20話パロ
地球への降下作戦前に与えられた休日の午後を、アスランはなんとなく屋敷の自室で過ごして いた。 短い休暇は有効に使うべきなんだろうけれど 母の墓参りと支給品で賄えない私物の買出しの 他に特にすることもなく。 久しぶりに工学の本などを見ているわけなのだが。 不意にコンコンと扉をノックする音がした。 「…?」 こんな時間に誰だろうとアスランは不思議そうに首を傾げる。 執事が急な用でも報せに来たのだろうか。 仕方なく本を閉じて席を立ち、扉へと向かった。 「どうかし―――」 「久しぶりですね。」 バタンッ 不覚にも見慣れた笑顔の青年を認めた途端、1度開けた扉を反射的にまた閉めてしまった。 「…これは夢だ……」 嫌な汗をないことにして 自分に必死で言い聞かせる。 どうしてアイツがここにいる。 いるはずがないじゃないか。 「せっかく遊びに来たのにこの仕打ちはないんじゃないですかー?」 現実を否定したいのに扉の向こうでは彼が再びノックしながら何やら言っていて。 どうしても否定させてはくれないようだった。 「………」 地を這うような重ーい息を吐いて、アスランはガチャリともう1度ドアノブに手をかけた。 「…何しに来たんだ。」 すでに疲れきった様子で、出された紅茶を優雅に飲み干す彼に問いかける。 問われた彼―――ラクスはいつもの調子で軽く笑って言った。 「休暇と聞いたから遊びに来たに決まってるじゃないですか。」 「…… どうして知ってるんだ。」 あまりに短い休みだから誰にも教えたつもりはない。 すると彼はニッコリ笑ってあっさり言ってくれた。 「コネ。」 「………オイ………」 「仮にも私は最高評議会議長の息子です。これくらいのコネクション、今から持っていないで どうしますか。」 なんの悪びれもなく言ってのける彼に脱力する。 だからといって友のプライバシーを侵害するのはどうかと思う。 …それを気にしていたらコイツの友人などやっていけないのは知っているのだが。 「―――元気がないかもしれないと、心配しに来たと言っても信じないでしょう?」 彼にしては珍しく、本当に心配そうな笑みでこちらを見る。 そこに嘘は微塵も見られなくて。 「…ラクス……」 ラクスは俺がキラのことで悩んでいるのを知っている。 今は敵となってしまった、幼馴染の少女を。 それで 元気づけに来てくれたのだろうか。 「―――あの子、可愛かったですね。」 考えを読んだかのようにラクスがくすりと笑った。 「え…?」 「キラ。今頃どうしているんでしょうね。」 言葉に胸がずきりと痛む。 イザークとディアッカが無事だったのなら、キラも無事だとは思うけど。 女の子なのに、あんな無茶―――単機での地球降下なんて。 大丈夫なのだろうか。 「…キラは… あそこでどんな様子だった?」 俺の知らないキラを、ラクスは知っている。 聞きたかった。 「―――少し辛そうでした。…1人で泣いているのを見かけたので声をかけて、そこで少し話 をしましたよ。」 「泣いて……」 ほら、だから一緒に来いと言ったのに。 何故そんな思いをしてまでそこにいるんだ、お前は。 「アスランの友達だと言ったら凄く嬉しそうに笑って。ハロのことを話したら、自分のトリィ もそうだと。―――貴方に貰ったトリィをとても大切にしていましたよ。」 「トリィ…? アイツ、まだ持って……」 「大切な友達だそうです。」 あんなことを言っておきながら、トリィを大切にしている彼女の矛盾が嬉しかった。 3年経ってもまだ動くほどに大切にしてくれてることが。 彼女は変わってないんだと、そこが嬉しくて。 でも、ホッとしたのも束の間。 ラクスがとんでもないことを言い出した。 「私、あの子 好きですよ。」 最後に にこりと笑ってそう付け加えたのだ。 「え!?」 「可愛いし、優しいし。そして正義感も強くて。」 知り合って2年以上になるが ラクスがそういうことを言うのは初めてで。 驚いたと同時に、その相手が他でもないキラだったから慌てた。 「ちょ、ちょっと待て!」 「次に会った時に告白でもしてみましょうかv」 こちらの制止も全く聞かず、本気とも冗談とも言えないことを言ってくれる。 「〜〜〜っ 彼女は敵なんだぞ!?」 勢いで自ら言ったとはいえ、なかなか堪える言葉だ。 それでも言わずにいられなくて身を乗り出したら、ジトッと睨まれた。 「愛にそんなもの関係ないでしょう。そもそも、アスランだってキラを敵だとは思ってないく せによく言えますね。」 「…ッ」 ぴしゃりと断言され、さらに図星だったアスランは言葉に詰まってしまう。 「クルーゼ隊は近々地球降下するんでしょう? だったらさっさとキラを拉致でも捕獲でもして 連れて来て下さい。」 「だからどうしてそういうことをお前が知ってるんだ!?」 もう"ラクスだから"で納得するしかないのか? しかも問題発言はそれだけじゃない。 「しかも拉致とか捕獲とか… できるわけないだろう!」 「それをどうにかするのが赤―――エリートでしょう。」 事も無げにサラリと言われてしまってはこちらも立つ瀬がない。 できたら苦労はしないのだ。 「無茶を言うな…」 1度失敗してるんだとは言えず、アスランはガクリと項垂れることしかできなかった。 この後ラクスはちゃっかり一晩泊まって帰りました(まる) 終われ。 --------------------------------------------------------------------- 微妙にアスラン→キラでお送りしました。 どうせなら三角関係の方が面白いし。ラクス様のライバル宣言〜☆