名前



「―――私 記憶力は良い方なのですけれど。どうしてキラの名前を覚えていなかったので
 しょう?」

 仕事上ではもちろんのこと、会った人の顔と名前を一致させるのは元から得意だ。
 けれどキラの名前は覚えていなかった。
 会ってすぐ彼だと分かったけれど、名前を聞いてもピンと来なかったのも事実。
 初恋だったのに、本当なら忘れるはずはないのにとても不思議だ。

 首を傾げて尋ねたラクスに、キラは当たり前だと笑った。
「それは単に僕が名乗ってないからだよ。」
「え?」
「あのパーティーにはお婆様も出席しておられて、僕を認めていなかったお婆様は名前を
 名乗るなと言った。ただそれだけのことだよ。」
 キラは何でもないことのように言う。つらい過去のはずなのに。
「…そんな顔をしないで。僕は平気だから。」
 優しくふんわりと微笑うキラを見ても、ラクスの表情は晴れない。

 平気だなんて嘘。キラはとっても傷ついていたはず。


「良いんだ。君とはこうしてまた会えたし、君は僕を満たしてくれた。」

 僕だけの思い出のはずだったあの日を君は覚えていてくれた。
 そして、叶わないはずの想いを受け入れてくれた。
 怖くて手離そうとした僕の手を引き留めてまで。

「だから、あの時名前を言えなかったくらい些細なことだよ。」







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またもKINDOMネタです。
そして自分で自分の疑問に答えてみた。シリーズ(笑)
オマケのつもりで書いたので短いです。



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