お伽話の続き




 この豊かな国の3番目の王子様が結婚をしてからすでに半年。
 今日もいつもと変わらない日々が続いている。
 もちろんその王子様とお姫様のいちゃつきっぷりもいつも通りだ。

 周りもそれで良いと思っているから別に構わないだろう。
 彼女と結ばれてから笑顔が増えたと母であるレノアは喜び。
 これで国も安泰だと父王も手放しで喜んでくれている。
 後は世継ぎが生まれるだけだということだが、それも時間の問題になっていた。

 ちなみに2人はキラが元"男"であることを知らない。
 知っているのはアスランを含む一部の者達だけだ。
 まぁ、知っていても知っていなくても、特に問題はないからどうでも良いことなのだが。


 そんなこんなで平和な時が過ぎている城内において、これから起こることは誰も予想していな
 かった。
 ―――とはいえ、ほとんどの者にとっては 全く関係なく影響もないことだったけれど。

 ことの発端はアスランの兄である彼の言葉…



「よっ 元気そうだな。」
 朝もまだ早い時間。
 いつもならいないはずの彼が廊下の向こうから軽快な足取りでやってくる。
「ディアッカ。今日は早起きだな。」
 対するアスランといえば特に感情も込めずに返すのみ。
 それにディアッカは少々大げさな落胆ぶりを見せた。
 …一部本気も入っているけれど。
「一応俺 兄貴なんだけど…」
「政務放って遊び歩いている人間を兄とは言えない。」
 ガックリ肩を落とす彼の言葉もすっぱりと無残に切り捨てる。
 "嫌いではないが尊敬はできない"、それがアスランの彼に対するイメージだ。
 今も、アスランが向かっているのは執務室で、ディアッカが向かっているのはその逆。
 つまりは自分の部屋に戻るところだ。
 政務をやる気は彼には端から無い。

「俺はミリィ一筋よ?」
「一途だろうが何だろうが 遊んでいるのは一緒だろう。」
 毎日通っているのは花街だ。
 しかもその相手は別に恋人がいるという。

 ―――もっとも、彼自身、キラに恋人がいたら奪ってでも手に入れるという考えは持っている。
 この辺は血筋だろうか。
 彼らの父親も…
 と、この辺は長くなるので割愛する。

「ひっでぇな。」
 それでもニヤニヤ笑っての言葉なので、そっちに関しては反省の色もなければ傷付いてもいな
 いようだ。
「で? 何の用だ?」
 表情も態度も アスランはさっさと終わらせろとでも言わんばかりの態度だ。
「面白い話を聞いたんだよ。」
 けれどディアッカの方も特に気を悪くした様子はない。
 本来王族が努めるべき責務を放棄している負い目があるのか。
 それとも ただ単に慣れているのか。
 それはいまいちよく分からないが。

「お前のキラ姫さ。結婚前に何て呼ばれてたか お前知ってるか?」
「…さあ? 知らないな。」
 その反応にディアッカは嬉しそうな様子を見せる。
 アスランに教えるものがある、それが新鮮だったらしい。
「"傾国の美女"だとさ。」
 まぁ あの容姿じゃ納得だよな。
 婚儀の様子を思い出しているのか 少し視線が遠くなる。
「で、それが何なんだ?」
 たとえ記憶の中であろうと、そこにキラがいると思うと気分は良くない。
 先程より声が平坦で低くなるのが自分でも分かった。
 …それでも相手は気にしていないけれど。
「お前も気をつけろってこと。愛に溺れて国傾けんなよ〜」
「ディアッカには言われたくないな。」
「ま、な。でも忠告はしたぜ。」
 ひらひら手を振ると、じゃあな、とあっさり去っていった。


「傾国の美女、ね…」
 ふと、さっきの言葉を思い出す。

 確かにキラが望むなら、世界中の宝石だって集めるし、隣国だって滅ぼすだろう。
 どんな我が儘だって叶えよう。
 他の男に心奪われたのなら そいつを殺してでも取り戻す。

 溺れるなと言ってももう遅い。
 できれば部屋の奥深くに押し込めて 誰の目にも触れさせないようにしたい。
 どんな風にも当てず、今日の天気さえ知らぬように。
 あの白磁の肌に触れるのも あの紫の瞳に映るのも。
 俺だけで良い。

