彼らが求めた約束の地、辿り着いた極寒の地にて。
同時に見た絶望と希望。
絶望は怒りと戸惑いを、希望は一筋の光を。
そしてその地で自由の翼を降臨させた大天使は今、獅子の国に身を寄せている。
彼の地を治める懐の広い獅子は彼らに時間を与えた。
傷を癒し、飛び立つ先を決める為の時間を。
―――その中で迎えたこの日。
〜2つの贈り物〜
工場区、特に修理が急ピッチで進められているアークエンジェルでは外も内も様々な機械音や怒
鳴り声が絶えない。
けれど彼が今いる所、フリーダムのコクピット内ではその音も僅かに遠く、彼の指が叩くの音が
1番大きく響いている。
誰も干渉しないこの場所で、紫瞳の少年は黙々と己の作業を続けていた。
「―――…?」
不意にその少年―――キラの手元に影が落ち その手が止まる。
てっきりカガリだろうと思っていたキラは、顔を上げてそこにいた人物の意外性にキョトンとし
てしまった。
「キラ♪」
くるんと外にハネた薄茶色の髪、身に纏うのは鮮やかなピンクの軍服。
手摺りから身を乗り出して見下ろし、彼女は手を振っている。
「どうしたの? ミリアリア。」
笑顔で返すよりも今は ぽかんとした表情でしか返せなかった。
ブリッジの仕事が主の彼女にMS格納庫のようなエリアは縁がないはずだ。
不思議そうに首を傾げると彼女は出てくるようにと手招きする。
それに最初は戸惑いつつも、結局は了承の意を告げて彼女に顔を引っ込めるように言った。
彼女の前にすとんと降りると、ミリアリアは後ろ手に何かを持っている様子。
そしてにこにこと笑ったままで、キラの前にそれを差し出した。
「お誕生日おめでとうvv」
彼女の手に乗っていたのは布製のマスコット。
どう見ても手作りのようなそれは自分によく似ていた。
肩にはちゃんと緑色のトリィがいて、手のひらサイズなのに作りはかなり凝っている。
器用で裁縫も得意なミリアリアらしい。
「時間がなくてちょっと不格好だけど。」
「全然そんなことないよ。可愛いね。ありがとう。」
それを受け取ってまじまじと見つめる。
こうして祝ってくれる人がいるというのは幸せなことだと思う。
こんな状況だけれど、だからこそ その思いが嬉しかった。
「…でもそっか。今日って18日なんだ。」
少し呆然としたようにキラの口から出てきた言葉に、今度はミリアリアがキョトンとする番で。
「まさか忘れてたの?」
次いで呆れたような表情になった。
「あ、今日が何日って感覚はあるよ。けどそれが何の日だったかというのはあまり意識してなかっ
たから。」
日付の数字はただの記号で、今のキラには期限を表すものくらいの意識にまで落とされている。
だから気づかなかった。
「…自分の誕生日なのに?」
「けっこう間抜けだね。」
否定せずに彼女が笑うと、少しはフォローしてよと苦笑いで返ってきた。
「そういえば。すごい偶然があるのよ。」
「偶然?」
ちょっと興奮気味に言う彼女にキラは不思議そうに問い返す。
すると彼女はちょっと得意げに指を立てて。
「そ。カガリさんの誕生日も今日なんだって。」
「えっ そうなんだ? ホント?」
驚いて聞き返すと彼女はコクンと頷いて肯定する。
「うん。私もびっくりしちゃった。」
「そうなんだ…」
こんなに近くに同じ日に生まれた人がいるなんて不思議な感じだ。
生まれも育った環境も違うのに気が合うのはそのせいかもしれないとちょっと思った。
「この前ね、これ作ってた時たまたま話したの。」
カガリはモルゲンレーテだけでなくアークエンジェルの中も自由に出入りしているらしい。
以前も乗っていたせいか 誰も気に止めないので完全に好き勝手放題だ。
ミリアリアとは彼女が食堂にいたところを偶然見かけられて話しかけてきたらしかった。
「彼女話しやすい人ね。」
気さくで高慢な所もない、普通の人と同じ目線と態度で接する人。
お姫様のイメージとは全然違うけれど人柄には好感が持てる。
だからどちらから言うでもなく友達になれた。
「ほら見てv 作っちゃったのvv」
もうひとつ取り出されたそれは髪が黄色のフェルトで瞳はオレンジのビーズ。
並べるとキラと対になるような 同じマスコットだった。
「これをあげようかと―――…」
「おーい。」
横から声がして、2人が振り向くとカンカンと足音を立てながらカガリが駆け足でやってきた。
「こっちにいたのか。」
キラに言って 隣のミリアリアにも「よっ」と声をかける。
その相変わらずの気安さにミリアリアはふふっと笑って手を振り返した。
「―――で、カガリさん。」
乱れた髪をキラに手櫛で整えられていたカガリが呼ばれて顔を上げる。
向けられた笑顔に戸惑っていると、キラの手が髪から離れて。
「お誕生日おめでとう。」
今朝から何人もの人に言われた、いつ言われても嬉しい言葉を聞いて。
「これは私からのプレゼント。」
手のひらにポンと乗せられ、それを見た途端カガリの表情がパッと明るくなった。
この前見せられたのと色違いの、自分に良く似たマスコット。
欲しいと呟いたのが聞こえていたのだろうか。
「ありがとう。うわっ 可愛いなぁ。」
キラキラした目で見つめていると、"喜んでもらえて良かった"と言葉が返ってきて。
「僕とお揃いだね。」
