うた




 戦後、オーブの国政を立て直し、父の後を継いで国家元首となったカガリ。
 キサカやアスランに手伝ってもらいながらではあったけれど、国は確かに復興を遂げていた。

 戦争を直接体験したオーブは、反戦意志から地球−プラント間の橋渡し役として外交にも力を入れ
 ている。
 そのおかげで今のカガリの忙しさはかなりのものだった。

 ―――はずなのだが。

 そんな中、カガリは1週間近くの休暇をアスランの分も一緒にもぎ取った。
 普段はお目付役として許さないはずのキサカも今回はすんなり許可を出して。

 その理由は、彼女への誕生日プレゼント―――というわけではなく。
 彼女が心配し気にかけている ある人物のためだった。



 休暇初日、アスランとカガリは街へと買い物に出かけた。

「んー…」
 ひととおり買ったはずなのに カガリはまだしきりに何かを探して歩いている。
 さっき買った分は一度車に置いてきたので重くてつらいなどということはないのだが。

「次は―――…」
「まだ行く気なのか?」
 考え込んで店に入ってを繰り返すこと約30分。
 その間 まともに会話もしていない。
 さすがのアスランも呆れて 並んで歩きながらまた何やら考えているカガリに横から声をかけた。

「1日付き合ってくれるって言ったのはお前だぞ。」
 さっきから見向きもしてくれなかった彼女がやっと自分の方を向いて、でもちょっと睨むように見
 上げていて。
 せっかくのデートなのに無視され続けて怒りたいのはこっちなのに、その仕種すら可愛いと思えて
 しまう自分は重症だろうか。

 …って!

 考え至った言葉に独り赤くなりそうになって、それをどうにか咳払いでごまかした。


「でも お前へのプレゼントはさっき買っただろ?」
 もちろん、それとは別に手作りペットロボの新作も用意している。
 彼女がトリィやハロを見て羨ましいと言っていたから。
 仕事の合間に完成させたそれは 後は渡すだけとなっている。

「まだ何か欲しいのか?」
「違う。今探してるのは私のじゃない。」
 じゃあ誰のか、といえば1人しかいない。
「…お前もたいがいブラコンだな。」
 それは同じ日に誕生日を向かえる彼だけだ。
 今はラクスとマルキオ導師の家に住む彼女の唯一の肉親。


「キラの為に国主催のパーティーの日程の方を変えるし。」
 誕生日は大事な人と過ごしたいからと。
 パーティーの方を延期してもらった。
 だから休暇明けはそうとう忙しいだろうと覚悟している。
「仕方ないだろ、キラが来ないって言うんだ。だったら私が行くしかないじゃないか。」
 そのリスクを承知してまでカガリはキラと祝いたかったらしい。

「2人っきりで祝いたいっていうのは無理な話なんだろうな…」
 ポツリと漏れる本音。
 自分相手じゃここまでしてくれなかっただろうなんて。
 まだまだ敵わない相手に軽い嫉妬を覚えて。
「何か言ったか?」
「いや。」
 でもそんな自分は知られたくなくて黙り込んだ。
 血の絆に勝てるわけがないのは解っている。
「? そうか? あ、あの店入ってみよう!」


 ―――ま、良いか。
 デートなんて滅多にできないんだから。

 はしゃぐ後ろ姿を見つめながら、誰もが赤面するほどの優しい笑みを背中に贈った。










*******










 マルキオ氏の家は2人乗りの小型ヘリでもすぐに着く位置にある。

「きらぁーーー!」
 出迎えに来た彼の姿を認めた途端、カガリは飛び出して行ってがっしと抱きつく。
 飛ばしたメットはアスランが後ろでキャッチした。

「カガリ、久しぶり。お誕生日おめでとう。」
「キラこそおめでとう。」
 少し離れて目を合わせて。
 互いに笑顔で言うと、カガリはまたしがみつくように腕に力を込めた。

「ラクスが中で用意して待ってるよ。」
 ポンポンと頭を撫でてやって、ふと視線を上げると複雑そうな表情でこっちを見ているアスランと
 目が合う。
 それにキラは苦笑いして。
「ごめんね。」
「良いさ。お前達はそう会えないんだから。」
 肩を竦めて返された。

「うん、ごめん…」
 キラの瞳が切なそうに揺れる。
 逸らして落とした視線は頼りなげな印象でアスランは眉を顰めた。
「そういう意味で言ったんじゃない。」
「…そうだね。」


 まだ踏み出せないでいる。
 今ある現実を、まだ受け入れられていない。
 キラには癒しが必要ですと、何も問わず傍にいる彼女に甘えて。
 まだ癒えぬ傷をいつまでも引きずって。