 彼女の全てを自分だけにしたいと思っていることをキラは知らないだろう。
 すでに俺の全てはキラのもの。
 キラは誰にも渡さない。

 ―――確かに、キラは国を傾けるだけの力を持っているかもしれない。

 でも…




「アスラン。」
 ぺちぺちと優しく頬を数回叩かれる。
 高く柔らかな鈴の声。
 その心地良い声にゆっくりと意識を浮上させた。
 そして1番最初に目に入ってくるのは愛しい姫君の顔。
「…おはよう、キラ。」
 笑顔で言えば、彼女もまた笑顔を返してきて。
「おはようございます。」
 歌うような声でいつもと同じ挨拶を。
 それは同じはずなのに 聞く度に胸が高鳴る不思議な声。

 朝日に背を向けて彼女の白い肌は光を帯びる。
 長く艶やかな茶の髪もまた、光を吸って輝いていた。
 そこにいるのはまるで天使。
 キラは日増しに美しくなっているみたいだ。

「おはようのキスは?」
 意地悪く言ってやれば、キラは少し頬を赤らめて。
 戸惑いながらも軽く頬にキスを贈る。
 もちろんこちらもお返しに、でも贈るのは頬にではなく唇に。
 頭を引き寄せて少しずつ長く深くなっていくキスを。


「―――今日はこのまま過ごそうかv」
 自分の目の前で、瞳を潤ませ頬を紅潮させている彼女があまりに可愛くて。
 もっとずっと見ていたいと思う。
「ダメだよ。お仕事はちゃんとしなきゃ。」
 でも 真面目な彼女は即座に切り返してくる。
「その間キラに会えないのがツライよ。」
 さすがに執務室にまで彼女を連れて行くわけにもいかず。
 さらにキラにはお妃教育というものがあり、ほとんど毎日レノアの所に通っていた。
「僕だって寂しいよ。でも 君は王子だから。」
「…ディアッカもイザークも自分勝手にやってるのに。」
「でも僕は政務をこなす姿もカッコ良くて好きだよv」
 いつものパターンだと分かっていても、やっぱり俺はこの笑顔に弱い。
 アスランは己の負けを認めた。
 その後に見せる、彼女の満足したような顔も好きだから。



「何か欲しいもの、ある?」
 無理しなくても良いのに―――無理をさせたのは俺だけど―――、見送りに来た彼女にいつも
 のように尋ねる。
「ううん。僕は君が好きだと言ってくれればそれだけで満足。」
 そして彼女が返すのもいつもの言葉。
 素でそんなことを言ってしまうキラはいじらしくて可愛すぎる。
 本気で今日は執務をサボろうかと思ってしまった。
 けれどそんなことをすればキラの機嫌を損ねてしまうので。
「愛してるよ、キラ。早く戻るから良い子にしててね。」
 いってきます、と額にキスを贈って。
 いつまで経っても慣れずに赤くなる彼女に微笑んで 部屋を出た。

 キラは何も望まない。
 政務を放り出して愛欲に溺れたくてもそれをキラ本人が許さない。
 彼女の願いなら何でも叶えたいと思うのに。
 我が儘といえば月に1度里帰りをしたい、というくらいで。

 キラが何も望まないから俺は人に慕われる王子でいられる。
 お前が傍にいるから俺の心はこんなにも穏やかだ。
 …そんなお前を失ったら、俺はどうなるだろう。




 今日はレノアがパトリックと共に隣国へ出かけていってしまったのでお妃教育はお休み。
 そのせいでなんだか時間が余っていた。
 しばらくは部屋で昨日アスランに貰った花を生けて飾ったりしていたのだが。
 あまりに退屈だったので、書庫に行くことにした。

 男だった頃は勉強も本もあまり好きではなかったけれど。
 こうして女になって遠ざけられてしまうと何故か懐かしくなって。
 国一の蔵書量を誇るそこへと足を運ぶことが多くなっていた。



 背丈の何倍もありそうな棚に押し込められるように並べられた本。
 この国の歴史、文化、伝わる伝説から物語まで。
 ここに無い本は無いと言われる。

 少し埃っぽく、窓から射し込む日に塵が反射してキラキラと光っている。
 他の場所よりひんやりしていて、静寂に包まれた空間。
 いつも人が行き交う城内で、ここだけは別世界のように感じる。

