双子とミーア
よく晴れた休日、キラとカガリは珍しく2人だけで街へと出かけた。
目的は買い物だったのだが、そこで見かけたのが つい先日公開されたばかりの映画のポス
ター。
中央に主演のラクス、そしてその隣には鏡映しのように並ぶ"彼女"がいた。
この作品の舞台は遠い未来。
主人公は偶然に 自分のクローンと出会う。
身代わりになるために生まれたという彼女に主人公は名を与え、自由に生きて良いのだと
諭す。
物語が進むにつれて徐々に明らかになっていく主人公の正体、それを支えたのがクローン
の少女。
後半で彼女は主人公を庇って死んでしまうが ラクスは彼女との約束を守り施設を崩壊させ
る。
恋愛要素はほとんどないが 女の子達のアクションということで話題を呼んだ映画だ。
――― 一部では主人公はラクスではなく彼女なのではないかとの噂もあるが。真相は定か
ではない。
「―――ホント そっくりだよなぁ。」
「そうかな?」
ポスターを前にカガリが感心して言うと、隣のキラはどこか不機嫌そうに答える。
「僕は全然似てないと思うけど。」
「当たり前じゃない。あたしはあたしだもの。」
「「!?」」
背後から聞こえた声に、2人はガバッと振り返った。
目深に被った帽子、髪の色こそ違うけれど、そこにいたのは紛れもなくポスターの。
「っ ミーア・キャ…ん!?」
驚いて大声を上げそうになったカガリに彼女はシーっと人差し指を立てる。
ラクスほどではないが、彼女も有名人。カガリは慌てて口を噤んだ。
今注目されているアーティストの1人 ミーア・キャンベル。
デビューはラクスの歌の中でも名曲とされる「静かな夜に」をカヴァー&アレンジした
「Quiet Night C.E.73」、
そして今年出した彼女自身が作詞した曲「EMOTION」もなかなかの売れ行きだ。
「カツラ被ってメイクしただけで、それであたしがラクス様になれるわけがないし。」
あっけらかんと言い放つ彼女は 何だかテレビのイメージともこの前会った時とも違ってい
て。
それは今の服のせいかもしれないと キラは思った。
ラクスならまず着ないだろう ジーンズと身体のラインがハッキリ見える短い丈のシャツ。
"カッコ良い女の子"の格好をした彼女は 顔はラクスに似ていても全く別人だと改めて知ら
しめる。
「そういう格好してるとイメージ変わるなぁ…」
カガリも同じことを思っていたらしく 思わず口に出てしまう。
それを聞いた彼女は明るく笑った。
「本来あたしはこっちの格好が好きなの。」
テレビのアレはイメージよ、と。
あぁ そうか―――…
ラクスは本人の趣味と周りのイメージが同じだからあのままなだけで、芸能界とはそうい
う世界なのだ。
自分の意志とは違うものが自分を支配する。
それは彼女に限ったことではなく、ラクスにも制限が在ることをキラは知っているから。
「―――…君は抵抗なかったの?」
そして浮かんだ疑問を、キラは彼女に向けた。
「何が?」
「君のデビュー曲はアレだし、ラクスのクローン役をすることでまた何か言われたりとかも
したでしょう?」
―――彼女の苦労を 僕なんかが理解れるはずもないけれど。
聞かずには、言わずにはいられなくて。
…聞いたところで何もしてあげれないと知っていても。
「うーん。あんまり気にしてないわ。」
少しだけ考えた後 予想外にけろっとした表情で彼女は答えた。
「確かにクローン役だけど、あたしはあたしとして演じてたし。」
「へぇ」
思っていたより彼女は強かったようだ。
第一印象が悪かったせいかもしれないが 過小評価していた自分をキラは改めた。
「そりゃ 最初はガッチガチだったケド。―――でも、ラクス様の言葉があったから。」
あれは役作りに悩んでいた頃。
最初 歌手志望なのにどうして映画に出なきゃなんないのと思ったけど。
会社の意向じゃ仕方ないし。ラクス様も同じだと思ったら少し楽になった。
―――でも それとこれとは別で。
役どころはラクス様のクローンだと言われて、だからできるだけラクス様に近づけようと
努力していた。
でもそれじゃ駄目だって監督に何度もダメ出しされて。
撮影所の隅で凹んでいたら、ラクス様が話しかけてきてくれたのだ。
「全く同じにする必要はありませんわ。」
ふわりと花咲くように微笑んで。
ずっと探していた答えを ラクス様はあたしに与えてくれた。
「同じならば私が二役すれば良いこと。貴女を起用したことにも意味はあるのですから。」
ラクス様だって映画の主演なんて初めてのことだったのに。
なのに、あたしのことまで考えてくれて。
「一緒に頑張りましょう?」
笑顔と、優しく髪に触れた手と。
忘れられない。
あの時自分は もう一度彼女のファンになった。
「あの時のラクス様 すっごいカッコ良かったなーv」
それは恋する乙女の如く。
ラクスと同じ深い蒼の瞳をキラキラさせて 彼女はここにはいない敬愛する歌姫に思いを馳
せる。
それがキラは少し面白くなくて眉を寄せた。相手は女の子なんだけれど、何となく。
「…ラクスは誰にでも優しいんだよ……」
口の中で転がしたその声は彼女まで届かなかったけれど。
「あ、いっけなーい! 午後からのレッスンに遅れちゃうわ!!」
キラの表情の変化には気づかず、腕時計に目をやった彼女は途端に慌てだす。
そして、じゃーねー と元気に手を振り彼女はまた風のように去ってしまった。
「結局なんだったんだ…?」
カガリの呟きは とりあえずキラも同感だったのだけど。
「……彼女をライバルにするのは カガリじゃなくて僕かな。」
「え゛っ!?」
ボソリと言ったその言葉に驚いて こちらを弾き見たカガリにはあえて何も答えなかった。
---------------------------------------------------------------------
KINGDOMではラクス>アスランなミーアちゃんです。
カガリの出番が少なくてごめんなさい…
BACK