Present☆舞台設定的には学園モノで、寮だということに。
夏休みですが、わりと皆残っているのです。
一応もう1度言いますが。"アスキラ前提"です。
―――ねぇ、明日イザークの誕生日だよね。何をあげたら1番喜ぶと思う? キラがニコルに何気なく相談したこの言葉が 全ての始まりだった。 こ、こんなことでホントに喜ぶのかな…? イザークの部屋の扉の前に立ち尽くしてキラは今更ながらに後悔していた。 いつもはすぐに戸を叩けるのに、今日は躊躇ってしまう。 ニコルに言われるがままされるがままでここまで来てしまったけれど。 本当にこれで良かったのだろうか。 今はまだ早朝。 そこまで早い時間ではないけれど、朝に弱いイザークはきっとまだ寝ている。 反応が怖いけど、ここでずっと立っているだけでも始まらない。 高鳴る心臓を深呼吸で押さえ込んで、キラはよしっと気合を入れた。 コンコンッ 「イザーク起きてる? 僕なんだけど。」 それからしばらく待つ。 すぐに彼が現れないことは知っているから。 けれどその間も緊張は高まるばかりだ。 僕を見たらなんて言うかな? まだ、ちょっと怖いかも。 「…なんだ?」 ガチャリと戸が開いて、まだぼんやりとした瞳で彼は現れた。 ちょっと不機嫌そうな声で、氷色の瞳は外の明るい世界がまだ少し眩しそうで。 乱れた髪をかきあげると指の間から銀糸の髪が零れ落ちる。 羽織っただけの白いシャツは前が全開で、引き締まった身体が隙間から覗いていた。 少し気だるそうな様子もさらに色気を醸し出しているというか。 思って恥ずかしくなって、キラは視線を逸らして下を向いた。 「お、おはよう、イザーク…」 「あぁ、キラか…」 ぎこちない挨拶に少しは疑問を持ちながらも返事を返して。 しばらく無言で見ていたが、何処とは言えない違和感を感じた。 キラは俯いて何かを言いたそうにしている。 それはとても可愛らしいのだが、やはり違和感は拭い去れない。 漸く目が覚めて頭がハッキリしてきて、その違和感の正体に行き当たった。 「…キラ、その服……?」 花柄が散りばめられた 白基調のロング丈のワンピース。 薄地の上着も白で、襟元にはレースが使われている。 サラサラの茶の髪にはやはり白い布製のカチューシャが。 どう見ても"女の子"の格好。 それが激しく似合うから今まで気づかなかった。 「えっとね… 今日はイザークの誕生日でしょう?」 「…?」 突然の言葉は意味が分からない。 確かにそうだったなと思う。たった今まで忘れていた。 けれどそれとこれとは全く繋がらない。 「ニコルがね、イザークが喜ぶことはこれだって…」 「…は?」 どういう意味だそれは。 俺はキラに女装して欲しいとは思ったことはない。 ――― あのバカなら分からないが。 "キラの恋人"という むかつく肩書きを持つ男を思い出す。 あいつならやりかねないだろうさ。 似合うとか言って断れないキラに無理に着せるくらいやるだろう。 その嬉々とした表情が思い浮かんで無性に腹が立った。 「…俺を何だと思っている。」 普段の無表情が さらに機嫌悪くなったのに気づいて、キラは慌てて弁解をはかった。 彼の怒りは別の所にあるのだがキラが気づくことはない。 「ち、違うよ。そういう意味じゃなくて!」 これにはちゃんと続きがあるんだよ。 そう言って、キラは10cmも高い彼を見上げる。 「今日1日僕が君の恋人になるの。…良い?」 ほんのり頬を赤らめてはいるけれど、その表情は何処となく心配そうで。 それが可愛くて、イザークは小さく笑う。 「それでね、一緒に出かけようかと…」 キラが言っている間に素早く掠め取るように頬にキスをする。 「〜〜〜っ!?」 真っ赤になるキラにイザークはゆったりと、少し意地悪そうに微笑んだ。 「着替えてくるから少しそこで待っていろ。」 「う、うん…」 ビックリした〜 キスされた所をそっとおさえる。 顔が掌より熱い。自分はきっと今すごく顔が赤いんだろう。 ボーっとしながらそんなことを考えていた。 ☆★☆★☆ 「…遊園地?」 目の前に建つ、明らかに作りものめいた門を見上げてイザークが呟いた。 キラに全てを任せて着いた場所。 それは電車で数駅行った所にある、わりと有名な遊園地だった。 