※お1人にのみ捧げたものなので、お持ち帰りはご遠慮下さい(いないとは思いますが…)






 2人きりで遠い所へ行こうか―――

 そう言ったのは 果たしてどっちだっただろう。





 ―――――――
   白い花びら
 ―――――――




 雪が降ると外界から隔離されてしまう、山奥の小さなコテージ。
 どこでも良いと言った俺の代わりに そこを選んだのはキラだった。

 旧時代の自動化されていないシステムは 不便と言えばそうかもしれない。
 けれど 有り余るほどの時間の中ではそれも楽しみ、趣味のようなものになる。
 失敗がないわけではなかったけれど、それもただの笑い話に終わるだけで。

 "無駄なことでも無駄になるものは一つもないんだよ。"

 昔言われたその言葉が、今になってやっと理解できた気がした。




「―――!?」
 寝室の扉を開けて、そのあまりの寒さにアスランはぶるりと身を震わせた。
 流れてくる風はまるで外にいるようで。
 室内にいるはずなのに吐いた息はすぐに白く変わる。
 驚いて視線を外の方に向けると、目の前を白い花びらが掠めて消えた。

「え…?」

 ひとひら ひとひら 花びらが消えていく。

「な、に…?」
 奥から流れ込む風と共に目の前を舞う花びら。
 それが"雪"であるということに気づいたのは、溶ける水の冷たさを頬に感じた時だった。
 有り得ない光景に半ば呆然としつつも、部屋の1番奥に目をやる。
 そしてその白く輝く光の中に―――彼の姿を見つけた。

「キラ」
 名を呼んでも振り向かない。
 大きく開いた窓の前の椅子に腰掛けて、遥か遠くを眺め続けて。
 おそらく 自分がこの部屋に入ってきたことにも気づいていないのだろう。
 それにアスランは盛大な溜め息を零して一歩前に踏み出した。




「キラ」
 後ろからキラの身体を包むように抱き込んで、さらに力を入れて後ろに引き寄せる。
 ぽすんと頭が胸に当たると、初めて気が付いたようにキラが顔を上げた。

「アスラン」

 状況が分からないのかきょとんとして見上げてくる。
 透き通る藤色に映る自分の顔は明らかに不機嫌だ。
 けれどキラはその理由が分かっていないようで。
 それにもう一度深い溜め息をついた。

「…凍死でもするつもりか?」
 キラが着ているのは手が隠れるほどのぶかぶかの白いセーター。
 とはいえ、この程度の服では屋外並の気温で過ごせるものではない。
 今の言葉もあながち大袈裟とは言えなかった。
「まさか。そんな気はないよ。」
「その格好じゃ説得力に欠けるぞ。」
 笑って言ったキラの言葉をすっぱり切り捨て、そのまま腕を伸ばして窓を閉める。
 抵抗するかと思ったが、キラは意外に何も言わなかった。
 窓を閉めたことで風は止んだが 部屋が再び暖まるまでには時間がかかりそうだ。


「まったく…」
 まだじっと上を向き覗き込んでくるキラの頬を両手で包み込む。
 そしてその、氷の人形にでも触れたかという感覚にぞくりと鳥肌が立った。
「こんなに冷えきって… 一体どれくらいこうしていたんだ。」
 言葉に呆れと僅かばかりの怒りも混ぜる。
 けれどキラは反省するふうでもなく、その手に自分の手を重ねてふふふと笑った。
「アスランはあったかいね。」
「お前が冷たいだけだ。あぁもう、手までこんなに冷たいじゃないか。」

 これは本気でコートか毛布が必要だなと離れようとしたが、それはキラ自身によって阻まれる。
 腕を引っ張られ、先程そうしたのと同じようにキラを腕の中に囲う形になった。

「アスランがコート代わり。」
「あのなぁ…」
 それでもキラからこんなふうに触れてくれる機会は滅多になかったから。
 結局は役得だと思うことにしてされるがままに任せた。




