聖母 −写真−


 軽くキラと言葉を交わして別れた後、フレイは足元に落ちていたキラリと光るものを拾った。
 金のペンダントトップに輝く一粒のエメラルドは"彼女"の息子の瞳の色。
 何度も見たことがあるから誰のものかなど間違えようがない。

 その たった今別れた落とし主―――キラに渡そうとしたけれどすでに彼女の姿はなく。
 また後で渡せば良いか、と追うことは止めた。


 落とした拍子に開いてしまったのか、ロケットの中の写真が見える。
 幼い少年が微笑んでこちらを向いている写真。
 よく知っている顔だ。
 微笑ましくて笑みが零れた。
「キラったらこんなところにまでアカツキの写真なんか―――…」
 言いかけたフレイから笑みが消える。

「…違う……」

 これは"アカツキ"じゃない。
 アカツキは今3歳、でもこの写真はどう見ても12、3歳くらい。
 有り得ない。

 それにアカツキの髪はキラと同じ色のはずだ。
 こんな、"宵闇色"なんてしていない…

「これは、誰…?」

 思い当たるフシはある。いや、確信もある。
 写真を見た瞬間に違和感を持たなかったのも、ある人に面差しが似ていたからだ。
 その人とアカツキを重ねてしまっただけのこと。
 だから、アカツキと錯覚してしまった。似過ぎていたから違和感を持てなかった。
 アカツキも成長したらああなるだろうと、いつも思っていたから。


「あの子…」
 小さな写真を見つめて フレイは無意識に唇を噛み締める。

 大切に持ち歩いてる写真。
 隠すように、そっと。
 それは誰にも秘密の彼女の想い。
 相手にすら秘密の、小さな小さな彼女の愛の証。

「じゃあ 何で応えてあげないのよ…」
 呟く声は掠れて、僅かに震えていて。
 何故だか解らないけれど、こちらが切なくて泣きたくなる。

 あの人がキラに何度も求婚していることは知っている。
 そしていつもキラが断っていることも。

「好きなら好きって言えば良いじゃない…」

 こんなに好きなら。
 遠慮することも隔てるものもないじゃない。
 今はもう、戦争は終わっているのに。

「本当に 馬鹿なんだから…」







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キラの小さな愛情表現。
てか父親バレバレなんですか(笑)



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