背中合わせ
「どうする?」
「…やるしかないんじゃないか?」
場に不似合いな軽口で2人は周囲を見渡す。
自分達より明らかに体格の良い男数人が、殺気を漲らせて2人を取り囲んでいた。
「ちょっと肩がぶつかっただけじゃないか。」
背中からかかった声にキラは肩を竦める。
「すぐ謝れば良いのに睨んだりするから。」
「見上げただけだ。」
背中合わせの言葉の応酬。
背中から伝わる温もりが1人じゃないよと言っているようで。
だからこんなに余裕なのかもしれない。
「アスランって昔から誤解で敵作るタイプだったよね。」
「そうだったか?」
「無口で何でも淡々とこなすから、すました奴!なんて。」
「そういえばそんなこともあったか。」
あまり頓着して無さそうな返事で。
「だから敵が増えるんだって。」
仕方ないなと笑って答えた。
あまりに和やかに話すものだから、相手の苛立ちはそろそろ限界に近い。
それでも2人は前を見たまま笑う。
「―――前にもあったな、こんなこと。」
「あの時は3人、だったっけ?」
―――"3対1は卑怯だよ。"
そう言って割り込んできた親友と、こんな風に軽口を言い合った。
あの時喧嘩を吹っかけられた理由は何だったか。
とりあえずくだらない理由だったのは確かだ。
「…今回はその倍か。」
しかも今回は見上げる程の相手ばかり。
「僕が2、君4ね。」
「均等にはしないんだな。」
普通は3:3だろう?と笑って言えば、トンッと肩がぶつかる。
「アスランの方が強いじゃないか。どうせあっちでも優等生してたんだろうし。」
彼が言うのは軍でのことだろう。
どんな風に過ごしていたのかなんて、こいつにはお見通しというわけだ。
それでも"喧嘩を吹っかけられたのは君だから"なんて理由じゃない所がこいつらしい。
「負けず嫌いだからな。」
いつか誰かに指摘された答えで返して。
スッと視線を鋭くして見据える。
相手の限界も越えたようだ。
「じゃあ、また後で。」
「それもそうだな。」
表情と全く合わない言葉を交わして。
―――背中の温もりが消えた。
ドサッ
「ぐ…っ」
小さなうめき声と共に男の身体は地面にひれ伏した。
けれどそれを確認する間もなく、向かってきた相手を紙一重で交わし 後ろから手刀を打ち込む。
喧嘩と組み手はやっぱり違うななんてどうでも良いことを考えながら、アスランはちらりともう
1人を見やった。
後ろからの視線に気づいて、キラは前を見る。
頭2つ分は大きい相手が身に合わぬスピードで襲ってくる。
けれど本人は涼しい顔だ。
「この…っ!」
振り下ろされる拳に目を細め、
防御をするフリをして、
―――直前で横に飛んだ。
「!」
どすっ
気づいた時にはもう既に遅く。
アスランの蹴りによって飛ばされた男をまともに受けて、そのまま大地のお友達となった。
「やっぱり4:2だね。」
足元に転がる男達を見下ろして、何事もなかったかのような態度で言う。
「最後は連携だから3,5:2,5だろ。」
「…どうでも良い所に拘るよね、アスランって。」
あの時も同じようなことを言っていた。
それで争っても意味ないし、どうでも良いから元から反論する気はないけれど。
きっと僕への感謝の意もあるんだろうな。
だから良いや。
「…お前、相変わらず足癖悪いな。」
「手より足のが速いんだ。」
「あー… 痛いんだよな、アレ…」
昔一緒に寝た時のことを思い出して少し遠い目をする。
「だからあれはごめんって!」
「…何やってんだ?」
別行動で買い出しをしていたサイとディアッカが合流して。
死屍累々の真ん中で仲良く談笑している2人に呆れて聞けば。
「「喧嘩」」
涼しい顔で、また仲良い返事が返ってきた。
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キラも強いんです♪
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