今日を君と

  ☆今回は地球代表カガリとプラント代表ラクス、キラとアスランは
     治安軍を指揮して両方を行ったり来たりしてるという設定で。




 停戦協定という形で一応の終止符を打った、地球連合とザフト―――すなわちナチュラルとコー
 ディネイターの戦争。
 予想を反して長引いた戦争は、互いに多大な被害をもたらした。

 争いは何も生み出さないと知りつつ目を逸らしていた人々。
 その中で小さな灯火を持って戦争を終わらせようとした人達がいた。
 彼らは微力ながらも両軍に訴えかけ、そして彼らの努力によって最悪の事態は防がれた。
 その3つの戦艦に乗っていた者の多くはまだ若く、艦を指揮したのは2人の少女と1人の女性、
 そして前線でMSを駆っていたのはほとんどが10代の少年達だった。

 戦争が終わり、戦火に身を投じた少年達は、失った時を取り戻したくて 元の生活に戻ろうと思っ
 た。

 ―――はずだったのだが。

 しかし、思いの外 人手不足だった為に彼らは戦後復興に協力せざるを得ず、それどころか人々の
 中心となって指揮する立場になってしまった。
 それでも、共に戦った大人達…マリューやバルトフェルドの協力を得、空いた日にはオーブのカ
 レッジ――ここではユニバーシティ(総合大学)と言うべきか――に通うことができるようになっ
 た。
 ほとんど出席できない為 好きな講義をたまに聴きに行くだけといった状況なのだが、それだけで
 も今の彼らには充分だった。









 そして、今日ココに居るのはキラとカガリ。
 構内カフェテリアで2人は少し早めの昼食をとっていた。


「そういえばもうすぐだなぁ…」
 食後の紅茶をすすりながら、ぽつりとキラが呟いた。
 寒くなってきたとはいえ 昼頃の陽射しはまだ強く、ガラス張りのカフェテリアは風を入れないの
 で温かい。
 外の白い石のタイルが反射して少し眩しくて、キラは眺める目を細めた。

「…何が?」
 キラにとっては独り言だったのだが、それを聞き逃さなかったカガリが尋ねてくる。
 とはいっても 彼女もただ何気なく聞いただけなのだろう。
 答えを期待しているような感じではなかった。

「え? アスランの誕生日。」
 視線を上げてキラが何気なく答えて。

 ―――沈黙が降りた。

「っ何ーーっ!?」
 遅れてカガリは椅子を蹴倒さん勢いで立ち上がる。
「アレ? 知らなかったの?」
 立ち上がって叫んだことよりキラにはそっちの方が驚きだったようだ。
 カチャンとカップを皿に戻す。
「だって! アイツそんなこと言わないしっっ!」
「…あぁ、確かにそんな感じだよね。」

 あいかわらず自分に無頓着だなぁ。
 よく考えたら カガリが持ってるアスランの情報ってほとんどが僕から聞き出したものじゃないの
 かな?

「で、いつなんだ!?」
「29日。」
 それを聞いてカガリはまた一瞬固まる。
「って 1週間もないじゃないか!!」

 うーわーと 頭をガシガシ掻きながら、本当に慌てた様子で周りの視線などお構い無しに叫ぶ。
「プレゼントっ 何あげれば良いんだ!?」
 もっと時間があればゆっくり考えることもできたし、本人からさり気なく聞き出すことも出来た
 かもしれないのに。
 滅多に会えない今の状況じゃ絶対に間にあわない。


「クスッ カガリもやっぱり女の子だね。」
 座ることも忘れて 表情をクルクル変えている彼女を見ながらキラが微笑った。
「どういう意味だっ」
 それが癪に障ったのかカガリはじろっと睨む。
 けれどキラはそれを平然として受け止めて、なおも笑みを深めた。
「いや。可愛いなって。」
「〜〜〜〜〜っ!!?」
 さらりと言われてしまった言葉に対処しきれなかった。
 アスランはそういうことをほとんど言わないから、カガリには耐性ができていない。
 弟の言葉で 全く他意はないとはいえ顔は真っ赤だ。

 ラクスはいつもこんなコト言われてるのかっ!?
 …なんて 関係ないことまで考えてしまった。

「キ、キラはっ?」
「僕?」
「そっ お前は何かプレゼントするのか?」
 苦し紛れに言った言葉だった。
 けれどキラはその問いにきょとんとする。

「しないよ。」
 一瞬の間の後で返ってきた言葉はそれで。
「なんで?」
 純粋な疑問をぶつけてみると、キラは複雑そうな表情をした。
「…男が男にプレゼントするって変じゃない?」
「………」
「おめでとうって言うだけだよ。男の子同士ってそんなもん。」
 普通はそれすらあまり言わないんじゃないかな?
「そういうものか?」
「そういうものだよ。」