「…何を見ていたんだ?」
 顔を上げて窓の外を見る。
 外は今もまだ 静かに雪を降らせていた。

「―――似てるなぁと思って。」
 はらはらと降るそれに、キラは目を細める。
「何と何が?」
「…あの時は哀しいだけで、キレイなんて思う余裕もなかったけど……」

 窓の外で雪が舞う。
 はらはらと。風に乗って。

「雪って、桜が散るのに似てるよね。」

 白い花びらが空を舞う。
 そして重なるのはあの日の情景。

 幼くて美しくて、そして今思うと少し哀しい思い出。

「だから、あの日に戻れる気がしたんだ…」


 遥か遠くを見つめる瞳。
 泣いてはいない。
 でも、何故か泣いているように見えて。

 横顔が儚くて、霞んで見えて。


「―――…っ」
 衝動的にキラを強く抱きしめていた。
 それに少し驚いたようで。
 キラは肩に顔を埋めたアスランの髪にちょんと触れてくる。
「アスラン…?」
「お前が… 消えてしまいそうに見えた…」
 どうしてそう思うのか分からない。
 さっき触れて消えた雪のように、キラが消えると思うなんて。
 本当にどうかしている。


「ごめんね、アスラン…」
「え…?」
 キラが謝る理由が分からなくて顔を上げる。
 すぐ目の前に大きな藤色が映った。
「戻れなくて、ごめん…」
「キラ? 何のことを―――」
「あの頃のように君だけを見ていられたら良かったのに…」
 ふと目を閉じて、表情を隠すように今度はキラが頭をもたげてくる。
「何も知らないまま君だけを想っていられたら… 僕も君も幸せだったのに……」

 守れないものがたくさんあったね。
 失ったものも奪ったものもたくさんあるね。

 あの日から。
 別れて再び出会ってから、本当にいろいろあって。
 泣いて悩んで苦しんで。
 無知で無邪気な子供ではなくなってしまったね。

「君だけがいれば幸せ… そう言えたら良いのに……」
 あの頃は言えた、今は言えない言葉。


「ごめん…」
「キラ。もう良いから。」
 それ以上は聞きたくなくて、無理矢理その唇を奪った。
 初めは戸惑い、しばらくして応えるように服の裾を掴んでくる。
 それを承諾と解釈して、さらに深く 求め溺れていった。



「良いよ、キラ。俺はちゃんと幸せでいられるから。」

 部屋もキラも既にあたたかい。
 けれど俺はキラを放さずにいた。

「お前が"ここ"にいれば、俺はそれで良いんだ。」

 再びこの手から消えてしまわなければ。
 この腕の中にいてくれれば。

「だから謝らなくて良い。その代わり、俺の傍にいて欲しい。」

 願いはそれだけ。


「愛してる キラ…」



 そして 最後の雪が降る。

 花びらが舞い散るように……




END?







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<後書き抜粋>
―――
遅れましたー やっとお届けです。
戦後設定というわけで、今回は隠居系で。
場所的にはフリーダム編ポスター。そしてシリアスめにラブ度を上げました(どんなんだソレ)
本当は「星のはざまで」な2人の雰囲気にしたかったのですが。
ちょっと違う方向に行ってしまったので。
…って 4月っぽいお話でなくてすみませんっ 
無駄にイチャついてるくせに幸せっぽくなくてすみませんっっ
謝らなければならないところは山のようにありますが。
〜〜〜とりあえずっ
お誕生日おめでとうございます!!
そしてあの日はたいへんお世話になりました!
―――

私は貢ぎ魔なのでしょうか…(買Aスランタイプ!?)
今のところ3つとも同じ方へのプレゼントです。
誕生日を数日過ぎてプレゼントしました。
ちょうどその日が課題提出前日だったので…(汗)

話の方は学校の桜吹雪を見て「雪みたい」と思ったのが最初。
逆発想で書いてみました。桜=アスキラだったので。
何でウチのアスキラはいつも堂々巡りなのでしょう…
ワンパターンなのでたまには違う展開にもしたいのですが。
まだまだ修行不足です。



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