元カノ
「…あら? ひょっとして、キラ?」
4人で帰りに街へ寄った日、キラは道の真ん中で突然女性に呼び止められた。
「え?」
さらりと流れる栗色の髪と深い海色の瞳。
見た目の年齢より落ち着いた雰囲気を持つその彼女は、キラだという確信を得るとにこり
と微笑む。
「久しぶりね、元気だった?」
「…―――マリー?」
驚きのあまりに呆然としたまま、キラはそれだけ呟いて黙り込んで。
けれど、彼女が名前をもう一度呼ぶと やっとその表情を笑顔に変えた。
「…ごめん、ビックリしちゃって。いつ戻って来たの?」
「半年くらい前かしら。」
「連絡くらいしてくれたら良かったのに。」
そうしたらすぐにでも会いに行ったのに、と。
キラのその言葉に彼女は苦笑う。
「やぁね、迷ってたのよ。あんなサヨナラした後だったし。」
1人にしないと約束したのに、彼を置いていった。
手に入らない少女の代わりに自分が貴方の傍にいると言ったのに。
裏切ってしまったという後悔が、彼と会うことを拒ませていた。
「―――大丈夫だよ。君のことは今でも大切に思ってる。」
「ありがとう。」
「……どなたですか?」
いきなり知らない人とキラが親密に話し出してついて行けなかったラクスは、隣にいるカ
ガリにこっそり耳打ちした。
すると彼女は微妙な表情を返してきて。
言いにくそうに 軽く唸る。
「えーとさ、つまりな。彼女は……その、キラの初カノ、だ。」
「…そう、ですか。」
別に驚くことではない。
ラクスと再会した時にもキラには恋人がいたし、今ならともかく ラクスには当時キラが誰
と付き合っていようともそのことを責める権利などない。
「…でも、あまり面白くはありませんわね。」
「ラ、ラクス…?」
低く呟いた独り言にカガリがギョッとするが ラクスは止める間もなくスタスタと2人の方
へ行ってしまった。
どうしようとカガリはアスランを見上げる。しかし彼の返答は至極簡単なもの。
「止めても無駄なんだ。ラクスの好きにさせよう。」
変なところであっさりしているアスランにカガリは言葉を失ったが、結局はそれもそうか
と諦めた。
「―――はじめまして。」
仲良く談笑するキラとマリーの間にさり気なく入り込んで ラクスがにこやかに挨拶する。
突然の乱入者にマリーは少し驚いたようだったが、すぐににこりと笑み返した。
「マリーです、初めまして。貴女は?」
「私はラクス・クラインと申します。現在キラとお付き合いをさせていただいている者です
わ。」
「ラ、ラクス!?」
キラが真っ赤になって叫ぶがラクスは気にしない。
ただ表情を変えないまま マリーを見ているだけ。
その彼女はといえば、きょとんとして目をぱちくりさせている。
「ですから少し妬いてしまったのですわ。御二人があまりに仲がよろしいので。」
「―――ふふ、面白い人ね。」
ストレートなラクスの言葉が気に入ったのか、マリーは可笑しそうに笑って言った。
「…でもね、そんなこと言うと意地悪したくなっちゃうわ。」
「えっ、ぅわ!?」
グイッとキラの腕を引いて自分の腕を絡ませて、彼女は可愛くウインク一つ。
「最近彼と別れたばかりなの。ヨリ、戻しちゃいましょうか?」
「ちょ、マリー!?」
爆弾発言に慌てるキラと 笑顔のままで空気を凍りつかせるラクス。
おそらく冗談なのだろうが、マリーの態度は何となく真意が掴みづらくて。
リアクションに迷っている間に彼女はすぐその腕を解放させた。
「―――これ 私のアドレス。いつでも連絡頂戴ね。」
彼の手のひらに紙切れを乗せると、ラクスの反応を楽しんでいるのかマリーは彼女を見る。
見た目は変わらないが この身に直接伝わってくる冷たい気配に、彼女はこっそり肩を竦め
た。
今回はここまでだ と。
「またね。」
そう言って、彼女は軽やかにそこを去って行った。
明らかに不機嫌な お姫様を残して。
---------------------------------------------------------------------
"手に入らない少女"とは実はラクスのことなのですが。
マリーはもちろん冗談で言ってます。
BACK