 カガリも、アスランも、ラクスも。
 みんな 痛みを乗り越えて頑張っているのに。

 僕だけがまだここにいる。











 1人 星空を見上げる。

 後ろの家の中からはドタバタと走り回る足音と子供たちがはしゃぐ声。
 時折カガリの声が混じっているから遊んであげているのだろう。

 トリィはハロと一緒にアスランにメンテナンスを頼んだからここにはいない。





「キラ。」
 戸を閉め ラクスは静かな声で彼の名を呼ぶ。
 けれど並び立っても 星を見上げる彼からの反応はない。

「明日も晴れるそうですわ。」
 ラクスも星を見上げる。
 随分少なくはなったものの、今だに降り続ける"流れ星"。
 戦争の名残は今もなお残っている。

 "星"が降る限り彼は癒されないのだろうか。
 また、あの頃のことを思い出しているのだろうか。

 彼はいつ、心からの笑顔を見せてくれるだろう。



 ―――しろいつばさをひろげて おおぞらにとびたって…


 ふと、前奏もなく歌い始める。
 けれど 空気に溶け込むように自然に。

 静かに、優しく、包み込むように。
 歌声は夜空に向けて。


 ―――いつかみたゆめのために はばたいているあなた…


 キラは何も言わない。
 聴いてくれているかも分からない。
 でもそれでも良かった。

 今でなくても いつか届いてくれれば
 想いのカケラでも いつか受け取ってもらえれば

 今はまだ届かなくても…



 ―――きっといつか しんじてるから…




「…いつもと違う感じの歌だね。」
 歌い終えて、しばらくして。
 キラがラクスの方を振り向いた。
「聞いたことない歌だ。」

「―――これはキラの歌ですわ。キラのために、キラにだけ歌う歌です。」
 にこりと笑って嬉しそうに答える。
 その言葉の意味を知って、キラは少し驚いたように目を見開いた。
「じゃあラクスが?」
「はい。」

 キラのために。キラだけのために。
 今までそんな風に歌を考えたことはなくて。
 でも誰かを想って考えることは、いつもと違う楽しさがあって。
 1人の少女としての気持ちがずっと溢れていた。

「拙いものですけど。」
「そんなことないよ、キレイな歌だね。」
 けれど、その後に「でも、」と付け加える。

「…でも、僕にはキレイすぎる、かな。」
 自分はこんなにきれいじゃない、と。
 自嘲気味に言ったキラの手を取り、ラクスは首を振った。
「そんなことありませんわ。これが私の中のキラです。」

 キラのイメージは白い鳥。
 1度は傷ついて空から落ちて。
 その傷を癒してまた飛び立った。
 そして今は、再びボロボロになった翼を癒す時間。
 いつかまた飛び立つために。


「私からキラへのプレゼントです。」

「―――ありがとう。」

 今はまだ淡い笑み。
 けれどいつかは。



「もう一度…」
「え?」
「もう一度、歌ってくれないかな…?」
 少しはにかむように「ダメかな?」と伺うような様子で。
 滅多にないキラからのお願いを断る理由なんてあるはずもなくて。

「! 喜んで!」
 それに笑顔で答えた。

 貴方が喜んでくれるなら。
 何度でも歌を捧げましょう。




 しろいつばさをひろげて おおぞらにとびたって
 いつかみたゆめのために はばたいているあなた

 あおいそらをみつめて たいようにてをのばして
 いつかしるゆめのつづき もとめている

 いたみをこえて なみだをこえて

 あなたのゆめはとおいそらのかなた
 かぜがたどりつくばしょ
 はばたきとんでなんどきずをおっても
 かぜがふいているから

 きっとたどりつけるわ
 しんじてる―――







---------------------------------------------------------------------


「星のはざまで」ベースなのでキラがちょっと暗め。あんま祝ってない気分です…
停戦から8ケ月近く。いい加減立ち直っても良いんでしょうけど 私の中ではまだ。
早く時が癒してくれると良いですよね。少しずつでも。
アスランはまだキラに負け気味ですね(苦笑)
でも別に前の話とリンクしてるわけでもないです。
うちの双子はいつもこんな感じですから。

キララクメインでごめんなさいねー カガリ。
だってやっぱキラ>カガリだし 私。
でも君にはアスランの手作りカニィ(仮)をプレゼントしたから!

歌は… 気にしないでください。疲れました…
だって詩とは違うんだもん… これだけでもけっこう時間かかりました〜…



BACK