果たせない約束


「……憎しみの連鎖は何も生まないんだろ?」

 あれだけたくさん傷つけといて。
 こんなこと言う権利は無いのかもしれないけど。
 でも、これだけは絶対言わなきゃいけなかったから。

 目を見て言うことはできなかいから背を向けて。

「もう憎いとか、殺したいとか、そんなこと言わない。」
 ぶっきらぼうに言い切った。

 …本当は。
 憎まないんじゃない。憎めないんだ。
 だって充分苦しんでる。
 これ以上償う必要なんてないだろ?


「―――シン。」
 言葉に対しては何の返事も無かったけど、その呼び方はとても優しくて。
「ナニ?」
 それに自分は可愛くない言い方しかできない。
 いまさら捻くれた部分は直せないし、なんか 変に照れ臭くて。
 でも良いんだ。
 それでもきっと この人は笑って受け入れてくれるだろうから。

「全部終わったら… 一緒に暮らそうか。」
 普段から突拍子も無いことを言う人だったけれど。
 いつも以上に突拍子も無いことを言ってきた。
「は?」
 怪訝に振り返ったシンに、それでもキラは微笑って。
「家族になろう。僕と君とで。」
 そんなことを言ってくる。

「何言ってるんだよ。俺が独りで可哀想だから?」
 あぁ、本当に可愛くない。
 これはもはや癖としか言いようが無い。

 本当はそんなことが言いたいんじゃなくて。
 キラが笑って許してくれるから、つい甘えてこんな言い方になってしまう。

「そんなんじゃないよ。それとも、嫌?」
 ほら、やっぱり笑ってる。
 そしてもう1度選択肢をくれる。

「…嫌、じゃない……」
 消え入りそうな返事に、それでもキラはほっとしたように笑った。

「じゃあ約束。」






*******






 間に合わないと悟った時には、すでに身体が勝手に動いていた。

 放たれた主砲の先にはシンがいて。
 叫んで呼ぶより自分の機体で受け止める方が早かったから。

 彼を些か乱暴に突き飛ばして、"光"の前に自分を投げ出した。



 ――― …嫌、じゃない……

 彼がくれた初めての肯定の言葉。
 嬉しかった。
 僕にはそれだけで良かった。


 ……心残りはひとつ。

 果たせない約束。



 …やっぱりできない"約束"はしないべきだね……

「シン… ゴメ…ン……」

 でも、君を死なせるくらいなら僕が。
 君には未来がある。

 君は僕が守るから。
 死なせないから。





「―――――っっ!?」
 その光景を、目の前でシンは呆然として見つめていた。


 光に包まれる機体。

 自分を、庇って。
 代わりに光に吸い込まれて。



 ――― じゃあ約束。

 笑顔が、ちらつく。
 さっき、そう言って笑ったばかり……

 やっと、許せたのに。
 言えたのに…



「…ぁ…… ああああああああああっ!!!」




 ――― 一緒に暮らそうか。


 それは、果たされない、約束。







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初っ端から死にネタって…(汗) 初めてまともに書いたDESTINY。
兄弟っぽいキラとシン希望〜 アスランに対しては英雄化してしまったので。



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