マニュアル


「あ、そんな方法があるんだ。」

 コイツは相変わらずでとんでもない… と改めて感じてしまったのは、キラのそんな何気ない
 一言からだった。




「そっか。最初にスキャンかけちゃえば良いんだ。僕がいちいち全部見てたから時間かかって
 たんだ。」
 感心したように言いながら 彼はアスランの手元を覗き込む。
 ちなみに現在キラとアスランは一緒にジャスティスのメンテナンスをしている。
 アスランが普段どんな風にしているのか見てみたいとキラが言ったからだ。

「てか こんな機能あったんだね。」

 …今、さりげなくおかしなセリフを聞いた気がするんだが。

「…お前 マニュアルは?」
「え? ないよ。地球に行くと言ったらすぐにラクスがこれ用意してくれて。地球に降りたら
 そのまま戦闘に入ったから。」
 マニュアルなんて読む時間もなかったよーとキラはあっけらかんと言う。
 そして呆気に取られているアスランにトドメの一言を放った。

「てかストライクの時から読んだことなかったし。」

 それにはさすがのアスランも絶句してしまう。
 ザフトのアカデミーで基礎を学んで来たアスランならまだしも、キラはそれまでヘリオポリ
 スの普通の学生だった。
 当然MSなんて触ったこともなかったはずだ。
「じゃあ 今までどうやって…」
「勘? あとはメンテナンス中にいじったりとか。大半は戦闘中に覚えたんだけど。」

 有り得ない。
 そんな相手と戦っていたかと思うとゾッとした。
 それ以上に よく今まで生きてこれたものだと思う。

 無言の後、アスランはキラにどさりと紙の束を渡した。
「…なにコレ?」
「マニュアル。基本的なところだけでも読んでおけ。」
 けれど キラはパラパラとめくっただけで嫌いな課題を前にした時の表情と同じ心底嫌な顔を
 する。

「こんなの読めないよ。」
「読む前に言うな。」
「だってこんなの読んだら3秒で寝ちゃうよ 僕。」
 いつも数倍難解なコードやプログラムを見ているくせに。
 そういえば活字嫌いだったことを思い出すが、キラの場合は単なる甘えで読めば知識は確実
 に吸収できる。
 要は本人のやる気次第だ。
「それにアスランに聞いた方が早いし。アスランのことだから全部覚えたんでしょ?」
「人に頼るな。このめんどくさがり。」
 てこでもやらないつもりなのが手にとるように分かり、こればかりはと突っぱねる。

 というか、人を辞書代わりに使うな。









「なぁにブツブツと文句を言ってるんだ?」
 機体から降りて分厚い紙の束と格闘しているキラの後ろから声をかける。
 すぐに振り向いたキラは目の前に紙の束を突きつけた。
「あ、ムウさん! 見てくださいこの量。アスランがこれ読めって言うんです。」
 片手では持てないほどのその量。確かにあまり読みたくはない。

「全部とは言ってないだろ。」
 後ろからやってきたアスランは完全な呆れ顔。
 それくらい当たり前だと言わんばかりだ。

「貴方からも言ってやってください。こいつ今までマニュアル読まずに戦ってたとか恐ろしい
 こと言うんですよ。」
「うーん…」

 本来なら大人としてアスラン側につくべきなのだろうが、下手に嘘をつけば逆に痛い目にあ
 いそうな気がする。

 ここは正直に言おう。

「…俺もマニュアル読んだことないんだよな。」

「……え。」



 ツワモノがここにも一人。







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自分で疑問に答えてみる。
キラは勘で操縦してそうな気が…



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