確か海が見える巨大観覧車が人気だとか。 「うん。デートといえばここだよね♪」 ニッコリ微笑んでキラはチケットを彼に渡す。 チケットはニコルが用意してくれた。 どうしてこんなに手回しが早いのかというのはあえて聞かない。 とにかく今日はイザークの為に"恋人"になるんだ。 それが何故僕なのかは よく分からないけれど。 「まず何処に行こうか?」 言いつつイザークの腕と組んで身を寄せた。 驚いたように見下ろす彼に笑いかける。 「皆やってるから僕らも、ねv」 そう言うと、イザークの表情が綻んで 優しい笑みが返ってきた。 「…そうか。」 これを とろけるような、と言うのかな。 女子とか見たら卒倒しちゃいそうだなぁとのんきに考えてキラもまた微笑みを返した。 「そんな殺気放ってるとバレますよ。」 悟られないようにシャッターを切りつつ ニコルは隣にいる人物に言う。 すると彼はその翡翠の瞳でじろっとニコルを睨みつけた。 「…お前が連れて来たんだろう。」 不機嫌極まりないといったオーラを放ちつつ、いつもより低い声で応える。 尾けるので一緒に来てくださいと朝っぱらから連れ出されて。 見たくもない光景を見せられて。 これで機嫌が良いはずがない。 「だってアスランはキラさんが心配なんでしょう?」 「当然だ。」 ニコルの問いには即答で返す。 イザークがキラを好きなことは知っている。 キラはそれを知らないから平気であんなことができるんだ。 そんな鈍い所も愛しいけれど、相手が相手だから不安で仕方ない。 「…って何でお前まで女装しているんだ?」 髪の色より淡い色をしたシャツと、少し濃いめのロングスカート。 ウェーブのかかった若草色のウィッグまで付けて。 「男2人で来たって思われても虚しいだけじゃないですか。今夏休みでカップル多いんですから。」 「あ、そう…」 もう何も言う気になれなかった。 なんだって 恋人と恋敵のデートを尾行しなきゃならないんだか…… キラが頼んでこなければ誰が承諾するものか。 "1日だけの恋人"なんてニコルも変なことを考えつく。 でもまぁ今日だけだ。 明日にはキラは自分のところに帰ってくる。 そう自分に言い聞かせて、やっと無理矢理納得した。 「ハイ♪」 ベンチに待たせて何処かへ行ったと思ったら。 満面の笑みでそれを渡された。 受け取ると、キラはイザークの隣にちょこんと座る。 「……」 持たされたのはバニラ味のソフトクリーム。 食べた経験のない物を目の前にして、イザークは手に持ったまま固まった。 「イザークがソフトクリームってちょっと想像つかないけどね。」 クスリと笑って、キラは自分のチョコレートソフトクリームをぺろりと舐める。 「あま〜いvv」 嬉しそうなキラを横目でちらりと見ながら、自分も口に含んでみた。 …甘い…… 初めて食べる冷たいそれは、ひどく甘くて、でも嫌いじゃなかった。 「ちょっと頂戴v」 「…ああ」 イザークが差し出すと顔だけ近づけて ぱくりとほんの少しだけ食べる。 「うん。やっぱりバニラも美味しいよね。」 そう言うキラは本当に楽しそうで。 思わずイザークの頬が緩んだ。 その瞳はとても優しげで、ひょっとしたら誰も見たことがないかもしれない。 「やっぱりミックスの方が良かったかなぁ…」 自分のを舐めながら、そんなイザークの表情には気づかずに呟いた。 「次は何に乗ろっか?」 コーンに付いていた紙をゴミ箱にポイッと捨てて、キラはベンチにいる彼に笑いかける。 コロコロと変わる表情。 思わず抱きしめたくなりそうな。眩しいくらいに愛しい笑顔。 「イザークの好きなものってないの?」 首を傾げつつ尋ねる。 けれどイザークにとってはどれでも同じ。 キラが楽しそうにしているだけで イザークは満足だったのだから。 「…お前の好きなようにしろ。それで構わない。」 ☆★☆★☆ 夕焼けが世界をオレンジ色に染め上げる。 デートの最後はこれなんだって。と言ってキラが指差したもの。 それは観覧車。 「うわぁ! 海も金色だね!」 キラは眼前に広がる景色に大はしゃぎで 瞳を輝かせて魅入っている。 「…あまり暴れると傾くぞ。」 それでも声は笑いを含んでいて、見つめる瞳は細められてどこまでも優しい。 