act.+1 - 始業式


 新しい季節、新しい学年。

 けれどそれは自分には関係ないと思っていた。
 このまま変わらない日々を送るのだと、いつもの"明日"を信じて疑わなかった。


「今年もAか。キラも当然同じだろう?」
 クラスを表示される掲示板にあっさり自分の名前を見つけたアスランは 隣で同じく掲示板を
 見上げているキラを振り返る。

 中学に入った時からメンバーにあまり変わりばえはしない。
 他の奴らに興味はないが、キラと同じクラスなのは偶然ではなかったし 今回も心配はしてい
 なかった。
 けれどキラの視線はアスランと同じではなくて。

「―――あ、僕 B組だ。離れちゃったね。」
 掲示板から目を離したキラが 何でもないことのような顔でさらっと言った。
「な…!?」
 そんな馬鹿なとB組の掲示板を見ると、そこには確かにキラの名前が。
 そして自分の組を何度見てもキラの名前は見当たらなかった。

 キラと自分がずっと同じクラスなのは偶然などではない。
 父の権力を使ってそうさせてきたのだ。
 今回だっていつものように根回ししたはずなのに。
 考えられることといえば、その父を上回る何かが動いたということだ。
 しかし、その父を上回る権力というものに心当たりはなかった。


「ん? 私の名前もAにないな。」
 キラを挟んで向かいにいたカガリも不思議そうに首を傾げている。
 彼女も今までずっと一緒だった。
 3人は他と違って幼稚園の頃から一緒で、その彼女もAではないというのは一体どういうこと
 なのか。
「―――カガリもこっちみたいだよ。」
「あ、本当だ。」
 キラが指さした先に自分の名前を見つけた彼女はほっとした様子だ。
 それに納得いかないのはアスラン一人。
「俺だけどうして別なんだ!?」
 キラとカガリが一緒なのに自分だけが違うなんて。
 そんなの有り得ないし冗談じゃない。

「…今からでもクラス変更をしてもらおう。」
 思い立ったら即行動と くるりと踵を返すアスランをキラが慌てて引き止めた。
「ちょ、いくらなんでも今からじゃ無茶だよ!」
「キラは良いのか? 俺はキラと過ごせない日々なんて耐えられない。」

 キラの隣は自分の場所で、いつも一緒で離れることもなくて。
 それにカガリが割り込んで喧嘩になり、中学からはイザーク達も加わってさらに大騒ぎ。
 それは変わらないと思っていた。
 もし たとえ他の全てが変わってしまってもこれだけは、キラが隣にいることだけは、不変だ
 と思っていたのに。

「だって仕方ないよ。」
 クラス替えってそういうものなんだし と、割り切った様子のキラは不思議なくらい落ち着い
 ている。
 それともただ自分が大袈裟に騒いでいるだけなのだろうか?
 渋い顔をしたまま黙り込んでいると、キラは下から覗き込むように見上げてきた。
「でもお昼は一緒に食べるし 朝も一緒に行くのは変わらないから。それじゃ駄目かな?」
 …本当は不満も残っているけど。一緒じゃないのは嫌だけれど。
 そんな風に可愛く言われてしまって逆らえるわけがない。

「……分かった。」


 でもその時の俺はまだ気づいていなかった。
 思っていた以上に俺はキラに依存していたのだ。

 そんな俺が慢性的なキラ不足に陥るのは それから一月も満たない後のことだった―――






*******







「……本当に良いの?」
 当たり前なのかもしれないが、キラの提案は彼女にあまり歓迎されなかった。
 心配そうな目で思い直すように言われる。

 でも仕方ないのかもしれない。
 "アスランと別のクラスにして欲しい"、なんてお願いだ。
 今でもアスランに頼りっ放しの自分が言い出すのはおかしいことなのかもしれない。

 けれど、キラの思いは変わらなかった。
 もう1度深く頭を下げる。キラには彼女以外に頼れる人がいなかったから。
「お願いします。」
 再度のお願いに彼女―――アスランの母レノアは、深い溜め息をつく。
 そして どうして?とアスランと離れたい理由を尋ねてきた。


「……このまま一緒にいたら駄目になるって思ったんです。」

 僕だけじゃなくて、アスランも。
 自分が彼の傍にいることは あの優しい幼馴染のプラスにならないと思ったから。

「いつも守ってもらってばかりで、僕は彼の足枷にしかならない。それは嫌なんです。」

 彼は自由になるべきだ。
 いつまでも僕と一緒に立ち止まっていなくても良い。
 僕にかまって可能性を潰す必要は無いはず。

「アスランの為に、そして僕の為に。僕とアスランを離して下さい。」


 先に行っていて良いよ。
 僕は君の隣に立つために一生懸命追いかけていくから。
 ―――そして 僕が追いつけなくても、君は進んでいけば良い。

 僕はただ、君と対等で在りたいだけ。
 大好きだから、君の負担になりたくないだけ。


「―――分かったわ。でも条件があるの。」
 キラの思いを知った彼女は困った顔で笑いながらも"お願い"を承諾してくれた。
「なんですか?」
「カガリさんは同じクラスよ。そこは譲れないわ。」
 本当は自立の為には彼女とも離れた方が良いのだけれど。
 優しい配慮だと知っていたから嫌とは言えなかった。

「…ハイ。それでお願いします。」




 高1の冬の日。キラ、自立の為の第一歩。







---------------------------------------------------------------------


犯人はキラ様でした。
キラ的には真剣なんですが、何も知らないアスランは不憫だと思います。



BACK