ラクス様の婚約者 −キラ編
「キラ!」
「ラクス、久しぶり。」
ラクスが嬉々として出迎えに出ると、少し申し訳なさそうな笑顔で返された。
ここに来るのは実に半月ぶり。彼には罪悪感があるのだろう。
「…それでね、ハイ、これ。」
そして手に乗せられたのは白い箱。
「?」
「今日のお土産はこの前見つけたケーキ屋さん。」
首を傾げたラクスの意図を読んで応え、中身はクラシックチョコケーキだと付け加える。
「美味しいんだよ ここのケーキ。」
店の名前は知らないけれど、キラがそう言うのなら間違いないのだろう。
彼はこういうのを見つけるのが上手だから。
「ふふ、ありがとうございます。ではアリスさんにこれに合う紅茶を用意してもらいましょう。」
ケーキの箱をオカピに渡すと、ラクスは庭の方へキラを促した。
「…キラの方も忙しそうですわね。」
最近会う機会が減っている。
仕方ないとはいえ、それは顕著になってきていて。
今日もかなり無理をして会いに来ているのだと、ラクスは知っていた。
「うん… ごめん。でも来月は纏まった休みが取れたから。約束の植物園、行けそうだよ。」
「本当ですか!?」
嬉しそうにすると、彼もクスリと笑う。
「うん。ついでに帰りに映画も見ようか。」
「はいv」
婚約者―――もしくは恋人として、キラはマメな方だと思う。
記念日のプレゼントにも事欠かないし、連絡もこまめにくれる。
それに優しくて、そして彼に対しては壁が要らない。
自然体で接してくれるので繕う必要が無い。
気を張らなくて良いからとても気が楽で、だから自然に甘えられる。
自然と壁を作ってしまう自分に彼は理想だと思う。
…けれど。彼には問題が1つ。
「―――そういえば。」
「? 何、ラクス。」
「フレイさんとはどうなさったんですか?」
途端、ぴしりと キラが固まった。
優しくて、人辺りが良くて。
頼まれても断れなくて苦労する。
"お人よし"だと評したのは彼の友人だっただろうか。
そんな彼だから。
強く断れなくて誤解を招くことがあるのだ。…特に女性関係に関して。
「ちゃんとお別れになりましたか?」
ふんわりとした笑顔で問えば、キラは困ったような表情をする。
「…僕とフレイは付き合ってないって、何度も」
「けれど周りはそう思ってらっしゃらないみたいですわ。」
「…それは……」
誘われて断れなくて。
それで幾度か食事をしたことで周りに誤解されて。
フレイ自身も満更じゃない分 厄介なのだ。
これで誤解のまま公開されたら事態はさらに複雑になってしまう。
「やっとカガリさんとのことが収まったばかりですのに。」
ふぅ、と息を吐いてラクスはカップをソーサーに戻す。
「あ… あれも、ね…」
対するキラも苦笑いしかできない。
双子の気安さで人前で抱きつくカガリに注意をせず放っておいたばっかりに。
あらぬ誤解を受けてしまって誤解を解くのに相当の時間がかかった。
「1週間以内にはどうにかするから…」
「そんなに?」
ピクリと彼女の眉根が反応したのを見て、彼は小さくごめんと謝る。
「できるならフレイを傷つけない方法で片付けたいから、ね。」
それにはそれだけの時間が必要だと。
どこまでも優しい彼に、再びラクスから溜め息が漏れた。
「…キラは何でも受け入れてしまうから、私 心配ですわ。」
優しすぎるのは長所で短所。
本当に上手く片付くのかどうにも不安が残ってしまう。
「そうでもないよ。頑固な所は頑固だから。」
だから任せておいて、と彼が言った3日後。
件の少女から、ラクスはライバル宣言をされてしまうことになる―――…
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キラの問題点=女性関係
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