「あ…」
 ある人影に気づいて小さくキラは声を漏らす。

 誰もいないと思っていた。
 ここはあまりに静かだったから。
 だから、少し驚いて、キラは思わず立ち止まった。

 窓際に置かれた机に分厚い本を積み上げ、時折ページを捲る音が聞こえる。
 さらりと流れる銀糸。この髪を持つのは1人だけだ。
 書庫に来る度に見る背中にはすっかり見慣れていたけれど。
 今日は本当に他に誰もいなくて、だから彼もいないと思っていた。
 安心して足音も大きめに出していたものだから、そこからはいつものように音を消して後ろを
 通り抜けようとした。


「―――なんだ、お前か。」
 真後ろに来たところでくるりと突然振り向かれて。
 やっぱり足音が煩かったんだろうか。
「あ… ごめんなさい。その、煩かったでしょう…?」
 怒られる前に素直に謝った。
 けれど、彼は少々不思議そうな顔をした後、ふと微笑った。
「別に気にするな。ここは俺の部屋じゃないし、好きなだけ見ていれば良い。」
 その声はとても優しい。
 やっぱりアスランのお兄さんだな、と思う。
 さり気ない優しさが、とっても似ている。
「はい。ありがとうございます。」
 それが素直に嬉しかったから 笑顔で礼を述べた。



「うーん… 届かない……」
 見たい本があって取ろうとしていたのだけれど。
 それが台座に乗って背伸びしてもう少しってところなので かなり歯痒い。
「うーっ」
 一生懸命つま先立ちして手を伸ばすけれど指先は僅かに下。
 靴は脱いでいるけれど見ていて結構危なっかしい。

「―――何をしているんだ?」
「あ、イザー…っ!!?」
 突然かけられた声に意識が逸れた。
 その瞬間 バランスを崩して台座から足を滑らせてしまう。
「!?」
 世界が反転して、駆け寄ってくる彼の姿が見える。
 落ちていると認識した時にはもう床は目の前で、身体を打ち付けられるとキラは固く目を瞑った。

「大丈夫か!?」
 けれど、衝撃は来なかった。
 すんでのところでイザークが彼女を受け止めたのだ。
 そしてそのまま腕の中に囲い込んで 派手な音を立てて降ってきた数冊の本から彼女を護る。
 女性を傷つけるわけにはいかないとの、咄嗟の判断だった。


「ご、ごめんなさい!!」
 驚いたのはキラの方。
 一瞬のことで頭が追いついていなかったのだが 今いる場所を認識すると恥ずかしいより先に
 驚いてしまった。
 受け止めてもらったばかりか、自分の代わりに重くて固い本の衝撃を彼は受けてしまったのだ
 から。
「痛くないですか!?」
「いや…」
 正直それほど高い位置の本でもなかったので痛くはなかった。
 けれどキラの顔は青褪めている。
「お前の方はなんともないか?」
「あ、ハイ、おかげさまで―――…っ!」
 イザークの腕を借りて立ち上がろうとして、苦痛にキラは顔を歪める。
「…どうした?」
 震える手で腕にしがみつく彼女に不思議そうに問い掛ければ。
 キラは困ったような表情で見上げてくる。
「……足、挫いちゃったみたいです……」
 どうしましょう、と弱々しい返事が返ってきた。




「王子! 止めてください!!」
 その後、キラはイザークの腕の中に抱き上げられて廊下を進んでいた。
 誰が見てもお姫様抱っこの状態である。
 もちろんこんなことはアスラン以外の人にしてもらったことはないわけで。
 アスランでさえ最近やっと慣れたばかりなのに。
 顔を真っ赤にして抵抗しているが 全く効果はない。
「ぼく…じゃなかった、私重いですし!」
「どこがだ。むしろもっと食べるべきだろう これは。」
 羽のように軽いというのはこういうことだろうか。
 本当に今自分は人を抱き上げているのかと思うくらいだ。
「とっ とにかくっ こんなことで王子の手を煩わせるなんてっ!」
「俺が驚かせたのが悪いんだ。」
「いえ、アレは勝手に驚いてしまっただけで…」
 勝手に驚いて、足を滑らせて。
 それで助けてもらったのに、こんな風に迷惑をかけているのに。
 彼はさらに自分が悪いと思っているのだ。
「これくらいのことはさせろ。じゃないと俺の気が済まない。」
 やっぱり似てるなぁと思う。
 アスランもよく、アスランが悪いんじゃないのに謝ってくる。
 優しいんだよね、やっぱり。
「……はい。」
 これ以上は逆に迷惑かと思って諦めて、とりあえず負担を軽くしようと首に手を回した。