 そう言った後でキラが「あ、でも」と思い出したように付け加えた。
「母さんが毎年僕とアスランの誕生日にはケーキ焼いてくれたよ。たぶん今年も作るんじゃない
 かな。」
 3年ぶりのことだけど。
 妙にウキウキしてたから きっと。


「あ゛ーっ 何あげたら喜ぶんだーっ!?」
 分からない。
 無口って言うより、アイツ 基本的に自分のこと話さないから。
 暇さえあれば大量のハロを生産している、くらいしか趣味は知らない。
「キラは知らないか?」
 仮にも兄弟同然で育った幼馴染。
 けれど答えは、

「さあ?」
 特に考えた様子もなく首を傾げられて。
「さあってなぁ…!」

 こっちは真剣に…!

「だってアスラン 物欲ないし。てか カガリからなら何でも喜ぶんじゃないの?」
 恋人から貰えば何だって嬉しいと思うけど。
 僕だってラクスがくれるものなら何だって嬉しいし。

「う゛〜〜〜っ…」
 本気で頭を抱えて考え込んでしまったカガリにキラは苦笑う。
 そろそろ助け舟を出した方が良いかもしれない。
「カガリ。母さんに協力してもらおうよ。」
「へ?」
 突っ伏した頭はそのままで 視線だけを上げれば、キラはニッコリ笑っている。
「アスラン、喜ばせたいんでしょ?」
「そ、それはもちろんだけど…」
 キラのお母さんに? 何を??
「あのね、―――」
 クスクス笑いながら、彼女にちょっと面白そうに耳打ちした。









 *******









 今日は自分の誕生日。
 誕生日だからと前後数日暇をもらって。
 休みが重なったキラと、小母さんに「誕生日パーティーしましょう♪」なんて言われて。
 断る理由もなかったし、オーブに行けば彼女に会えるかもしれないとも思って。


「いらっしゃい。準備できてるよ♪」
 キラの両親が住んでいる オーブでの彼の家。
 インターホンに応えて出迎えたのは 満面の笑顔のキラだった。


「この年になって祝われるとは…」
 キラの後ろに付いてリビングへ向かいながら苦笑いを漏らす。
 祝ってもらうなんてプラントに移ってからは全くなかったし、自分もそれを望んでいたわけでも
 ない。
 誕生日なんてただ1つ年を取るだけだ、とそれくらいの認識だった。
「あはは。でもコレ 母さんの趣味だから、付き合ってあげてよ。」
 振り向いてキラが笑って返す。
「―――僕の時は一緒に居られなかったからさ。」
 前に向き直りながらポツリと言ったキラの言葉は アスランの耳にも聞こえてしまって。

 あの頃はまだ戦争中だった。
 だから誕生日なんて祝えるはずもなく。
 誰にも祝われずにキラは… そして彼女は1つ年を重ねた。

「…すまない。」
「何が?」
「いや…」
 首を傾げて聞き返すキラから視線を外す。
 疑問に思っただろうけれど、キラはそれ以上聞かずにいてくれた。
「? まぁ良いや。開けるよ♪」




「アスラン君 いらっしゃいv」
 扉の向こうにいた女性は、あの頃とちっとも変わっていない、柔かい笑顔のキラのお母さん。
 テーブルには手作りの料理群が所狭しと並んでいる。
 俺が月に居た頃から 自分の母親とは比べものにならないほど料理が上手な人だったけれど。
 なんだかますます磨きがかかっているようだ。

「あ、お邪魔します…」
 ペコリと頭を下げれば、「じゃあ主役はそこに座ってねv」と笑顔で真ん中の席を指差された。


「キラ! この皿はこっちで―――」

 ガタ――ンッ!

