VS+α

☆有り得ないんだけど、フレイが居たらこんな風になってたかもな、という。
場所は何処かの廊下だとでも思っていてください。In宇宙。
時間的には42、3話あたりでしょうか?




「キラ!」
「ん?」
 声のした方を振り返れば、満面の笑みでこちらへとやって来る少女。
 地を蹴ってふわりと浮いて、彼女は彼の胸に飛び込むように向かってきた。
 キラは特に驚いた様子もなくそれを素直に受け止める。
 そして手摺りを掴んで流れていくのを止めた。
「危ないよ、ラクス。」
 彼女を抱えたままで地に足をつけ、少し困ったように言うけれど。
 言われた方は気にした風もなく キラの胸に頭をすり寄せる。
「大丈夫ですわ。キラが受け止めてくれると分かっていますから。」
 その声音はすごく甘くて可愛らしい。
 珍しく甘えてくる彼女に苦笑いをしつつも、キラはそれすらも受け止めて空いた方の手で
 彼女の髪を優しく撫でる。
「ラクス… 何かあった?」
「いえ、何も―――…」

 ただこうしていたいだけ。
 そう言ったら貴方はどう答えるのでしょう?







「キラ♪」
 別の所からこちらも甘えた声が聞こえて。
 ラクスを支えていた腕を引き離すように強く引く者がいる。
「探したじゃない。」
「フレイ。」
 キラがそちらを見ると、自分と彼の腕を絡ませて、彼女は上目遣いで可愛く微笑んだ。
「一緒に昼食食べようって約束してたのになかなか来ないんだもの。早く行きましょうよ。」
「え? してたっけ?」
「してたわよ。キラったら忙しくて忘れちゃったのね。」
 慌てて言えば フレイは可笑しそうに笑って答える。
 もちろん約束などはしていない。
 けれどキラは疑うことなど知らず 素直に信じて焦っている。
「ご、ごめんっ。じゃあ行こうか。」
「ええ!」
 さっきより強く腕を抱きしめればキラはクスッと笑った。



「…って ちょっと。なんでアンタまでついて来るのよ。」
 今まで上機嫌だったフレイが、途端不機嫌な様子でキラを挟んで自分と反対側にいる彼女を見た。
 相手も当然腕を組んでいるわけで。当たり前のように一緒に食堂に向かっている。
 そう言いたくなるのも無理はない。
「あら。私もまだ食べていませんし、ご一緒しようかな と思いまして。」
 相手に動じた様子はなく、フレイが少し身を乗り出した。
「気ぃきかせなさいよ。私はキラと2人で食べたいの。」
 "2人で"を強調させれば、相手はおっとりとした微笑みをいっそう深くしてくる。
 もっとも、そう見えるのは表面だけで裏では別の感情が現れているだろう。
 キラに絡んだ腕の力がわずかにきつくなっている。
「何故貴女に気を使う必要があるのですか? 私だってキラと2人が良いですわ。」
「…嫌がらせ?」
 睨めば ラクスはまた笑顔で受け流す。
「どうでしょう? そもそも貴女にキラを独り占めする権利はありませんわよね?」
「っ アンタねぇ! 私達は恋人同士なのよ! 恋人を独占するのは当たり前でしょう!?」
 最大の武器をフレイは取り出した。
 そうよ、私達には「恋人」という肩書きがあるの。
 貴女が割り込んでくる所なんてないわ。
「…確か、随分前に別れたのではありませんか?」
「別れてないわよ! 第一私は認めていないわ!」
 私は承諾していない。
 現に今のキラだって否定も拒絶もしてないじゃない。

「ってゆーか アンタ何様のつもり!?」
 とうとうキラの腕からフレイが離れて彼女の前に立ち塞がった。
「――― 私とキラはプラントで新婚生活を送っていたのですわv」
 穏やかな時間の中、2人で過ごしたひととき。
 仲良く腕を組んで庭でデートをしたり、一緒にアフタヌーンティーを楽しんだり。
 ピンクちゃん達はさしずめ2人の子どもですわねv
 うっとりとしてラクスが言えば「それが何?」と言わんばかりにフレイは胸を張る。
「私なんかアークエンジェルではキラとずっと同棲してたわ!」
 艦長達からも認められた仲だったんだから。
 キラが魘されている時は私が看てあげたし、私が船酔いした時はキラが優しくしてくれたわ。
 それを今さら邪魔できる!?
「私はキラに服のお見立てもいたしましたわv 夫婦みたいに。」
「デッキで寄り添って海を見たわ!」