「どっちだ?」
「あ、次を右です。」



 ドサッ

 持っていた書類の束が落ちたのにも彼は気づかない。
「な……っ!?」
 ただ一点を凝視したまま、固まったように動かなくなってしまった。
 その表情は驚愕、といった感じだろうか。
「殿下?」
 アスランが落としたそれを拾い集めて、従者であるサイは彼の視線の先を追いかけた。
 ちょうど角を曲がろうとするイザークと その腕に収まっている姫君の姿が見える。
 彼らはこちらの存在には気づいていないようだった。
「ヘェ… イザーク殿下もああいう表情なさるんだなぁ。」
 無表情しか見たこと無かったからあんな優しい笑顔は意外だ。
 でも、その腕の中にいる姫君は確か…
 ちらりと隣の王子を見やる。

「…サイ。」
「はい?」
「大臣に急用ができたと言っておいてくれ。」
 言って去ろうとした肩をがしっと掴む。
「ダメです。今日の分を終わらせてからにして下さい。」
 いつもの殿下と違うと思っても、まぁそこはそれ。
 優秀な従者らしく 冷静な頭で対処する。
「離せ! 俺は今すぐ問い詰めに行かなきゃならないんだ!」
 何だか目が据わっている気がするのは気のせいだろうか。
 いつもの冷静な彼にしては明らかに様子が可笑しい。
「何をですか。」
「あの2人の雰囲気を見たか!? どう見ても恋人同士じゃないか!」
「は?」
 確かに仲良さそうには見えたけれど。
 彼女は殿下の奥様で、あの姫君に限ってそんなことは無いと思うのだが。
 でも今の彼に何を言っても無駄そうだ。
 完全にキレている。
「キラは俺のものだ。誰が渡すか!」

 すっかり失念していた。
 キラはディアッカの言葉でいえば"傾国の美女"――― つまり誰もを魅了する美しさを持つ女性。
 俺がここまで溺れているのだから 他の誰かが心を奪われたっておかしくはないのだ。
 欲しいモノは何があっても手に入れる、それがこの王家の血。
 イザークも例外じゃない。
 が、そんなことは絶対許さない。

「キラを手離すなんて冗談じゃない!」
「何 ワケ分かんないこと言ってんですか! とにかく落ち着いて下さい!」
 言いたいことは分かるけれど 今のこのネジが外れたような状態はどこか危険だ。
「サイ! 離せと言っているだろう!」
 殿下ってこんな熱い人だっただろうかと、頭の隅では冷静に思っていたけれど。
 今はそれどころではない。
「この状態じゃ離せません!」
 このままこの手を離したら何をしでかすか分からない。
 それでも、彼の能力を知っているだけに引き止められるのも時間の問題かと悟って、頭が痛んだ。




「あ、ありがとうございました。」
 自室のベッドに座らされ、侍女に氷水に浸した布を足首に当ててもらった。
 今夜辺り少し腫れるかもしれないが、大したことはないとのこと。
 それにイザークも安心したようだった。
「じゃあ 俺はもう戻る。」
「え? お茶くらいゆっくり…」
 お礼もしたいですし、と言うキラの言葉もイザークは断った。
「遠慮しておく。あまり長く居ると変な誤解を受けそうだからな。」
「誤解…?」
 何のことだろうとキラは首を傾げる。

 誤解? 誰に? どんな??

「…お前はもう少し自覚した方が良いな。」
 苦笑いして彼女の前髪をそっとかき上げた。
「お前はアスランの妃だろう? 他の男と仲良くしてると奴が妬くぞ。」
「へ?」

 遠くから何やら騒々しい足音が聞こえてくる。
 さっきのあれを見られていたことに イザークの方は気づいていた。
 彼女のことになると途端可笑しくなる弟がどういう行動に出るか、何となく分かっていただけ
 に早く去りたかったのだが。
 少し遅かったようだ。

 …来たな。

 と、イザークが心の中で思ったのとほぼ同時。


 バン!!

「キラ!」
 壊れそうな勢いで開け放たれた扉と、物凄い形相で駆け込んできたアスランに、キラは目を
 ぱちくりさせた。
「アスラン??」
「どういうコトだ これは!?」
「はい??」
 両肩を強く掴まれて、急に怒鳴るように言われても。
 キラには何のことだかさっぱり分からない。

 何をそんなに怒っているのだろう?
 朝は確かに笑顔で送り出したはずなのに。
 仕事で嫌なことでもあったのかな??

