act.5 - 授業中
ホワイトボードに文字が書き込まれる音、そして教師の説明の声。
ノートに書き写す音、紙がめくれる音、開いた窓から入り込んだ風がものを揺らす音。
それらを全て背景の一部にしながらアスランが見つめるのは窓の外。
清々しいほどに晴れ渡った空の下、運動場では体育の授業でサッカーが行われていた。
「――――可愛いなぁ…」
ボソリと呟いた声は誰にも聞こえず 口の中でとけて消える。
生徒会長を務めるほどの真面目なアスランが普段ボーっと外を眺めることはない。
外を見ているのはそこに"彼"がいるからだ。
キラの存在を前にすれば真面目な生徒会長様の仮面も不要なものとなる。
アスランの愛しい想い人、キラ。
彼の世界の中心であり、現在思考の9割方を占めている少年だ。
広いフィールドを活き活きと動き回り くるくる表情を変えながら楽しげに参加している彼を
見て、アスランも微笑ましいと自然と表情が綻ぶ。
「…あ。」
敵チームとのボールの取り合いで混戦していた中、よろけた仲間を助けようとしたキラが下敷
きになった。
すぐに飛び退いた相手がキラを助け起こすが キラは肩を押さえたまま立ち上がらない。
試合が中断されて彼らの周りには人が集まりだし、駆け寄った教師がキラに何やら言っている
ようだった。
ひょっとしたら大きな怪我なのかもしれない。
―――そう思ったら いてもたってもいられなくなった。
「っキラ!」
突然叫んで立ち上がったアスランは 周りの驚いたような視線も教師の制止の声もお構いなし
に教室を飛び出して行ってしまう。
呆気に取られた教師は呆然と彼が去ったドアを見つめるしかなく。
ニコルとイザークはまたかと 呆れた顔で溜め息をついた。
「…キラが怪我でもしたのでしょうね。」
窓から遠い為外の様子が見えていないラクスだが、おおよその予想はつく。
そしてそれは見事に的を得ていた。
「……つーか 今が授業中だって自覚あんのか? アイツ………」
その後ろのディアッカの呟きは とりあえず彼らの心を代弁していた。
「キラ! 保健室に行くぞ!」
突然現れたアスランにビックリしたのは周りの生徒達だけではなくキラも一緒だ。
今は授業中で、それはアスランも同じではなかっただろうか。
もう立ち上がって試合を再開しようとしていたところだったから、キラも別に良いよと首を
振った。
「転んだときに肩をぶつけただけだし、別にこれくらい大したこと…」
「問答無用。」
言うや否やキラをひょいと抱えあげて校舎の方へ向かっていく。
周りは相手がアスランだということもあって口も出せずに見送ってしまった。
「ちょ、ちょっとアスラン!?」
「暴れるな、傷に響く。」
状況に焦って言ったら睨まれてしまってその気迫に縮こまる。
別にもうあんまり痛くないんだけど…と言いたいところだが、アスランがこの状態では強くは
言えない。
こうなれば何があっても保健室まで連行されてしまうので キラも早々に説得を諦めて素直に
大人しくなった。
「…でも、どうしてお姫様抱っこなの……」
男の子として悲しい気分になりながら、そういう所は天然なアスランにキラは聞こえないツッ
コミを入れた。
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授業は真面目に受けましょう。
これは最近考えたネタなのでなんか雰囲気違いますね。(アスキラ密着度高)
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