「ラクス… フレイ……」

 何かが違う…
 というか、なんかズレてる…
 言ってる意味、2人とも分かってるのかなぁ…

 2人から一線引いた場所で、口論の原因であるキラ本人は深い溜め息をついた。









「カガリ! 待てと言ってるだろう!?」
「待たない!!」

「? …って えっ!?」
 キラが気づくとほぼ同時に彼女に両腕を掴まれると、そのままくるりと半回転させられた。
 つまり2人の間に入ってしまうように。
「や、やぁ アスラン…」
 とりあえず 冷や汗混じりでもにこやかに挨拶してみる。
 あちらはこっちを睨むだけで返事は返さなかった。
 いや、睨まれているのは自分ではないのだろうけど。この状態だとこっちを見ているわけで。
 彼の無表情はいつもより増して冷たくて しかも目は本気だ。
 はっきり言って怖い。

 一体何が原因でケンカなんかしてんのさ!?

 なんだか否応無しに巻き込まれそうで キラは心底困った。
 女性2人の口喧嘩も向こうで聞こえている。

 どうしろって言うのさ この状況…


「キラ、俺はカガリに話がある。どいてくれ。」
「…と言われても……」
 困ったようにキラは答える。
 しっかりと掴まれているせいで自分は身動きがとれないからだ。
 彼が落とした視線にアスランも従って、がっちり掴まれたその手に少なからずムッとした。
「カ〜ガ〜リ〜〜…っ」
 低い声音でアスランが言っても、彼女はいっそうキラを掴む力を強めるだけで。
「私は話なんてない! さっさとあっち行けよ!」
 そうキラの後ろから叫ぶ。
 アスランの表情がまた一段ときつくなった。
 目なんか完全に据わっている。

 怒らせるとアスランってすっごく怖いんだよね…

 幼少時からの経験で、それを身をもって知っているキラは溜め息をつくしかない。
 自分が原因ならまだ仕方ないと思えても、それ以外で今の彼に関わろうとは敢えて思わない。
 むしろ心から遠慮したい。

 頼むから僕を巻き込まないで…

 けれどそれも無理そうなので、キラはもういっそ逃げ出したい気分になっていた。



「―――やっぱりそうなんだな?」
 感情の無い声で告げたのはアスランで。
 細めた目で、冷めた色をした瞳で、彼は睨みつけた。

 …ア、アレ……?

 キラの頬を冷や汗が伝う。

 睨まれてるの、ひょっとして僕…?

 さっきまでとは視線が違っていて。
 明らかにキラの方を見ている。
「やっぱりお前は…」
「"やっぱり"ってなんだよ!」
 言いかけたところで、カガリがキラの肩越しにアスランを睨み返した。
「そっちこそやっぱり疑ってるじゃないか!」
「疑う…? そうさせてるのはそっちだろう!」
 間に火花が散っているようにも見える。
 挟まれて 双方の怒声を耳が痛くなるほど聞かされながら、キラは心の中で深い深い息を吐いた。
 見事に重要な部分を省かれているので 自分には何の話だかさっぱり分からない。
 しかし自分とは全く無関係というわけでもなさそうで。
 でもそれでどうにかできるわけもなくて。
 本気で途方に暮れた。

「そんなに仲良くして欲しいならお望みどおりにしてやるさ!」
 突然そう言って キラを自分の方に向かせる。
 きょとんとしているキラに向かって、カガリは真剣な眼差しで次の言葉を告げた。
「というワケで、キラ。今日からお前の部屋に泊めてもらうからな。」

「……ハ?」
 一瞬キラの思考回路が停止した。

「って何言ってんのさ カガリ!?」
 一体何処をどうしたらそういう話になるのさ!?
 これにはさすがにアスランも面食らって言葉を失くしている。
「もう決めた。絶対泊めてもらう。」
 そんな非常識な、と思わずにはいられない。
 けれど彼女は本気で、それを変える気は毛頭無いらしい。
「カガリ… 言ってる意味分かってる?」
 ハァ…と息を吐いてから、キラはこめかみを押さえつつ尋ねた。
 ラクスとフレイもそうだけど、頭に血が上って判断力を失くしている気がしてならない。 
 当の2人はまだ何か言い争っているようだったけれど。内容を聞く気はもはや彼にはなかった。
「それに。第一僕の部屋ってアスランと一緒だし。」
「あんな奴追い出してしまえ。」
「カガリ…」
 苦い、僅かに微笑を含んだ表情でキラは彼女を見返す。

