再会前夜



 それは、2人が再び出会う前のお話。




 憂いを帯びた表情で窓の外を眺めるクラスメイトを ラクスは惹かれたように眺め見る。
 するとラクスを取り囲んでいた少女達もつられてそちらに視線を送った。

「…レナさん、また溜め息をついているわね。どうしたのかしら?」
「あぁ、彼女ね。恋人と別れたんですって。」
 一人の女生徒が呟いた疑問に別の少女が答える。
 噂話、特に恋愛に関する話が好きな女の子達の情報網は計り知れない。
 どこでそこまでの情報を得ることができるのか、ラクスには理解不能だった。

「恋人というと… AA学園のキラ様と?」
「ええ。レナさんの方が近々婚約されるので仕方なく だそうよ。」
 それは良家の子女としては珍しくもない、よくある話。
 家のためにと愛する人と別れて別の人と結婚する。
 けれどそれもラクスには分からない感情だった。
 もし自分が同じ立場に立ったなら、絶対に愛する人と結ばれる方法を探すのに、と。

 ―――でも今は、それより気になることがあって。
 "名前"を聞いた瞬間過ぎった不思議な感覚。あれは一体なんだったのだろう。


「……キラ、様?」
 思わず零れた疑問に 情報をもたらした少女は笑顔で答えてくれた。
「キラ・ヤマト様ですわ。とても優秀な方で、優しい方なんです。」
「そう、ですか…」
 笑顔で返すつもりがポツリと一言返すだけになってしまう。
 当然彼女は不思議そうにこちらを見ていて。
 それに気づいたラクスは 安心させるようにありがとうございますと言って微笑んだ。


 この感覚は何なのだろう。
 懐かしいような、切ないような。
 名前だけで様々な感情を運んでくるヒト。


 その方は どんな方なのでしょう?


 ―――自然と零れ出た興味の感情に ラクスは自分で驚いてしまった。






*******






 頬杖をついてボケッと窓の外を眺めていると 前の席に双子の姉が座ってきた。
 明らかに他人の席だが昼休みの今、それを指摘する者はいない。

「…別れたって?」
 椅子ごと振り向くのではなく窓辺に寄りかかった体勢でさりげなく。
 キラも視線は空へと向けたまま、姉の質問に肯定の意を示した。
「うん。向こうに婚約者ができちゃって。」

 こんなことは珍しいことでもない。
 それなりにショックだからこうしているのだけど、お別れはちゃんと互いに同意してだっ
 た。

「掻っ攫おうとか考えないのか お前は。」
「…僕も彼女もそこまでの情熱は持てなかったんだよ。」
 呆れたように言うカガリには苦笑いで返す。

 彼女のことは好きだったけど、人から奪ってまでという感情はわかなかった。
 それは彼女も同じ。彼女は攫って欲しいとは言わなかった。
 それはきっと、自分の中にある感情のせいだ。
 彼女はそれを知ってくれていた。その上での関係だった。
 だからキラは、彼女が好きだったのだけど。

「お前もつくづく女運悪いよな。最初の彼女はあっちの留学が理由で別れたし。」
「…そうだね。」


 "遠く離れて、それでも貴方の心を引き留めておける自信はないわ。"

 最初の彼女が残した言葉。
 彼女も知っていた、キラの中の感情を。
 キラの心にはずっと一人の少女が住んでいることを。

 でも、その少女がキラのものにならないことを知っているのはキラだけだ。



「…本当に幸せにしてくれる子が、早く現れると良いな。」
 泣いている子どもを宥めるようにカガリから頭をポンポンと優しく叩かれる。
 ほんわりと温かくなる心に安堵感を覚えた。

 こういうところが"姉"なのだなと思う。
 姉であり妹であり、そして自分でもある 大切な半身の少女。
 またしばらくは彼女に依存することになるのだろう。

「……現れて欲しいな。」

 手に入らない少女を想うより そんな子を探す方がずっと良い。
 そして早くカガリを解放してあげたい、そう思ったから。



 彼の 運命の少女との再会は、もう少し後のお話。







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どうやらキラはラクスの元クラスメイトにも手を出していたもよう。
初恋の少女を想いつつ、手に入らないことを知っているから忘れて他の子を愛そうと思うのにそれもできない。
結局面影が似た子と付き合って、でも運が悪いので次々別れたり。
時期的にはラクスが転校してくる半年くらい前の話。



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