想い
これが終わればきっと戦争は終わる――― 小さな灯火を持った彼らは皆、そう信じていた。 いや、きっと終わらせる… ブリッジを出て行った彼を見送ってしばし。 今だその出入り口を見つめていたラクスに ダコスタが苦笑いを浮かべながら話しかける。 「無理をなさらなくても良いんですよ。」 「え…?」 弾かれたように彼を見たラクスの表情は、ごく普通の少女の顔で。 「今ならまだ間に合いますよ。言いたいことがあるのではないですか?」 彼女の大きな瞳が動揺で揺れる。 ラクスにそんな表情をさせるのはきっと彼だけ。 「私は…」 私、は…… 「すぐ戻ります。」 ぐっとその手に力を込めると その身を翻した。 「キラ…」 彼女に呼び止められてキラは振り返る。 自分の目の前で足をつけた彼女は俯いていて。 その常に無い弱気な表情に、キラは首を傾げた。 「ラクス? どうしたの?」 気遣うように、心配するように、彼女の頬に触れる。 ひんやりとした手のひら。 ただそれだけで、不安で一杯だった気持ちが落ち着いてきて。 その手にラクスは自分の手を重ねた。 「キラ… 貴方はまだやらねばならないことがたくさんあります。」 その口調は艦を束ねる時の彼女のもの。 「だからまだここで死んではなりません。」 「…うん。」 それをキラは素直に受け止める返事を返す。 彼女が言いたいことは分かっていたから。 「そしてこれは…」 そこで彼女はいったん言葉を切る。 その沈黙をキラは静かに待った。 「これは… 私の、私個人の言葉です…」 艦長としてではなく。 ただ1人の少女としての言葉。 「死なないで… キラ……」 誰にも死んで欲しくはありません。 でも、貴方には… 貴方だけは絶対に失いたくないのです。 大切な人だから。 好きだから。 溢れる彼女の涙をキラは優しく指で掬う。 そして向けるのは眩しいほど優しい微笑み。 「うん。きっと戻って来るよ、君の所へ。」 君と僕と、みんなの未来のために。 僕はまだ死ねない。 君を守るのは僕。 君を幸せにするまでは。 「だから、待ってて。」 そう言って、ふわりと優しく彼女を抱きしめた。 --------------------------------------------------------------------- 48話見たら変わっちゃうだろうけど。 これが私の中にあった最終決戦前の恋人達です。 ラクスにもこの時くらいは普通の少女になって欲しいな、と思って。 …何故ダコスタ君かというと。 この時はアンディが生きているとは思ってなかったのですよ。 そのくらい昔のネタです。