ここに来れて良かったと素直に思う。 キラが楽しそうにしている。それがどんなことより嬉しい。 そして、今日が自分の誕生日であること。 今までのどの日より、幸せな1日だったと思えた。 けれど1日だけ。 今日が終わればまた元の日常に戻る。 ふと現実に引き戻されてしまった。 できれば最後まで忘れていたかった。 俺にとってこれは初めてのことでも、キラは初めてじゃないだろう。 キラには恋人がいるのだから。 だから慣れている。 腕を組まれた時も、さり気ない気の使い方に気づいた時も。 そう思った。 「…アスランともこういう所には来るのか?」 自分でも馬鹿なことを聞いたと思う。 わざと自分の首を絞めてどうする。 けれど、キラは自分の前にやって来て、コツンと額を合わせた。 かなり揺れたがそんなことは気にしない。 「今日僕は君のものなんだから。そういうことは考えないの。」 頬を包み込む手は温かく柔らかい。 それを取って、掌に軽く口付けた。 「…つまりこういうことをしても良いというわけだ?」 微笑うとキラの顔は湯気が立ち上りそうに真っ赤だった。 「う…」 「…そんな顔をされると自制がきかなくなるぞ。」 意地悪そうに笑えばキラは後退る。 そんな彼を見てイザークはのどを鳴らして笑った。 「本当に面白いな お前は。」 「どういう意味? それ。」 憮然としたようにキラが少しふくれる。 「分かりやすいというか、バカ正直というか…」 「褒めてないよ 全然。」 そんな笑いながら言われても。 しかもバカってなんだよ もうっ。 「一応褒めているつもりだが?」 「何処が。」 そう怒る姿も可愛いと思ってしまうのは惚れているせいだろうか。 溢れる笑みはどうしても止まらなくて。 キラも諦めたように苦笑いをすると、いつしか微笑みに変えていた。 観覧車が下に着いた頃にはもう夕焼けも終わっていて。 世界は少しずつ闇に飲み込まれつつあった。 辺りのライトアップも始まって、昼間とはまた違う表情が現れる。 「どうしたの?」 突然立ち止まってしまったイザークを見上げる。 向き合い 覗きこんだ瞳は少し寂しげだった。 「キラ…」 頬にそっと触れる。 キラは少し不思議そうにしていた。 「――― 今日1日恋人というのなら。キスしても構わないか?」 「…え?」 動揺で揺れる瞳。 何を言っているのだろう。 答えは分かっているはずなのに。 「―――良いよ。」 そう応えられて、イザークの方が驚いてしまった。 まさか本当にそう言われるとは思っていなかったから。 「だって僕は君の恋人でしょ?」 それがたった1日でも。今の僕は君のものだから。 ゆっくりと目を閉じる。 そして2人の距離が縮まっていく。 「…!!!」 アスランの我慢はピークに達し、今にも飛び出しそうな勢いだ。 でも掴んだニコルは絶対に行かせない。 「キラさんが承諾してるんだから我慢です。」 「そんな馬鹿な…!」 恋人がキスされそうなのを黙って見てろというのか!? 彼の唇が一瞬だけ触れた。 「……え?」 今キスされた所を押さえる。 ―――触れたのは、額だった。 「少しからかいたくなっただけだ。」 くるりと背を向ける。 少し無理をしているが。 キラは俺の想いには応えられない。 それは判っているから。 「帰るか。」 振り向かずに手だけを後ろに差し出せば、ちゃんと握り返してくる。 「うん。…今日は楽しかったね。」 気がつけばまたキラが腕を絡ませていて。 今はもうそれだけで充分だった。 「―――そうだな。」 終わっちゃえ。 --------------------------------------------------------------------- コンセプトは"ひたすら王子なイザ様"で。 本当にカッコ良く出来上がっているかは謎ですが。 プレゼントはキラ姫とのデートです。しかもアスランの承諾付きで(笑) 哀れなアスラン… しかし今回はイザ様の誕生日企画ですからv ってゆーか、イザ様何気に諦めかけてませんか? ちょっと切ないですヨ? アスランとニコルを出す意味あったのかは謎… 全体にほのぼのなのに そこだけギャグに…(苦笑) でもまぁとりあえず。 お誕生日おめでとうございます!!