「!!?」
 ひょっこりと奥のキッチンから顔を覗かせた少女を見て、アスランは座ろうとしていた椅子を思
 わず倒してしまった。
 彼女の隣で「あーあ」と呟くキラの声はとりあえず聞かなかったことにする。
「カガリ!?」
「えっ アスランっ!? こんなに早くくるなんて聞いてないぞ!?」
 わたわたと慌てた様子で 思わずさっとキラの影に隠れる。

「え、ど、どうしてカガリがココに…?」
 驚いたのはアスランも同じだ。
 記憶が確かなら彼女は今日休みは入ってなかったはずだ。
 その彼女が何故ここにいるのだろうか。
 何故、誕生パーティーの準備を手伝っていたりするのだろうか。


「1週間後の休みを返上する代わりに 今日空けてもらったんだよね♪」
 代わりにキラが答えた。
 後ろに隠れている彼女を肩越しに見てキラはクスクス笑う。
「言うなよっ」
「アスランのために、だよv」
 今度はアスランの方を見て。
 完全にカガリの反応を楽しんで遊んでいる。
 アスランはまだ半ば夢心地のように放心していた。
「キラっ!!」
 カガリはいっそう顔を真っ赤にして怒鳴る。
 けれど顔が赤いから迫力はそんなになくて、逆に今の彼女はそこが可愛いとしか言えない。
「あらあらv そういえばカガリ様はアスラン君の彼女だったわねvv」
 何か含んだ言い方に、アスランは「え?」と首を傾げるけれど。
 彼女は微笑んだだけで理由は言ってくれなかった。



 俺が好きなものがそこにはたくさん並んでいた。
 キラのお母さんの料理は変わってなくて、とても美味しくて。
 彼女のお手製ケーキはかわらずとても甘かった。
 でも甘いものが苦手な俺でもこれは何故かすんなり食べれる。
 それは変わらない味だったからだろうか。












 片付けもあらかた終わって、キッチンを追い出されたカガリは2階のベランダで空を眺めている
 アスランの所に向かった。
 キラは気を遣ってくれたのか、階下で 珍しく母親と話しながら手伝いなんかをしている。
 ―――それには 滅多に会えない母親に対しての気遣いもあったのかもしれないけれど。


 世界を紅く染めて沈む陽はいつ見ても見飽きないほど美しい。
 プラントや月の憧れ、それは本物の夕焼け。
 この季節は夕暮れが最も美しいと、そう言ったのは誰だったか。

「……」
 カガリは黙って彼の隣にぴたりとくっつく。
 触れるわけでもなく、ただ隣に並ぶだけ。
 でもそれだけで、今は良い。
 2人きりで こうして会うのはどれくらい久しぶりだろう。
 抱きしめてくれなくても愛の言葉がなくても、今この時一緒にいられるだけで充分だった。


「…ロールキャベツ、美味しかったよ。」
 空を見上げたままで、不意に 同じ場所を見つめるカガリに向かってそう言った。
「えっ?」
 ビックリして、カガリはアスランの方を弾かれたように見る。
 作ったと言った覚えはない。
「カガリが作ったんだろ?」
「な、何でソレ…っ」

 形がいびつだったからか?
 それとも 味付けが変だったからか??
 でも、"美味しかった"って 今…

「表情。食べてる時ずっとこっち伺ってたから。」
「あ……」
「うん。本当に美味しかった。…練習した?」
 カガリの方を向いて、アスランがフッと笑った。
 最後の光が彼の端正な顔を赤く染め照らし、風が髪を撫ぜていく。
「したさ! キラのお母さんに何度も教えてもらって。たくさん失敗もしたけど…」
 アスランが1番好きなものだから、とキラに教えてもらって。
 だから必死で練習したんだ。

「ありがとう…」
 本当に嬉しそうに言ってくれて、その笑顔に一瞬見惚れてしまったけれど。
 はっと我に返る。
「あっ でも時間無くて他にプレゼントとか用意してなくて…っ」
「―――良い。コレだけで。」
 一生懸命作ってくれただけで、それだけで。
「カガリがいてくれるだけで充分だ…」

 そっと彼女の肩を抱き寄せる。
 緊張して身体が強張る彼女にちょっと苦笑いしつつ。

「今だけの我が儘。―――しばらくこうさせてくれ…」

 ポツリと漏らした。

 次に会えるのはいつか分からない。
 普通の学生に戻っていたならもっと一緒にいられたのに。
 でもそれを選べなかったのは自分達だ。
 最後までやり遂げるまで放り出したくなったから。
 キラもラクスもカガリも、そして俺も、それは同じ気持ちだったから。

「うん… 分かった…」
 気持ちが伝わったのか、カガリは肩の力を抜いて頭をもたげてくる。


 誕生日おめでとう アスラン


 闇に溶けていく空気の中で、でも彼女の頬が赤かったのは夕陽のせいじゃないと、分かって嬉し
 かった。




 終われ。



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実はアスラン ワイン飲んでますv
キラのお父さんに勧められて。
だからちょっと積極的☆
ラブラブ度は(ウチのアスカガにしては)高めに設定〜
だって誕生日だものvv



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