つんとマスコットの頭同士を合わせて、キラがくすくす笑った。
「そういえば何か用事?」
彼女が自分を探していた様子だったことを思い出してキラが尋ねる。
すると彼女自身もすっかり忘れていたようで、「あ。」と慌ててポケットを探り出した。
「用事ってか… お前も今日誕生日って聞いたから。」
目的の物を捜し当てたのかそれをおもむろに引っ張り出す。
「これ。」
そして目の前に差し出されたのは銀のチェーン。
先に付いているのは同じ銀製のドッグタグだ。
「私からの誕生日プレゼントだ。」
喜べと言われたがキラの方は慌てた。
「え、でも僕何も用意してないよ。」
しかもこれから準備する暇も余裕も今は無い。
貰えないよと首を振る。
けれどそれでも強引に首にかけられて。
「別に良いさ。知らなかったんだろ、お前。」
だから要らないと。彼女は笑顔で言った。
確かにそれはそうなのだが。
けれどそうとはいえキラは納得いかず すまなそうな表情を向けている。
「んー…じゃあ来年。今年の分もまとめて貰う。それなら良いか?」
「うん。分かった。」
*******
「―――ってわけで2つ。覚えてなかった?」
去年のことを軽く説明していたキラが呆れたように言えば カガリはばつの悪そうな顔をする。
「…そういえばそんなことも言ったな。思い出した。」
「完全に忘れてたら用意した僕が間抜けだね。」
「だからごめんって。」
向かい合ったカフェテリアのテーブルの上に 置かれた箱は2つ。
その一方、細長い方をカガリに渡す。
「これが去年の分。」
言って彼女に開けるように促す。
そして、ラッピングの中のケースに納められていたのは銀の十字架が付いたチョーカー。
アクセサリーにあまり興味がなかったカガリは目を瞬かせた。
「こんなの初めて貰った…」
「これならわりとどんな服にも合うかな、と思って。」
「あ、ありがと…」
「そしてこっちが今年の。」
もう一方は手のひらに乗るくらいの小さな箱。
ラッピングを解くと、プラチナ台にカガリの瞳の色と同じトパーズのピアスが入っていた。
他に飾りも無いけれど シンプルなデザインの方がいつでも身に付けられる。
今付けているのもそうだ。
「……」
こちらにも驚いた表情を見せたカガリは、けれど今度は背凭れに身を預けて苦笑いでキラを見た。
「考えることは同じ、か。」
さすがは双子だな。
「え?」
眉を顰めたキラの前にカガリが1つの箱を置く。
そして目で促されてキラがリボンを解いた。
―――そこにあったのは、
プラチナ台のアメジストのピアス。
カガリに贈った物と全く同じデザインの色違いだった。
「…気が合い過ぎだな、私達。」
見たまま固まって黙り込んでしまった彼に、肩を竦めてカガリはもう1度苦笑った。
「じゃあさ…」
しばらく考えていたキラが不意に顔を上げて。
「ちょっとじっとしててね。」
身を乗り出して耳に触れた。
「!」
その手の冷たさにぶるりと震えたけれど、何をされるのか分かって大人しく身を任せる。
ちらりと見れば見慣れた顔がすぐ横にある。
こういうことはたまにするけど、いつされてもくすぐったい。
息がかかって肩を竦めそうになるとごめんと小さく返ってきて。
でも嫌じゃないからそのままでいた。
少しして、コロンと赤いピアスがテーブルに転がると同時にキラの顔もそこから離れる。
席に座り直してキラも自分のピアスを外しだした。
そして、キラの手が耳から離れると、片方ずつ違う色のピアスが残っていた。
「これでお揃い。」
にっこりとキラが笑って、同じようにカガリもまた微笑みを返す。
その様子がとんでもなく注目を浴びていることなど、この雰囲気が日常となっている2人は気づく
由もなかった。
「…あの2人は恋人かなんかか?」
たまたま同じ店の近くのテーブルにいたディアッカがぼそりと呟く。
「双子だったはずだけど。」
前に座るミリアリアの視線もまた同じ方を向いていて。
2人の顔は似たようなものだ。
「誰か教えてやれよ。」
「私は嫌よ。あんたが行けば?」
「俺も遠慮しとく。なんか恋人同士の語らいを邪魔するみたいな気分で嫌だ…」
そんな感じで 結局止める者はいなかった。
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キラカガ…? 仲良し双子が好きなのですーvv(私の中で彼らはブラコン・シスコン姉弟)
元から性別を意識してない2人だからどんなことも平気でできちゃうんですよ。
だから誤解されるんだけど当の本人達は気づかなくて。
互いにドキドキとは無縁ですしね。
MY設定。戦後キラはピアスを開けました。つかカガリに開けられた?(笑)
話の展開ではなく、なんか開けてるイメージがあって…
だからプレゼントしてみました。
そして何げにディアミリ(でも実はまだ片思い)
問い:何故プラントにいるはずのディアッカがいるのか。
答え:たまたまミリィに会いにきただけ。
たまに様子を見にきて外へ連れ出してあげるんですよ。もう随分元気になったけどやっぱ心配で。
健気にポイント上げしてるディアッカが戦後のイメージです。
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