楽しい昼食の食べ方
全員が思い思いに昼食を取る食堂。 戦闘体勢も解除され、各々リラックスした様子で寛いでいる。 その中で、同じ年代の若いクルー達はほぼ同じ場所に固まって食事を取っていた。 「キラv」 鈴の鳴るような可愛らしい声で、ピンクの髪を揺らす少女は彼にスプーンを向ける。 「え……」 向けられた方の彼…濃茶の髪に菫色の瞳を持つ少年は、その整った顔を複雑な表情に歪ませた。 「ラ、ラクス……?」 自分に何を望んでいるのか、させようとしているのかは分かる。 分かるけれど、それでできるものってワケでもない。 ここにもし2人っきりなら もしかしたらやったかもしれないけれど。 周りにはミリアリアとかサイとかディアッカとか、他にも視線が集まってきている。 「どうかしましたか?」 キラがたじろいだのを見て、彼女は不思議そうに首を傾げる。 「あの、それは… ちょ、ちょっと……」 "恥ずかしい"という感覚がこのマイペースな少女には無いようで。 キラの心中を察しているようには見えない。 いや、ひょっとしたら分かっていてワザとなのかもしれないけれども。 「お嫌ですか?」 「いや、あの、そういう問題じゃなくて…」 そうしている間にも、興味を示した周囲の大人達までもが キラの行動を見届けようと身を乗り 出してきている。 思わず身体が後ろに下がってしまった。 「…食べて、下さいませんのね……」 しゅん としてあげていた手を下ろす。 彼女から笑顔が消えて、なんだか痛い視線がキラに降り注いできた。 「え、あ、だから…えっと…っ!」 ものすごく自分が悪いことをしているみたいでキラは慌てふためく。 「私の屋敷に居た頃はいつもやっていたことですのに…」 「「「「!!?」」」」 後ろを向いていた者さえ振り向かずにはいられない爆弾発言。 みんな同じようにラクスに注目し、そしてキラと2人を交互に見た。 「そ、それはっ 僕が1人じゃ食べれなかった時の話じゃないか!」 起き上がることすらできなくて、自分で何もできなかった頃の。 耳まで赤くして、泣きそうな勢いで叫ぶ。 「今はもう1人で大丈夫だって!」 本当に泣きたい。 恥ずかしくて溶けてしまいそうだった。 けれどラクスの方はどんなに注目を浴びてもけろりとしている。 もう1度スプーンを向けて、にっこりと微笑んだ。 「キラは理由が欲しいのですね。では、これはいつも頑張っているキラへのご褒美です。」 そう言って口を開ける仕種をする。 「それでも駄目ですか?」 「〜〜〜〜〜〜〜〜っ」 あいかわらず注目は浴びていたけれど。 ご褒美と言われて突っぱねるわけにもいかないし。 これ以上哀しい表情させたくないし。 でも恥ずかしいのは変わらないし。 目の前のスプーンを見つめて固まったキラの心の葛藤は、一瞬のようで長かったような気がして。 キラはぐっと目と閉じた。 パクッ どうにでもなれ! といった気分で口に含む。 周囲のどよめきや冷やかしの声に顔を再び真っ赤にしながら、キラは口に含んだそれをごくんと 飲み込んだ。 ラクスは嬉しそうにキラを見て笑っている。 「キラvv」 上機嫌の彼女は また同じ仕種をした。 「え、っと……」 でも2度目となるともう周りはどうでも良い感じになって。 けっきょくラクスは何言っても無駄だしという諦めも入って。 今度は躊躇わず自然に口に運んだ。 「美味しいですか?」 「う、うん…」 本来 何の味気も無い食事のはずだけれど素直にキラは頷いた。 「それは良かったですわ。」 こうなってくると誰も2人の世界には入り込めない。 大満足のラクスは 今度は別のトレイに持ち替えた。 「―――お前等、よくそこまで周り放っといていちゃつけるな。」 いつまで続くのか分からない2人の世界にストップをかけたのは、呆れ果てた表情で前に座った ディアッカだった。 浅黒の肌に映える金の眉の端が軽く上がる。 「いちゃ……」 素直に反応したのはキラで、やっと元に戻った顔がまた耳まで赤くなる。 「あら、羨ましいのですか?」 「…そうだな。不味いモノがさらに不味くなった気がするぜ。」 表面的な表情は笑顔のようだが、その後ろにお互い何か黒いものが見える気がして。 ちょっと 怖いかも…… キラは笑い合う2人から1歩引いた。 