もうすぐ誕生日
その日、生徒会メンバーは放課後に街に遊びに出ていた。
というか、ルナマリアがステラを誘って、それにシンがくっ付いて。
ついでにレイまで巻き込まれたのが真相なのだが。
「「あ。」」
「―――あら。」
ルナマリアお気に入りの雑貨屋に寄って10分ほど。
互いに気づいて、固まった後 ルナマリアとシンが慌てて頭を下げた。
ちなみにレイはとっくの昔に挨拶を済ませ、ステラは誰だか分かっていないのか きょとんと
したままだ。
「ラクス先輩もお買い物なんですか?」
「ええ。もうすぐキラのお誕生日ですから。何か買おうと思いまして。」
彼女の手にある物は片手で持てるほどのラッピングされた可愛らしい袋。
きっとこれが彼の手に渡るのだろう。
「だから今日はお1人なんですね。」
言うとにこりと笑って返される。
その笑顔に、何故かルナマリアの方が照れて赤くなってしまった。
「…キラ先輩とラクス先輩って本当に仲がよろしいですよねー」
今の高等部生徒会メンバーの中等部の頃のエピソード、そして高等部でのラブラブっぷりは
中等部でもかなり有名だ。
つい先日の交流会でも ケーキの「はい あーんv」なんて、すごいものを見せてもらった。
「あら。アスランもカガリさんの為にかなり苦労しているみたいですわ。」
今度は少し意地悪っぽく笑う。
「…へー」
感心しながらも、陳列棚の前で難しい顔で考え込む彼の姿が容易に想像できてしまって。
ルナマリアは思わずといった風に噴き出した。
「何かごちそうさまって感じです。」
「あらあら。」
「誕生日か… 俺も―――って、ステラ。」
そこではっと気づいて シンはくるりと隣の彼女を見た。
「…なに?」
微妙に切羽詰ったというか 慌てたといった様子の彼に、しかし彼女はマイペースにことりと
首を傾げて。
些か眠たげに聞き返してくる。
…はっきりいって可愛い。
見慣れてるはずなのに、やっぱり何度見ても可愛い。
でも言うとルナに馬鹿にされるので、ここは心で惚気るに留めた。
「…シン?」
何も言わない彼を不審がってか、甘い声で名を呼ばれる。
ハッとして、ぽやんとしている彼女の肩をがっしと掴んだ。
「あ、あのさ。…ステラの誕生日っていつ?」
"恋人への誕生日プレゼント"
それを聞いて自分もやりたくなってしまったのだ。
俺だってステラの喜ぶ顔が見たい。
「さいてー。アンタ 恋人の誕生日も知らないわけ?」
そこにすかさずルナマリアのツッコミが入る。
「悪かったな! 聞いたことなかったんだよ!」
痛いセリフだが、自覚があるだけによけい反発した態度になってしまうのは性格故か。
これがレイ相手なら素直に聞いたのだろうけれど。
「たんじょ、ぅび…? なに? それ。」
「え?」
「―――"誕生日"というのは 自分が生まれた日のことだ。」
驚いて目を丸くするシンの代わりに答えたのはレイ。
彼の言葉を素直に聞いていたステラは 少し考える仕草を見せて。
「…ステラ、知らない。たんじょうび、ない。」
シンを見上げると 緩やかに首を振った。
それを聞いてシンは 彼女が養女だったことを思い出す。
幼き日に捨てられた少女は今、ネオ・ロアノークという人物の下で他の2人の義兄弟と共に
暮らしている。
誰も生まれた頃の彼女を知らない。
本当の誕生日なんてきっと誰も知らないのだ。
「ご、ごめん! 俺、無神経なこと聞いた!」
「…? どうして謝るの…?」
「―――でしたら。」
不意に 2人の前にラクスが歩み寄り、そしてステラの髪に持っていたピンクのリボンを結ぶ。
きょとんとするステラに向かって、ラクスは優しげに微笑んだ。
「自分の好きな日をステラさんの誕生日にしたらどうでしょう?」
「好きな、日、ですか?」
聞き返すシンに、えぇ と彼女は頷き返す。
「分からないのなら 決めてしまえば良いのですわ。」
それもそうか、と。
ラクスの言葉はシンの中にすとんと落ちた。
「…ステラ。ステラはいつが良い?」
そして、もし決めるとするなら彼女が好きな日に。
そう思って尋ねる。
もし今日が良いというならそれでも構わない。
今すぐにでも準備する。
「……。ステラ、シンといっしょ、がいい。」
ふんわりと微笑んで、嬉しそうに答えた言葉。
シンがそれを理解するまでには数秒必要だった。
「……えっ!?」
そして理解した途端に 真っ赤になる。
「…じゃ、じゃあ ステラの誕生日は俺と同じ9月1日で良い?」
「うん!」
あまりに可愛く、そしてすごく嬉しそうにこくんと頷くから。
不意打ちだ…
なんか、すごく嬉しいかもしんない…
しばらくは彼女を直視できそうになくて、めちゃくちゃ困った。
「可愛らしいですわね。」
「こっちもごちそうさま、だわ。」
店のど真ん中で繰り広げられる2人の世界から少し離れて。
ラクスは慈愛の微笑みで、そしてルナマリアは苦笑いでその様子を見守っている。
そしてレイはといえば、1つ溜め息をついただけで興味無さげに背を向けた。
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シンステはほのぼので好きです。
中等部との交流編の方も書かなくては…
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