 そこではた、と止まる。
「ってアスラン! ちょっと 政務は!?」
 よく考えたら今はまだ政務の時間。
 彼がこんな所にいて良いはずがない。
「そんなものは後だ!」
「後って…」

 本当に何があったんだろう…

 アスランがブチ切れている理由も分からず キラはただ戸惑うばかりだ。
 そのアスランといえば、次に彼女の傍らに立つイザークの方に刺し殺さん勢いの視線を送って
 いる。
 それに動じた様子も見せないのは、さすが"兄"だからだろうか。

「―――ほらな。お前のことになると奴は見境が無くなる。」
 少々呆れ混じりで、キラの方を見てイザークが言った。
「え?」
「言っただろ。誤解されると。」
「え゛」

 それは つまり、
 アスランは僕とイザーク王子の仲を疑っているというわけで。
 怒っているのはそれが理由で…

「! 違うってば! 僕足を挫いちゃって、それで王子が部屋まで運んでくれたんだよ!!」
 誤解されるようなことは何にもない。
 イザーク王子のはただの親切心で アスランが怒るようなことは何もないのだ。
「本当に?」
 それでもアスランは半信半疑のようで。
 さすがにキラは悲しくなった。
「何で嘘つかなきゃいけないの!」
 アスランから冷めた目で見つめられ、怖気づきそうになる。
 でもキラは何も悪いことはしていない。
 だから負けじとアスランの目をじっと見返した。少しでも気持ちが伝わるようにと。


 スッと、視線を先に外したのはアスランの方だった。
「…キラが世話になった。すまなかったな。」
 いつもの冷静な態度で、イザークに素直な礼を述べる。
「別に。」
 巻き込まれた形であっても、彼は気分を害したようには言わなかった。
 それは彼女の為であったけれど。
「心配なら姫君にもう少し女性らしくするように言うべきだな。彼女には女としての警戒心が
 なさ過ぎる。」
 連れて行ったのは俺だが、引き止めるようなことをして相手が変な気を持ったらどうする。
 その相手が自分だったことにどれほど安堵したことか。
「純粋なのは美点だが、自分の価値をもっと知った方が良い。」
 ポンと彼女の頭を叩いて挨拶代わりにすると、2人を部屋に残して帰って行った。



「…ごめん。」
 しゅんとなって項垂れる。
 結婚してるんだから アスラン以外の男性と気軽に話すのも本当はいけないことなのに。
 部屋に入ったのは仕方のないことだけれど、アスランがいない所で2人きりでお茶だなんて。
 誤解されても当然だよね。
「俺の方こそすまない…」
 勝手に誤解してキラを怒鳴ってしまった。
「お前は元は男なんだし、男に警戒心持ってなくても当然だった。」
 身体は女性でも、心はまだ昔のままのところがある。
 それも含めてキラだから、アスランは言葉遣いでも特に注意したりはしなかった。
 そうだったはずなのに。
 キラの男の部分も女の部分も "キラ"だから俺は好きなのに。

「俺ももっと余裕を持たないとな…」
 たったあれだけのことでキラを奪られると思うなんて。
 相手がイザークだったから焦ったのもあるけれど、それにしても余裕がなさ過ぎる。
 それに俺はキラを信じていなかったんだ。
 そんな自分が許せなかった。


「あ、でもっ 好きなのはアスランだけだから!」
「え?」
「あ…っ」
 言った言葉にキラ自身が照れて、それにつられてアスランも真っ赤になってしまった。
 珍しいキラからの告白に、その後アスランが彼女を抱きしめたのは言うまでもなく。


 そんなこんなで、相変わらず熱い生活を送っていますv




 END 



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「お伽話の世界へ」の続編というかなんというか。
お城で幸せに(?)暮らしているアスキラを書いてみたかっただけというか。
まぁ、そんな感じです。
前回と同じく勢いで書いているのでかなり壊れてますネ。

結局 何が書きたかったんだろう…
いや、やきもちアスランだった気がするんだけど…
なんだか違う方向に。
そしてやたらにイザキラ的場面。謎。
でもイザークはキラに好意を持ってますが、それはあくまで恋愛感情ではありません。
キラに優しいのは、兄心と彼女が周りの女達と違って媚びない性格だからでしょう。
そんな彼にはラクスかカガリとくっ付いて欲しいものですが。いえ、この話で。



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