そして その気持ちは他のクルーも同じのようで、1人また1人と視線を外していく。 黒い笑顔で交わす しばらくの間の後、ラクスの表情が急に やんわりとしたもの変わった。 …それに気づいたのはキラくらいのものかもしれないけれど。 「―――貴方も誰かにしてもらえば美味しく感じるのではありませんか?」 「…あ?」 思いも寄らない突然の言葉に ディアッカは明らかに面食らったような顔をした。 「そう思いませんか?」 「…」 返事こそしなかったものの、ラクスの問いかけに妙に納得した様子で少し考える。 そして、ラクスの隣に座る意中の女性に笑顔を向けた。 「ミリィ♪」 「だ、だからその呼び方…っ じゃなくて! 嫌よ そんな恥ずかしいこと!!」 「恥ず……」 またもや素直に反応したのはキラで。 そうだね恥ずかしいよね。僕も最初はそう思ってたよ。 よく考えたら、何てこと人前でやってたんだろう 僕… 誰にも知られずキラは少し傷ついて 一人呟いた。 しかし我に返って沈んだキラはとりあえず放っておく。 「即答かよ…」 こちらも傷ついたディアッカは 周りを見回してみた。 そしてたまたま食堂の前を通りかかったマリューに目が行く。 「艦長!」 「ん? 何? ディアッカ君。」 特に疑問も持たず、マリューは立ち止まって食堂に入ってきた。 ミリアリアがそれにピクリと反応する。 その、持っていた空のカップに僅かながら力が入る。 「いや、実は艦長におね……ガッ!?」 「!?」 スコーンと良い音を立てて、カップが彼のオデコに直撃。 勢いでディアッカは椅子から落ちてしまった。 「…え?」 目の前で何が起こったのか、マリューには一瞬理解できなかった。 呆然としてしまって 消えた彼にかける言葉も見つからない。 「何でもありません 艦長。」 カップを投げた人物はマリューに向かってにっこり笑いながら言う。 いつもなら癒されるはずのものなのに、今は全くそういう気がしない彼女の笑顔。 「あ、あら そう…?」 痛そうなディアッカは心配だけれど、ミリアリアの笑顔と気迫に圧されてしまう。 子ども達も複雑なのだと マリューは察した。 「仲良く 食べなさいね…?」 苦笑いでそれだけ言って、彼女はそそくさと出て行った。 「いってぇなー…」 ブツブツ言いながら起き上がってディアッカは座り直す。 落ちたといっても 痛いのはカップが当たったオデコだけだ。 「ミリィが嫌だと言うから他に頼もうとしただけだろ。」 それなのにこの仕打ちは無いと思うぜ。 「〜〜〜 してあげるから! 他の人に迷惑かけないで!!」 「え?」 明らかに嬉しそうな彼を見て、ミリィは恥ずかしさに顔を赤らめる。 「今回だけ! 特別だから!」 「…俺も彼女欲しいなぁ……」 「言うな。空しくなる…」 ラブモード全開の子ども達を前に、寂しい大人達は味気無い食事を口に運んだ。 おわり --------------------------------------------------------------------- 31話予告の時点で考えた話だから今といろいろ矛盾は出てますが。 クライン邸でキラとラクスはどんな生活をするのかなーってな妄想から発展した話。 それが「キラv」なんですねぇ。バカですね 私。妄想大爆発な感じ。 これはキララクなんだけど、書きたいのはディアミリだったりする 私(笑) ディアミリ言うてもディア→ミリィです。ミリィの1番はまだトール。 彼女は性格的にすぐ他の男っていう子じゃないから。 想われるのは嫌じゃないけど 自分にはトールが居るから応えるわけにはいかないってところです。 ってかディアッカって死亡説多いじゃない? もしディアミリが成立したとして、ディアッカ死んじゃったらミリィがかわいそくない? 戦争で2人も好きになった男死んじゃうのよ? だからもし死ぬなら片思い止まりにするべきだと思うの。 友達以上だけどそれ以上にはならないくらいまで。 ってゆーかそれ以前に死ぬな ディアッカ! 戦争後も気長に待ってミリィを幸せにしてやってくれ!! …そういえばAAのカップって紙コップだっけ? 紙コップじゃ痛くないよなぁ。 まぁ良いか(コラ) ここではプラスチック製くらいのやつで。 陶器とかガラスだとさすがにな… ギャグだから良いのかもしれんが…