アスランがショールを渡してくれて良かったと思った。 会場の明るい光が漏れるそこで彼を見つける。 その 白い息を吐きながら夜空を見つめる背中にそっと声をかけた。 「…風邪を引きますわ。」 「大丈夫だよ。すぐに終わるから。」 振り返ったキラの手の中には今日もまた美しい薔薇が一輪。 その色は"深紅"。 「―――誕生日おめでとう。」 「…これで最後、というわけですわね。」 やっとラクスにも あの日から今日まで休まず贈り続けられたのかが分かった。 今受け取った深紅で16本目の薔薇の花。 つまり16になるラクスの年とかけたらしい。 「大変ではありませんでしたか?」 「そうでもないよ。それに、僕としては目標が達成できて嬉しかったし。」 「?」 なんのことだろうと首を傾げる。 「今年こそ誰よりも早く祝いたかった。」 彼の言葉でラクスはようやく気がついた。 去年も一昨年も出遅れてしまったことをキラはまだ引きずっていたらしい。 まず付き合って初めての誕生日、キラは熱を出して寝込んでしまった。 回復には丸3日を要して、逆にラクスからお見舞いのプレゼントをもらう始末。 そして次こそはと意気込んだ翌年は、ヤマト家のゴタゴタでラクスの誕生日を含む前後 1週間も連絡が取れない状態になってしまったのだ。 これにはキラもかなり凹んだらしい。 どちらも祝いの言葉は後日にもらったけれど、それでもキラは自分が1番じゃなかったこ とが嫌だった様子。 「でも、私は気づきませんでしたわ。」 それでは意味がないのではないかと。 けれどキラは満足げに笑った。 「良いんだよ、僕さえ分かっていれば。ただの自己満足なんだから。」 そうして "寒いから"と、キラはラクスを腕の中に閉じ込める。 その頃には互いにすっかり冷え切っていて、顔を見合わせて苦笑いした。 「…でも どうして全て色が違うのですか?」 潰してしまわないようにかざした薔薇の色は深紅だけれど、最初にもらった色はシルク の白。 グラデーションのように日々変わる薔薇にはどんな意味があるのだろう。 するとキラは小さく笑って耳元に唇を寄せた。 「…色の変化は深くなっていく想いを、」 熱い息が耳にかかる。 「赤い色は"愛してます"のシルシ。」 触れるか触れないかの距離に思わずビクリと震えてしまって。 それにまたキラは耳元で笑った。 「―――ラクスが好きだよ。今は もっと好き。」 「ッ!」 反則だと思う。 こんな不意打ち、絶対反則。 ここが外だと忘れるくらい熱くて、心臓の音はうるさくて。 さらにそれがキラにバレていると思ったら余計恥ずかしくなった。 「ずるいですわ…」 今日は私の誕生日なのに。 何故だかすごく負けたような、悔しいような気分になっている。 「想いなら私だって負けませんのに。」 そして口をついて出たのは素直な気持ちだったのだけれど。 「え?」 意外なことを聞いてしまったとでもいうような。 キラはきょとんと目を瞬かせた後、みるみるうちに顔を赤く染めた。 「…ちょ、……ラクスだって人のこと言えないじゃないか…ッ」 2人とも真っ赤になって、でも離れることはしたくなくて。 その後心配したアスラン達が呼びに来るまで、2人はどちらの方が好きの気持ちが強い かという口論を続けていた。 >>END<< --------------------------------------------------------------------- 最後のセリフがなんてゆーかアレな感じですが。でもどこかで切らないと終わらなかったんですよ! このままだとこの2人は際限なく惚気まくった会話を続けるところだったので。 ラクスの誕生日なんですが、なんかあんまり祝った感じがしませんね… この話を書くために、色の本(\2500)を買いました。思いの他面白いです、この本。 でもこれ 薔薇の色の名前ではなく、ただ白→深紅のグラデーションにしたくて選んだ色なのです。 実際ならローズピンクとかローズレッドとか、オールドローズやローズ(薔薇色)になるんでしょうけど。 今回、ちょうど良い色がなくて薔薇色だけは使いましたが。