迷子の子猫


 迷子の子猫を拾ってしまった。

 ―――というのは冗談だけれども。
 拾いものをしてしまったのは確かだ。


 遊園地の真ん中で、僕は迷子の女の子を拾ってしまった。




 きょろきょろと周りを見渡して何かを探していたようだったから 思わず声をかけた。
 そしたら何故かぽろぽろと泣き出してしまって。
 1人で心細かったのだろうと、安心させる為に 頭を撫でてにっこりと笑ってみせたら、今度
 はギュッと抱きつかれてしまった。


 カガリより少し薄めのブロンドと、印象的なのは濃いピンク色をした瞳。
 青と白のひらひらのワンピースがとっても女の子らしくて可愛い。
 頼りなげに潤んだ瞳で見上げてくる仕草は小動物みたいで、そしてどこか庇護欲をかきたてら
 れるというか。

 つまりは放っておけなくて、キラは彼女の友達探しを手伝うことにした。



 けれど それは1番最初から躓く。
 彼女はあまり話さない子らしく、かろうじて分かったのは"ステラ"という名前と数人の友達と
 一緒に来ているということだけ。
 あまりにも情報が少なすぎた。

 むやみに歩き回って探すより 呼び出しとかの方が良いのかもしれないと一瞬考えたものの。
 2、3歳しか違わない子を迷子センターに預けるのもどうかと思って。

 結局は大通りのベンチで待つことにした。
 ここなら、通りかかった時に見つけてもらいやすいだろうから。





「美味しい?」
 尋ねると彼女はコクンと頷く。
 買ってあげたソフトクリームを美味しそうに食べる彼女が可愛くて キラも自然と微笑んだ。

 あれからまだ10分程度だけれど、人を探しているような人にも出会わない。

 今頃自分の連れの方も探しているかもしれない。
 でも連絡用の端末はつい預けたままで離れてしまっていたし。
 この子を1人残して行くのもどうにも不安で。




「……ん?」
 それからさらに10分。
 肩に重みが来たかと思うと うつらうつらしていた彼女が頭をもたげてきた。
「眠いの?」
「ぅ ん…」
 1度目を擦り、返事にならないような返事を返すと キラの足を枕にこてんと寝てしまう。
 驚くキラをよそに、すぐに小さな寝息が聞こえてきた。

「……まぁ良いか。」
 会ったばかりの人間にここまで無防備なのもどうかとも思ったけれど。
 それだけ信頼されたのだろうと思うと嬉しかった。


 膝にかかる重みと体温は、人のあたたかみを伝えてくれる。
 妹がいたらこんな感じなのかなと、少し思った。

 ふと気づいて ハンカチで口元のクリームを拭ってやる。
 すると、その手ごとギュッと握られてしまって。
「…誰かと間違えてるのかな?」
 くすくす笑いつつも、彼女の好きにさせていた。
 代わりにキラも空いた手で彼女の柔らかい髪を梳いてみたり。

 初めて会ったはずなのに もうずっと前から知っていたような。
 そんな気分になりながら、キラは幸せそうに眠る彼女と穏やかに流れる時間を過ごした。








「「ステラ!!」」
 それからどのくらい過ぎていたのかは その時時計を見ていなかったから覚えていない。
 2人の男の子が 彼女の姿を見つけた途端に走ってきた。

「しーっ 心細くてさっきまで泣いてたんだよ。」
 また大きな声を出そうとした彼らに人差し指を立てて注意する。
 きっと彼女はとても大切にされているのだろう。2人共素直に黙り込んだ。
「…君達がこの子の友達?」
「はい。」
 声のトーンを最小限に落として言えば、相手も小さく返して頷く。


「ん―――…?」
「あ、起きた? 友達が来てくれたよ。」
 目を擦りながら起き上がって、彼女は数度 大きな瞳を瞬かせる。
 それから辺りを見回して、そして "彼"を認識した途端 彼に飛びついた。

「シンっ」
「わっ ステラ!?」

 驚いたものの 転ばず支えて踏み止まる辺り、ちゃんと男の子なんだなとキラは感心する。
 心なしか彼女の声音も明るく 目は輝いていて、よほど彼が好きなんだなーと思って クスリと
 微笑んだ。


「こら、ステラ!」
 がっちりしがみ付いている彼女を、シンと呼ばれた少年から引き離そうとしているのは もう
 1人の男の子。
 けれど彼女は嫌と首を振って絶対に離れようとはしない。
「スティング、あっち行って!」
 あげくにはそんな風に言われて凹んでいた。




「―――良かったね。」
 ぽん、とすっかり触り慣れた彼女の頭を撫でる。
 すると 顔を上げた彼女はニッコリ微笑んで、うんと盛大に頷いてくれた。

 もう自分の出番は終わりだ。
 そう思って キラはさよならを告げると彼らに背を向ける。


「あ、あの、ありがとうございました! 名前は!?」
 そのまま立ち去ろうとしたキラの足を止めたのはシン君の方だった。
 追いかけてきた声に振り返って 意外に律義な少年に笑いかける。

「キラ、だよ。キラ・ヤマト。」

「き、ら… キラ…? ―――キラ!」
 彼に抱きついたまま、こっちを見ていたステラも 口の中で何度も呟いて。
 覚えた、とでもいうようににこにこしていた。


「キラさん! 本当にありがとうございました!」

 今度こそお別れだと キラは手を振った。










 彼らと別れてけっこうすぐに 自分の仲間は見つかった。
 アスラン、ラクス、カガリの3人は 人目につくオープンテラスで食事をしていた。

 きっと僕の為にだろう。

 ごめんとありがとうを言って キラはラクスの隣に座った。



「何してたんだ?」
 頼んだアイスコーヒーを受け取って、ミルクを入れていたらアスランがそう尋ねてきて。
 顔を上げたら ラクスとカガリも興味有り気な視線を向けていた。

 …確かに 気になるだろう。
 手を洗いにトイレに行くと言って、そのまま結局1時間も待たせてしまったのだから。

「迷子の女の子を見つけちゃって。」
 隠すことでもなかったから 正直に全部話して聞かせて。

 話した後、ラクスに「キラらしいですわ」と苦笑いで言われた。




 ハンカチを忘れてきたことに気づいたのは、その少し後のこと。



 その日、それが彼らとの出会い。


 そして彼らとの再会は、少し後の交流会で実現することになる―――







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シンステというかこれはキラステじゃないのか…?
ポイントは膝枕です☆



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