 君も本気で怒ってるんだね…

「って、俺にどこで寝ろと言うんだ お前はっ!」
「ジャスティスのコクピットででも寝てろ!!」
 ハッとして怒鳴ったアスランの言葉を、カガリは一言で切り捨てた。



「それは聞き捨てなりませんわ。」
 いつの間にか言い争いを止めていたラクスが会話に割り込んできた。
「お2人は双子とはいえ 最近まで他人としてお過ごしだったんですもの。それが同室だなんて…」
 突然現れて何を言い出すのかと思えば。
 けれどキラにはそれが救いになると思った。
 …思ったはずだった。
 けれど、そのあとのセリフでそれは覆される。
「私もぜひご一緒させていただきますわ。」
「ラ、ラクス…?」
 キラが驚いて見てみても、彼女はニッコリ笑っているだけで。
「ちょっとっ この子がそう言うなら私だって行くわよ!」
 負けじとフレイもカガリとキラを引き離すように割り込む。
 まぁ それらは建前で。
 要はヌケガケすんなよ この野郎、ってことなのだけど。
 双子だろうと何だろうと、たとえ本人にその気はなかろうとも、2人にとってはライバルに
 違いないのだから。
 ちなみにそれにキラが気づいた様子はない。
「ベッドは2つしかないし… それはさすがに…」
「2人ずつ寝れば良いんですわ。」
 ラクスの提案に、思わず固まった。
 表情が強張っていくのが自分でも分かる。
「いや、あの… それはちょっと…」
 言ってる意味、ホントに分かってる?
 そう言いたいけれど言えなくて、それを含んだ大きなため息を吐いた。

 2人ずつって言っても、僕は1人だけ男で。
 同じベッドに男女が寝るってけっこう問題なんじゃないだろうか…
 いくら何でもそういうことが分からないはずはないと思う。

「私がキラと寝れば良いんじゃないか。姉弟だし。」
「私とが妥当じゃない? ねぇ?」
 けれど彼女達はあまり気にも止めていない様子で。

 信用されてるのか男として見られていないのか… 微妙……

「あ、じゃあさ、僕もフリーダムで寝るからミリアリアも呼んで女4人でっていうのは?」
「それじゃ意味が無い。」
「キラが居ないなら泊まる意味無いじゃない。」
「そ、だね…」
 せっかくの提案は即座に却下されて 力無くキラは項垂れた。



 あぁ もう!


「アスラン!」
 頭をガシガシ掻いた後、地に向かってキラが叫んだ。
「な、何?」
 急なことに驚いたアスランが我に返る。
 顔を上げて向ければ キラは彼を睨むようにして見据えていた。
 これは…怒っているというよりキレているの類の瞳だ。
 長年の経験からそれをアスランは即座に悟る。
「カガリに謝って!」
「は? なんで?」
「どうしても! 理由なんてどうでも良いからとにかく謝る!」
 正直納得いかないけれど。
 キラの気迫に圧されるものがあって。
 それ以前に、これに逆らえるわけがなかった。
 何が1番恐ろしいって、キレたキラが何より1番手に負えないのだから。
「…ごめん……」
 素直に頭を下げた。
 それに良し、と言って今度はカガリの方を振り返る。
「カガリも。これで許してやって。」
「…キラが、言うなら……」
 渋々、という様子ではあったものの、カガリもキラには逆らえない。
 もごもごとした口調で承諾した。

「じゃあこの話はもうおしまい。泊まるのも無かったことにして。」
 パンと手を叩いてキラは食堂の方へと向きを変える。
 ラクスとフレイを目で促すと、右腕にラクス、左腕にフレイが抱きついてきた。
 それらを拒絶することも嫌がる素振りも見せずに キラは首だけ後ろに向ける。
「アスランとカガリも昼食まだだよね? 皆で一緒に行くよ。」
 何処となく有無を言わせぬその言葉。
 場を制した最強の少年は、ニッコリと微笑んでそう告げた。

 そして舞台は第2ラウンド―――「食堂」へ…



 続…きませんv



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 キラ君 モテモテね!(笑)
 しかも抱きつかれても腕組まれても動じた様子ナシ。最強です。
 実はキラの女性に対する扱いってこんなイメージです 私。
 だって「来る者拒まず」タイプなんでしょ? この人。
 つまり去る者は追わないのよね。なんか凄い人だな〜…
 器が大きいと思うのですよ キラって。どんなことも受け止めちゃう感じがして。
 だから皆を惹きつけるんだと思うんです。
 友達少なそうなアスランですら親友にしちゃう子なんですから(笑)
 このキラはラクスとフレイのどっちが好きかってのは無いような気がします。
 いえ、もしラクスが好きだとしても、フレイを拒絶するようなことはしなさそうで。
 そこがキラだと思うのですが。
 アスカガ痴話喧嘩の原因は〜 やっぱりキラ絡み。
 双子の仲に嫉妬してるアスランって実は大好きなんですv
 本編ではそういうことちっともないので少し残念。(41話にちょっとあったくらい?)



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