告白

それがいつか交わる日を願っていた…




 知らなかったよ、ここまでお前に溺れていたこと。
 2度と会えないと分かっただけで、我を見失えた自分が笑えた。

 ずっと好きだった。
 自覚はしていたんだ。
 だから 何度も伝えた。

 ―――全て冗談で流されてしまったけれど。

 でも、それでも良かった。
 お前がそう望んでいるなら。
 お前が俺に「親友」を望んでいるのを知っていたから。

 そばにいるためなら我慢できた。
 いつか答えが変わってくれたらと、淡い期待も持っていたけど。

 好きだよ…

 だからこれで終わりだと思った。
 お前は俺から離れると思っていた。

 でも何故?
 何故お前は受け入れたんだ?

 何故―――?






*******






「―――…っ?」
 目を開けると同時に入ってくる白い光。
 それに目を細めつつ、無意識に隣の熱を探る。
 けれど、そこには何もなく。
「……とな、り?」
 自分の行動に疑問を覚えて アスランはその手を止めた。
 そして まだ覚醒しきっていない頭で身体を起こし辺りを見回す。
「ここは…?」
 見覚えがあるようでないような、不思議な場所。
 ただ、とても安心できる、そんな…


「あ、起きたんだ。おはよ。」
 ボーッとして声の方を見れば、キッチンからフライパン片手に微笑み覗き込んでいるキラの姿
 が見えた。

 何故キラがここに?

「朝食、もうすぐ出来上がるからちょっと待ってね。それとも先にシャワー浴びる?」
「あー……」
 違う、そうじゃない。
 だんだん頭が冴えてきて。
 ここがどこなのか、自分が何故ここにいるのか。
 途切れ途切れだけれど 記憶が戻ってきて。

「…シャワーにする。」
 とりあえず目を覚ましてしまおうと。
 前髪をかきあげてぼそりと言えば。
「分かった。着替え用意しとくから入ってて。」
 キラが笑った。







 少し熱めに設定した湯を頭から被る。
 シャワーの音は全てをかき消し、排水口に消えて行く流れは少しずつ思考を取り戻させて。
 昨日のことも思い出した。
 けれどその場合、キラの態度が理解できない。

 キラは―――… 笑っていた。

 いつも通りのキラ、変わらない笑顔と態度。
 まるで何事もなかったかのような―――

 あれは… 夢だったのか?

「そんなはずはないか…」
 ふと浮かんだ逃げの考えはすぐに打ち消した。
 気づかないはずがない。
 少しぎこちない歩き方、どこか庇うような仕種に。
 ふっと自嘲気味に口元を歪める。

 無理矢理抱いた。
 キラの意志も 何もかもを無視して。
 キラだけを求めて、キラだけしか見えなくて。

「最低だ…」
 声は水と共に流されて消え。
 壁に手を付き微動だにせず、流れるままに任せる。


「服、置いとくよー」
「あぁ。」
 反射的に顔を上げれば、磨りガラスの向こうに人影が見えて。
 また消えた後には、その代わりに洗濯機の機械音が聞こえだした。

 変わらない。キラの態度は今まで通り。
 それは優しさなのだろうか。
 それとも、無かったことにしたいのだろうか?
 …そうかもしれない。
 1度なら気の迷いで済まされる。
 互いが忘れたことにしさえすれば。

 そして、また親友に戻るのか?

「―――できるわけがない。」
 たとえキラがそう思っていても、俺は。

 …もう、戻れない……








 着替えて出てきた俺を見て、"やっぱり僕のじゃ小さいね"とキラは苦笑いした。
 身長はそれほど変わらなくても 並より細いキラと比べれば肩幅辺りに無理が出る。

 ―――こんな 細い身体で、ラは俺を受け入れた。

 キラはあの時何も言わなかった。肯定も否定も。
 ただ黙って受け入れた。
 真っ白になった頭に聞こえていたのは俺の名を呼ぶ声。
 泣く子を宥めるような優しい声。
 それ以外はほとんど覚えていない。

「アスラン?」
 座らないのを不思議がってか、首を傾げてこちらを見ている。
 謝って椅子に手をかけた。



「ごめんね。今食材切れかかっててさ。でもオムレツは自信作だよ。」
 本当はもっと作りたかったんだと、苦笑いでキラは言うけれど。そう言う割には種類が多い。
 けっこう時間かけてるんじゃないだろうか。
 そういえば今は何時だろうかと思い立って、アスランの手が止まった。

「…キラ。お前カレッジの方は?」
「んー? 今から行っても遅刻だね。」

 何げなく言ってココアを一口。
「ってお前…!」
「今日の講義は別にそんな重要でもないから休んでも平気。」
 さらりと言ってキラはパタパタ手を振る。
「それに どうせアスランも行く気ないんだろ?」
「それは… まぁ…」
 行ったところで父に連れ戻されるだけだ。
 すでに軟禁されて数日休んでいるし。
 そう思うとさらに行く気にはなれなかった。
「あ、そうだ。レノアさんから伝言。好きなだけここにいても良いってさ。」
「連絡したのか!?」
「うん。結婚のことも何とかするから安心してって。」
 実際どうにかしたのはキラだが、それをアスランが知る由もない。
「僕も構わないから。気にしなくて良いからね。」
 笑顔でキラはそう言って。

 何だかその時、甘えん坊だったはずのキラが とても大人に見えた気がした。








「後は俺がする。」
 食器を洗おうとしたキラを止めるように手を重ねる。
「え、でも…」
「一緒に住むなら客人じゃないからな。」
 言って、返答の前に持った皿を自然に取り上げて元に戻した。
 キラは妙に頑固だから、親切にも理由が要る。自分は無償でしたがるくせに変な奴だ。
 それがキラの良いところで、困るところなんだけれど。

「それに…」
 そう言って一呼吸置く。
 さっきから気になっていた。
「立ってるの、やっとなんだろ?」
「…っ!?」
 言葉の意味に気づいた途端にキラの顔が真っ赤になる。
 そんなキラをひょいと抱え上げるとその軽さに驚いてしまって。
 無理を強いた自分に再び嫌悪した。


「あ、アスラン??」
 今の状況に慌てているキラは、暴れようとして落ちそうになり、逆に首にしがみつく。
 それが少しおかしくて吹き出した。
「笑うなってばっ」
「大丈夫。落としたりなんかしないから。」
「てか自分で歩けるのにっ」
「辛いくせに。」
 ぐっとキラが言葉に詰まる。
「こういう時に気を使うな。」
 むしろ怒るか罵るか、してもらった方がまだマシだ。
 俺がしたことは許されることではないはずなのだから。




「―――すまなかったな。」
 ソファに横たえるように降ろしてやりながら、ポツンと落とした言葉は。
 怒るかと思ったのに、返ってきたのは笑い声だった。
「良いよ。君の痛みは僕の痛み。だから痛み分け。」
 僕より君の方が痛いかもしれないけれど。と。
「キラ…?」
 違和感がする。
 どこが、と聞かれても分からないが。
「? アスラン、僕は大丈夫だから。ね?」
 その笑顔があまりにキレイで。
 見ている方が恥ずかしかったから目を逸らしてしまった。
 勿体ないけれど、赤い顔は見られたくなくて。
 それはちょっとした男の意地というか。

「アスラン?」
 きっと首を傾げて不思議そうな顔をしているんだろう。
 見なくても分かるから見ない。
 だからそのままその場をたった。




「…愛してる。」
 キッチンに入る前に一度だけ振り返って。
 いつもの"冗談"のつもりで。
「? 急に何?」
「何となく。」
 今回も流されると思ったから。
 すぐに背を向けた。

「じゃあ僕も何となく。―――好きだよ。」

 くすくすと笑い声が聞こえそうな、そんな声で。
 思わず足が止まった。
「キラ…?」
「何?」
 振り返れば、何でもなかったかのように 寝転がったままで笑っている。
 でも、今のは。
「―――っ!」
 考えるより身体の方が先に動いていた。


「アスラン!?」
 驚いたような声も無視して。
 抱き締めた腕の力を強くする。

 やっと気がついた。
 ずっと感じていた違和感の正体。
 それは、キラが俺の言葉を受け入れていたから。
 いつも流されてしまう言葉も全て。
 キラは何もなかったように振舞ったのではなく、受け入れて それが当たり前のように返して
 いただけなのだと。

「―――ありがとう、キラ。」
 心のままに出てきた言葉は感謝。
「…気づくのが遅いよ。」
 でも、その声は全然怒ってはいなくて。
 アスランの行為も受け止めて、腕の中でキラは笑っている。
「仕方ないだろ。何年片思いしたと思ってるんだ。」
「うん。でももう逃げないから。アスランを選ぶから。」
「キラ。」
「だから。君も僕を選んで?」

 本当は気づいていたけれど。
 あの人に比べたら俺達は本当にちっぽけで。
 これが、一時的な解放でしかないことくらい。
 俺もキラもきっと分かっていたけれど。
 だけど。

「―――選ぶよ。何があってもキラを選ぶ。」


 今この時を。
 俺は手放したくなかった……






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キラ… 新妻みたいよ…(ほろり)
でもやっと両思い。長かったねぇ…
シャワーシーンは私的に想像して萌えでした。が。アスラン視点なので描写できなくて残念(笑)
ただ単に私の語彙不足と言えばそれまでだけども。
キラには"愛してる"より"好きだよ"の方が似合うと思う私。
いえ、ネオロマ的に(意味不明)
ラブラブEDを想像してみた場合にですね、キラはたぶんそう言うだろうと。
アスランは愛してると言うだろうし、イザ様も愛してるの方だろうなぁ…

―――と、まぁそれはここまでにして。
"後"のネタを引っ張り過ぎですか 私。どこそこに描写が…(汗)
てか… アスランさん。昨晩何したんですか(苦笑)
抱き締められた時、たぶん痛かっただろうと思います(言うな そこ)

次回は、またキラ視点、かな? ドキドキ同棲生活☆
…じゃあないですけどね。てか次がいつになるかも不明ですが…



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